ディラックの海より
小説編・その1
西遊記
人魚姫
ピノキオ
アルプスの少年シンジ
人魚姫・続き
昔々の中国。人も通わぬ不毛の土地を、西へ西へとひたすら進む奇妙な一行がありました。
若くして高僧としての誉れ高い玄奘三蔵(cast:綾波レイ)、そして、暴れ者の斉天大聖 孫悟空(アスカ)、ビールさえ飲んでいれば幸せな猪悟能八戒(ミサト)、なにかと影の薄い沙悟浄(シンジ)の妖怪3人組みでありました。
彼らはサードインパクトを防ぐため、天竺にあるというありがたい「死海文書」をいただきにゆくのです。
しかし、彼ら一行の前には幾多の妖怪達が、その行く手を邪魔するのでした。
そんなわけで、彼らの行く手には金角・銀角と呼ばれる妖怪が待ちかまえていたのです。
「あれがうわさの三蔵法師ね」
「センパイ、あんな子供捕まえてどーするんです?」
「いい質問ね、マヤ。ワンフェスにどれだけの人が集まるか知ってる?」
「わんふぇすってなんですか?」
「ガレージキットの即売会」
「それと三蔵とどういう関係があるんです?」
「彼女を捕らえてクローンで複製して売りさばいて一儲けするのよ!」
「…そんなの買う人、いるんですかぁ?」
「ペパーミントや海洋堂が売り出した1/1モデルがどれだけ売れたと思ってるの! それにこっちは息してるし動くし体温まであるのよ!! 絶対に売れるわ!!」
「フケツ…」
なんか昔使ったネタのよーな気がするなぁ…
没。
人魚姫、綾波レイは、波間で一人の立派な身なりをした少年を拾いました。その少年は船から落ちて気を失っていたのです。
レイは彼、碇シンジに一目ぼれしてしまいました。しかし人魚と人間とでは所詮はかなわぬ恋、彼を助け、海岸まで運ぶと、レイは海の底へと帰ってゆきました。
<中略>
シンジのことを忘れられないレイは、魔法使いの赤木リツコ博士の所に相談に行きました。
「そうね、あなたのその若さと引き換えに足をあげることはできるわ」
「イヤです」
レイは即答しました。赤木博士のような年増になってシンジの前に出るのでは、まるで意味が無いからです。
「…仕方無いわね。じゃあ原作通りに声と引き換えにしておきましょう」
赤木博士は心底悔しそうにいいました。仕事に私情を挟み込んではいけませんね。
<中略>
そんなわけでシンジの城の客人としておさまったレイは、その物言わぬ謎めいた姿でシンジを魅了していきました。声を赤木博士に取られてしまったのが幸いしました。レイは海の底にいたころには平気で「ばあさん」とか言う遠慮の無い娘でしたから。
そんなシンジとレイを憎らしげに見る一人の少女がいました。隣国の姫でシンジの婚約者でもある惣流・アスカ・ラングレーです。
「なによ、シンジったらあんな女と仲良くして。これ、あの生意気な女を殺っておしまい!」
アスカは小姓のSASにそう命令しました。アスカは近隣諸国では音にも聞こえた武勇の持ち主だったので、いちいちやることが過激だったのです。
アスカの命令は忠実に実行されました。彼女の配下はとても優秀でしたから。
ところが次の日、レイは何事もなかったようにシンジの横にいました。アスカの小姓は必死に弁解しますが、頭に血の昇ったアスカは聞く耳をもちませんでした。
しかしレイはたしかに殺されていました。口さえきければ、
「私は三人目だから…」
と解説してくれるでしょうけど、今のレイは口がきけないので、だれも真実はしりませんでした。
え?計算が合わない?二人目なんじゃないかって?いえいえ、これで正しいのです。一人目は魔法使いの赤城ナオコ博士に向かって「ばあさん」と口走って殺されていましたから。
その日、アスカの小姓の顔ぶれが一新しましたが、それはまた別のお話。
<中略>
しかし結局はシンジとアスカの結婚が決まりました
アスカのアグレッシヴな政治工作が功をそうして、海に落ちたシンジを助けたのはアスカの船だったということになったからです。その中には、司法省と対決した時のマイクロソフトですら鼻白むような強弁もあったりしたのですが、結局アスカの主張した通りに話はまとまりました。
なぜなら、本気のアスカを止めることのできるような人は、この大陸には一人もいなかったからです。
レイはアスカが嘘を言っていることを知っていました。なぜならシンジを助けたのはレイでしたから。(彼女自身ではなくて二人目のレイですが、細かいことは言っこ無しです)
レイの足には、魔法と共に呪いがかけられていました。彼女の恋が実らなければ、彼女を死へと追いやる呪いです。もちろん赤城博士の嫌がらせです。若さをもらえなかったことを相当怨んでいたようですね。
今夜はアスカの船で明日の結婚式の前夜祭が行われていました。もちろんシンジのお客であるレイも招かれていました。けれど、レイはパーティの真ん中にいるシンジとアスカを見るのが辛かったので、早々にパーティを抜け出して、船縁から夜の海を眺めていました。
明日、シンジとアスカの結婚式が行われた時、それがレイの命の…
その時、レイは波間に人影が見えたような気がしました。いえ、それは気のせいではありません。そこにいたのはレイの姉妹…というか4人目以降の綾波レイでした。
