『GenesisQ エヴァ小説掲示板』は何を生み出したのか −Progressive設立の経緯−

『GenesisQ エヴァ小説掲示板』は何を生み出したのか

 −Progressive設立の経緯−

99.03.16作成
99.08.01 リンクを一部修正
執筆・文責:林 隆博(hayasita@na.rim.or.jp

 このテキストは『GenesisQ小説掲示板が止まった理由』に対する補足と、『GenesisQ エヴァ小説掲示板』に対する個人的な覚え書きである。
 T.OKA氏の『エヴァFF狂騒曲 或いは 私が「このエヴァ」を始めた理由(わけ)』に対する補足も一部含まれる。
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 用語等は中田氏の『GenesisQ小説掲示板が止まった理由』に準じた。
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『GenesisQ エヴァ小説掲示板』設置の背景('96年9月〜'97年8月)
「Progressive」設立へ('97年9月〜'98年末)
「Progressive」とは何か('99年〜)


『GenesisQ エヴァ小説掲示板』設置の背景('96年9月〜'97年8月)

 設置についての直接的な発端は、『小夜曲発刊記念座談会』であると考えてよい。
 この座談会は、97年夏に、エヴァ小説作家ML内の分科会である、エヴァ小説ML出版部によって発行された、エヴァパロディ短編小説集『小夜曲〜Serenade〜』を記念して行われたものである。
 そもそも、エヴァ小説作家ML自身が、GenesisQ内に96年9月に設置されたQ会議室内の『EVA小説の部屋(後に『エヴァ小説情報処理第弐種』と改題)』を発端として生まれたものである。この流れから『エヴァ小説掲示板』もGenesisQに設置されることになった。

 まず、この座談会がどのような背景で行われていたかを、私の主観で述べてみたい。
 座談会を読んでいただければ解ると思うが、私はこの座談会には直接参加していない。しかし、その中に何度か私自身の言葉が引用されているように、ここに至るまでの過程についてはそれなりの関わりを持っている。
 この座談会で話されている内容は、当時のエヴァ小説作家MLの一部で持たれていた問題意識が色濃く反映されたもになっている。
 このこともあって、エヴァ小説掲示板にはその設立当初から、私(林)、中田(White)氏、Ssuzuki氏を始めとする、エヴァ小説MLのメンバーが幾人も参加することとなった。(但し、エヴァ小説掲示板はあくまでもnary氏個人が設置したものであり、エヴァ小説作家MLの活動の一環として行われたものではない。MLからの各参加者にしても同様である。ML内部には、このような行動に対しての異論もあったことを、特に付記しておく)

 当時我々の間にあった問題意識をいくつか挙げてみるとすれば、

といったものがあった。すなわち、『エヴァ小説』と呼称されるうちの『小説』の部分により傾斜してゆこうとする部分があったのである。
 これは『小夜曲〜Serenade〜』計画の立ち上げの時に、「オリジナル小説を収録するか否か」といった議論が行われたことからも伺うことができる。

 『GenesisQ エヴァ小説掲示板』の直接的な経緯については、中田氏の『GenesisQ小説掲示板が止まった理由』に詳しい。
 一点、エヴァ小説掲示板の過去ログの消失について補足がある。
 手元に残る資料によると、過去ログ消失は8月16日、その後17日から21日までの発言
件数は7件。その大部分は過去ログ消失に対するフォローと、掲示板システムの入れ替
えについてであり、議論そのものは停止したままである。
 中田氏の「掲示板が存在しなかった」という推論は正確では無い。しかし8月17日に管理者であるnary氏から、システムの信頼性に問題があるという理由で、伝言板の休止宣言が出されている。これは中田氏の「議論が断絶状態にならざるを得なかった」という推論を裏付けるものである。

「Progressive」設立へ('97年9月〜'98年末)

 エヴァ小説掲示板は書き手、読み手を問わないオープンな場所で行われた議論だった。当初は書き手側と読み手側の前提条件の開きが大きく、この開きを埋めるのに相当の労力を必要とした。これは参加した双方の努力の結果、ある程度の相互理解を実現することができたが、中にはそのような経緯をまったく無視して発言を行う人もあった。
 正直言って、新しく参加する人に対してそれまで行ってきた過程をいちいち繰り返していては先に進むことはできない。かといって議論をオープンな場所で行う以上、そのような参加者を始めから拒むことも難しい。
 エヴァ小説掲示板が停滞に陥ってから、私が再起動に積極的に行動しなかったのは上記のような理由からである。

