3月5日(富士山)

「あなたもっと高い所をご覧なさい!!」

掌 ありがとうございます。
 それは忘れもしませんが、もう60年も前のこと、私が旧制中学2年生の時と記憶していますが、学校の教科書に載っていた話しです。
 それは或るアメリカの裕福な旅行者がいましたが、世界一周旅行を計画、世界地図を広げて眺めました。彼は山を見るのが好きでした。そして日本という国に「富士山」という美しい山があることを知りました。その頃は飛行機はまだ発達していない時代です。彼は日本国籍の太平洋横断の汽船に乗りました。
やがて船が駿河湾の沖まで来た時、彼はデッキに上がって双眼鏡で「富士山」を見ようとしましたが、緑の連山は見えるのに、肝心の「富士山」が見えないのです。彼は不思議に思って、通りかかった日本人の船員に聞きました。
 「確かにこの辺に来れば富士山が見える筈なのに、見えないのはどうしたわけかね、もしかしたらこの船は航路を変更したのかね」と。
 その時、その日本人の船員が答えた言葉が、私の魂の底にまで響いて忘れることが出来ないのです。彼はこう答えました。

 「あなた、もっと高いところをご覧なさい。Look up the higher place」

 私は時々新幹線に乗って東京・名古屋を往復しますが、晴れた日には「富士山」の秀麗な姿を見ることが出来ます。その度に、私はあの船員の言葉を思い出して一人で感動します。「もっと高い所」とは何処のことでしょうか。何千何百メ−トルの山の高さのことでしょうか。否々それは地上の山の高さではなく、「次元」の高さのことであると自分に言い聞かせています。
 現象は時として、心の影として、低い次元をもって現れることがありますが実相は無限に高次元です。
「もっと高いところをご覧なさい」とは「もっと高次元の実相を観じなさい」という言葉として、60年後の今の私の心には蘇って来るのです。