「眺めのいいあなた」 土屋杏子 ☆☆☆☆☆
伊吹マヤ、ネルフ本部技術一課に所属。階級は二尉。
男の子の声が、彼女を呼び止める。碇シンジ、サードチルドレン。
自分から進んで行動することをしない、いつもその場とうわっつらだけで、人の目を見て話せない。
こんな少年が、エヴァのパイロット。
シンジはミサトと綾波がどうしているかを尋ねる。マヤは内心の不快を笑顔で覆って、その問いにこたえる。
「ありがとうございました!」
シンジ述べる感謝の言葉に、思わず目をそらすマヤ…
自分は、いつから人と目を合せられなくなったのだろう…
人類の運命を担う特務機関ネルフ。それは、こんな不安定な人々によって成立している。
自分も、この中にいる。
第拾四話〜第拾七話あたりか?
ひねくれ者集団のNERVの名前付きキャラの中で、比較的まともなのがオペレータ三人組であるが、日向(ミサトのおまけ)や、青葉(個人的なことはギター以外語られない典型的脇役)ではこーいった話は創れまい。
潔癖性の常識人、そしてNERVの非常に危うい中枢の一端を知る立場にある彼女だから成立する話である。マヤの語るNERVの壊れかけた人々、そして自分の立つその位置。本編の物語に関わり得ない脇役として、これ以上うまい使い方はあるまい。
マヤの一人称、彼女の独白以外の情報を極力切り捨てて物語は進行する。いさぎよいほどに情報を絞り込むあたりに、手慣れたものを感じる。作者は短編(ショートショート)に何が求められているのかをよく解っている。
優れた短編である。
星5つ。
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(c)Takahiro Hayashi
Last Updated:Sunday, 09-Sep-2007 18:42:44 JST