エイプリルフールマジック

田村杏子 




「あんまりや・・・」
「・・・・・・・」
「こんなん詐欺やで」
「・・・・・・・」
「今、何月か知っとるか?4月やで?4月」
「・・・・・・・」
「エイプリルフールにしても冗談きつすぎや」
「・・・・・・・」
「いくら“花冷え”言うたかて限度があるっちゅうねん」
「・・・・・・・」
「せっかく楽しみにしてたのに・・・・」
「・・・・・・・」
「おい、さっきから黙ってないで何とか言えって!」
 クルリと振り返りながらのその言葉は子供の癇癪と同じような響きを持っていた。
 それにわざとらしい溜め息をついて、英都大学社会学部助教授の火村英生は読んでいた本をパタンと閉じた。
「な・・何やねん」
「言っていいのか?」
 小さな声の筈なのに、部屋の中に良く響くバリトン。表情の読めない顔に一瞬引いて、けれど大阪在住の推理小説作家有栖川有栖はコクリと頷いた。
「なら言わせて貰おう。窓を閉めろ。寒いし雪が吹き込む」
「!!!言いたい事はそれだけか!?」
「ああ」
「そうやないだろう!?大体君かて今日は花見をするって約束してたのに何で本なんか読んどるんや!」
「そりゃあ・・花見に向かない天気だから」
 クイと顎で示した窓の外は雪。しかも牡丹雪の横殴り状態だ。火村の意見はもっともで・・・そうあまりにももっともすぎて有栖はキッと目の前の友人・兼恋人を睨みつけた。
「何で雪なんや!」
「知るかよ。季節はずれの大型寒波にでも聞いてくれ」
 言いながら火村は長い指でキャメルを取り出した。
「4月なんやで!?」
「入ったばかりだけどな」
「満開の桜が可哀想だと思わんのか、君は!」
「おいおい、俺が降らしているわけじゃないぜ」
 そうして銜えたそれに火を点けて、ふぅと煙を吐き出すと火村は再び閉じていた本を開いて読み始めてしまう。
「花見をするっていうたやろ」
「・・・・これのどこが花見なんだよ。いい加減窓を閉めろ。部屋の中で雪だるまにでもなるってぇなら丁重にご遠慮願うぜ」
「せやって・・桜が咲いたら花見に行こうって誘ったのはそっちやろ」
「お前が桜だ花見だって騒ぐからだろ」
「下宿の裏が結構ポイントやて言うたから来たのに」
「仕方がないだろう?お前まさか本当に俺が雪を降らしているとか思っている訳じゃないだろうな」
 うんざりとしたような火村の言葉に有栖はフイと顔を背けて窓の外に視線を戻してしまった。その頭にはフワフワと綿雪がいくつもついていたりする。
「・・・・・」
 漏れ落ちた溜め息。全くとても同い年とは思えない恋人は時々自分には理解できない行動をする。大体こんな吹雪の中で桜の花を見てどうしろというのだ。
「・・ックション!」
 立ち上がった途端、窓枠にへばりついた有栖から派手なくしゃみが聞こえてきて火村は何としてもそこから引き離そうと誓って歩き出した。
「アリス」
「うるさい」
「いい加減にしろ」
「花見してんねん。言うたやろ。俺は今日しか出来へんの。次の締め切りが開けたら桜どころか藤も終わりや」
「いつからそんなに花好きになったんだ?」
「昔からや」
 かたくなに振り向かないその顔に火村はふぅと溜め息をつくとクルリと有栖に背を向けた。それを背中で感じて有栖は泣き出したい気持ちになる。
 頭の中ではこんな筈ではなかったのだと思っても今更後には引けない自分の性格が恨めしい。
(ほんまに熱だしたら洒落にならなんな・・・)
 判っているのだこれが無謀で子供じみた行動だと言う事は。
「!!」
 その瞬間フワリと頭から暖かな何かが被さってきた。
 それが毛布だと思った瞬間隣にドカリと火村が座り込む。
「もう少し向こうに行けよ。座れないだろ」
「なん・・」
「毛布も半分寄越せ。ほら」
 言いながら頭に被さっていた毛布が一瞬だけ奪われて、すぐさま座り込んだ自分と火村の身体に掛けられる。
「・・・ったく寒くてやってられねぇな。ビールは凍えるからコーヒーな」
 湯気の上がるマグカップ。
 渡された途端自分がどれだけ冷え切っていたのか思い知らされて有栖は何だか泣き出したいような気持ちになってしまった。
「・・・・へぇ・・案外オツなもんだな」
「・・何がや?」
「雪の中の桜ってぇのも満更じゃない」
「・・・・・・・・・・・」
 そう言われてよく見れば、淡い紅色が吹雪とも言えるような雪の中でひどく引き立っているように見える。
「・・・雪見桜やな」
「新語か?先生」
「いい言葉やろ?」
 フワリとコーヒーの湯気が揺れた。
 毛布にくるまれたままの雪見桜。
 悪戯なエイプリルフール・マジックにコーヒーで乾杯をして、もう一度純白の中の薄紅色に目を細めて、そうして次の瞬間、有栖は近づいてきた恋人の顔に桜よりももう少しだけ赤い顔で目を閉じた。


End/2001.04.01



きゃあ〜〜〜ッ!! 田村さぁーん、ありがとうッvv
もう、めちゃくちゃ嬉しいよぉ(≧▽≦)
あんなモンに、こんなにステキでラブラブで可愛いアリスが戴けるなんて…。ハゥ〜、みどりば幸せ満杯状態ですぅ。ホントにホントに嬉しいよぉ、ありがとねぇ〜☆ もう頬が緩みッ放しですにゃん。エヘエヘ…(*^-^*)
アリスってば、相変わらずめちゃくちゃ可愛いし可愛いし可愛いし…。う〜、このっ助教授の幸せモノッ!!
スーパー羨ましくて、こんにゃろぉ〜!!---なんだけど、アリスが幸せだから、イイか。季節外れの雪も何のそので、熱々ラブラブんだもん。ホントに羨ましすぎるぜ、助教授☆

砂糖菓子のように甘くてとってもステキな田村さんのヒムアリは、こちらで読めます