11月13日(あんべらしゅ暮らせよ おじいさんの最後のことば)
ぼーっとして、何を考えるでもなく、窓の外を眺めていたら、70年前のことが、ふーっと頭に浮かんで来ました。僕のおじいさんは数え年80歳で亡くなったのですが、その亡くなる前のこと、おじいさんの枕辺に、多分その頃小学校2年生の僕が、家族と一緒に座っていたら、突然おじいさんが目を開いて、はっきりとした声で言いました。
「あんべらしゅ暮らせよ」と。そして目を閉じました。この言葉は九州宮崎の田舎の、飫肥や油津あたりの方言です。方言とは言うけれども、これははっきりとした日本語です。それは「塩梅(あんばい)よく暮らせよ」という言葉です。
この言葉を最後として、おじいさんは黄泉の国へと旅立ちました。家族一同が集まって、おじいさんのお葬式を致しました。先ずお棺が運び込まれました。そのお棺は座って入るお棺です。おじいさんに正座してもらってお棺に入ってもらいました。おじいさんは焼酎が好きだったので、焼酎瓶にいっぱい焼酎を入れて左手に持たせ、使い慣れていた杖を、右手に持たせ、冬だったので毛糸の帽子を頭にかぶらせてお墓に運びました。
お墓では大きな穴を掘って、その中にお棺を入れ、土をかぶせて葬りました。こうしておじいさんは黄泉の国へと旅立って行きました。
今頃、なんでこんなことを思い出したのだろうかと、自分自身不思議に思うのですが、考えてみると、僕の年齢も、おじいさんと同じくらいになっているのです。あの頃の日本人の寿命としては、80歳というのは相当に長生きでした。近頃は長寿の人が増えてきて100歳以上の人が多くなりました。
実は僕の母は100歳で亡くなりました。父は90歳で亡くなりました。僕の家の家系は長生き型のようです。ですから僕も長生きするでしょう。150歳ぐらいかなと思っているのですが、どうでしょうか。
窓の外には ぽつぽつと小雨が降って来たようです。今日はこの辺で。さようなら。