 このころ、私が最も指向していたことは、エヴァ小説からオリジナル小説への移行であり、書き手の質的な向上を計ることであった。
 前者については、私個人はエヴァ小説以前からオリジナルを書いていたこともあり、特別身構えることではなかった。
 後者については一つのテストケースを持っていた。『袋叩きコンセプト』である。
 これは参加者から提出されたプロット・作品を、他の参加者が徹底的に突っ込みを入れてタコ殴りにするというものである。この過程で、作者自身に見えていなかった部分を他人の目から浮かび上がらせることが目的である。作者自身には、自身の思い込みから自明と思っているような部分が、読者側には伝わっていないことはよくあることだ。
 この手法は、その春に岐阜で行われたアマチュア作家を対象とした創作合宿において行われた、「プロット袋叩き」という企画からその有効性は証明されていた。
 ただ、この手法は叩く側と叩かれる側双方に了解があっても、無関係の第三者から手法自体に異を唱えられることがある。これは、エヴァ小説掲示板の経験からも明らかであった。
 正直、そのような乱入者を相手にするのは、目的からすればまるっきり時間の無駄である。そこでエヴァ小説作家ML内から有志を募り、クローズドな実験場を造ることになった。

 この構想は、9月半ばに「Pogressive」としてスタートした。
 ターゲットを97年末に行われるコミックマーケット53とし、創作短編集を出版することを直接の目標とした。この過程において、提出された原稿をProgressive内部で叩き合ってリライトするという形で、計画は進行した。
 スケジュールや進行の面での不手際がいくつかあったものの、この手法は作者に対するフィードバックとして有効に作用したと考える。この成果が同人誌『Progressive』である。

 同人誌『Progressive』はコミックマーケット53で無事に発行された。エヴァ小説ML出版部の『輪舞曲〜Ronde〜』と同時発行ということもあり、創ったはいいが、まったく見向きもされない、といった事態だけは回避できた。

 「Progressive」の活動自体はエヴァ小説作家MLから独立していた。しかし同時期にエヴァ小説ML出版部で『輪舞曲〜Ronde〜』が制作されていたこともあり、運営母体はエヴァ小説作家MLのままであった。
 『Progressive』の一応の成功から、活動の継続が求められることとなった。この際に責任と権限の明確化のため、運営母体を「ジャンク・ヤード」に移し、責任者と編集長を決定した。
 こうしてProgressiveの活動は、98年夏の『Progressive2』、冬の『Progressive3』と継続してゆくこととなる。
 98年夏には、『Progressive』は第27回日本SFファンジン大賞に参加した。もちろん名門たる『宇宙塵』、『PARADOX』、『SOLITON』等には及ぶべくもないが、活動の方向としては、同一方向を志向していると思う。
 結果は残念ながら選外であったが、99年も『Progressive2』『Progressive3』での参加を予定している。

 こうしてProgressiveとしての活動は軌道に乗ったが、エヴァ小説掲示板での活動を途中で放棄した私個人のふるまいに対して、エヴァ小説作家ML内で個人的に指摘されたことがある。
 たしかに活動を非公開の場所に移したことによって、外部からは単に活動を放り出したようにしか見えないのは一面の真実であると思う。
 T.OKA氏が『エヴァFF狂騒曲 或いは 私が「このエヴァ」を始めた理由(わけ)』で述べている『「批評的な言説は絶対反対」的発言の後、小説掲示板の発言者が急速に減り、事実上、活動停止状態になってしまったことです。』という見解は、水面下に潜った「Progressive」の活動(当時はエヴァ小説作家ML参加者以外には知られていない)を除けば間違ってはいないし、『「批評的な言説をすると怖い!」という印象を、エヴァFF界に与えた』ことになった遠因であることは否定しない。

「Progressive」とは何か('99年〜)

 Pogressiveは、基本的に書き手による書き手のための組織である。参加者には、同人誌『Progressive』には執筆していない参加者も幾人かいるが、小説の執筆を行わない純粋読者は一人もいない。
 これは外部から見れば閉鎖的に見えるだろうし、私もそれを否定しない。
 しかし「書き手の質的向上」という目標のためにはよい選択であったと思うし、成果も上がっていると思う。

 現在もProgressiveは活動を継続中である。
 活動の目的は特に明文化されていないが、同人誌『Progressive』の作成のみを目的としているわけではない。
 基本的なProgressiveの理念、『袋叩きコンセプト』を受け入れるのであれば、発表媒体や作品形体については規定されてはいない。同人誌『Progressive』以外を目標とした動きも出てきている。
 活動開始から1年半が経過し、そろそろ活動の形態を一度見直すときにきているとも思う。しかし『袋叩きコンセプト』だけは変わることなく継続されてゆくだろう。

 『宇宙塵』を始めとして、先達たる創作系同人誌からは幾人ものプロ作家が輩出されている。
 いつか我々の中からも、というのがProgressive代表としての私の目標である。


Copyright(c)1999 Takahiro Hayashi
Last Updated: Sunday, 09-Sep-2007 18:43:58 JST