11月3日(一輪の花 つぶやく 峯夫のひとりごと)
ただ一つの花 それでも立派な花 この花が咲いた時 誰か視ていたのであろうか 観ていた人は 誰もいなかったのであろうか それでも花は 誰かに 見られようなどと まるで思わないで 咲いたであろう きっと。
唯自ずから 花は咲く ひとりで咲く。
青い深い秋の空 ただよう白い雲 その雲のこちらに 鳶が飛ぶ 嗚呼あの鳶は 昔の俺だ 俺はあの鳶のように 青空を飛んだ 操縦桿を右手のひらに そっと握って 飛んだ たまらなく愉快で 楽しかった
大きな声で 歌をうたった 「貴様と俺とは同期の桜 同じ航空隊の庭に咲く」 後席の原田博之君が 続けて歌うのが 伝声管を通して 聞こえてきた 「咲いた花なら散るのは覚悟 見事散りましょ 国のため」
しかし散らなかった さわやかに散る覚悟でいたが チャンスが訪れなかったから。
そしてそれから 61年後の今がある。
嗚呼 人生 まことにまことに 不可思議なもの。
見ていた空の白い雲は どこかへ 散っていってしまった 鳶もはるか彼方へ飛び去って見えなくなった。唯 澄み切った 青い空が 天空いっぱいにある。あの青い美しい空のように これからの人生 生きて行くのだ。
峯夫よ お前は ひとりごとを これからも ずーっと つぶやき 述べるのだぞ。 うん そうするか。