4人目以降のレイは、3人目のレイに彼女の呪いを解く方法を教えました。短剣でシンジの胸をつき、その血が足にかかれば赤城博士の呪いを解くことができるというのです。
レイは迷いました。彼女はシンジを愛していました。しかし、それ以上に4人目以降達が赤城博士から聞き出してきたという呪いを解く方法を疑ってもいたのです。レイがシンジを殺してしまうところまでが、嫁き後れで年増な赤城博士の陰謀に思えたからです。
レイはシンジが幸せになるのならば、自分はどうなってもいいと思いました。しかし、あのアスカと結婚してシンジが幸せになれるでしょうか?レイにはそうは思えませんでした。
根拠は何もありませんでした。しかし恋する少女というものは、感情と思い込みだけで行動するものですから、これは仕方が無いでしょう。
レイは波間に浮かぶ4人目達に相談しました。そしてレイ達は人魚の秘宝、ガフの部屋を使うことを思い付いたのです。
波間からレイ達の姿が消えました。
船が大きくゆれました。海底から巨大な人影が浮かびあがってきたのです。
シンジやアスカ、その他の人達が船室から飛び出して来ました。そして彼らは見たのです。波間から姿を現した巨大な真白な少女の姿を。それは綾波レイ瓜二つの姿をしていたのです。
「両舷全速、面舵いっぱい! 奴に側舷を向けて! 第1から第3砲塔展開、主砲全力射撃準備!!」
アスカは取り乱すことも無く戦闘指揮を取っていました。レイはそんなアスカの横で呆然としているシンジを一瞥すると、波間にその身を躍らせたのです。
「ただいま」
『オカエリナサイ』
3人目のレイは4人目以降のレイ達と一つになりました。彼女の意識は波間からそびえたつ巨大なレイのものとなったのです。
彼女はゆっくりと両手を広げました。すると海面をひときわたかく蹴立て、海底から「リリスの卵」と呼ばれる大怪球が浮かんで来ました。この中に人魚の秘宝、人間を原始の姿へと返す「ガフの部屋」があるのです。
…こんな話、どーやって落ちつけるんだよ…
没だ没!!
綾波レイは赤木ナオコ博士につくられました。
作られた夜、レイの前に遺伝子工学の神が降臨して言いました。
「綾波レイ、お前の姿はATフィールドによって保たれている。しかし、嘘をつくとATフィールドはどんどん弱くなってゆき、ついにはお前の姿を保てなくなるだろう」
次の朝、レイは赤木博士に言いました。
「おはよう、ばあさん」
レイは二度と目覚めることはなかったということです。
…没。
題名からして没な企画かも…
クララ=アスカの場合
「アスカのいくじなし! そんなの自分から心を閉ざしているだけじゃないか! アスカなんかもう知らないよ!」
で、こっからどーするんだ…
没だな。
クララ=レイの場合
「レイのいくじなし! 自分に何も無いなんて、そんなこと言うなよ!」
「ごめんなさい…こんな時、どういう顔をしたらいいのかわからないの…」
これじゃ落ちないじゃないか…
没だ没!
アスカの砲撃も物ともせずに、巨大なレイは「ガフの部屋」を開いてゆきました。
シンジの前に綾波レイの姿が浮かび上がりました。
「レイ…」
シンジの呼びかけに、レイはシンジの頬に手をかけるとそっとキスをしました。シンジは金色の液体となってその場に溶け落ちました。その周りの人々も次々と金色の液体となっていきました。その跡には光の十字架が葬列のように立ち並んでゆきました。
そしてその光も、レイの手に持つ「ガフの部屋」に吸い込まれてゆきました。
金色の海に覆われた世界。そこにはレイとシンジの二人しかいませんでした。
レイには声が戻っていました。そこでの彼らの姿は実体では無かったので、赤木博士の呪いも届かなかったのです。
レイはシンジに告白しました。シンジを助けたのはレイであること、初めて会った日からずっと好きだったこと。これまで口にできなかた思いを、シンジの瞳を見つめて真摯に告白したのです。あ、それにアスカの悪口も少しだけ。
シンジはレイの思いに打たれました。そしてこれまでのことを謝りました。そして彼はレイに結婚を申し込んだのです。
考えてみれば、シンジがもう少ししっかりしていればこんなことにはならなかったような気もするのですが、結果よければすべてよしということにしましょう。
しかし、レイはもう人魚の姿に戻ってしまっていました。彼女の恋は成就しましたから、呪いはもう解けていましたが、「ガフの部屋」を発動することによって彼女は人の姿でいられなくなってしまったのです。
もちろん赤木博士のところに行くことも考えましたが、あんな陰湿な呪いをかけるような人です。今度は何をされるかわかったもんじゃありませんでした。
せっかくの恋が実ったというのに、レイはもう陸には上がれません。
そんなレイにシンジは言いました。
「私は陸に、君は海に住もう。会いに行くよ、船に乗って…」
こうして二人は末永く幸せに暮らしたということです。
…やっぱり没だな。
[ディラックの海より]
(c)1998 Takahiro Hayashi
Last Updated:Sunday, 09-Sep-2007 18:43:00 JST