たまき
小春日和の陽気に誘われ、ちょっとした散歩気分に天王寺から環状線で1周しようと考えついた。JRは(JRに限らないかもしれないが)路線を重複して乗車しなければ(つまり一方通行であれば)運賃は最短距離でOKなのだ。ループ状に走っている環状線…東京でいうところの山の手線…(私は環状線の方が形態をよりよく表している点で合理的なネーミングだと思う。山の手線があるなら海の手線はどこやねん、とツッコミたくなるのだ)では、天王寺から隣の新今宮まで5分とかからない距離を、反対周りの電車に乗ることで同一料金で1周してくることができる。もっと時間が有れば、大和三山を車窓に奈良方面を含む一日がかりの旅もできる。但しこの場合は電車の連絡時間を前もって調べておかないと大変なことになるので注意が必要だ。
おっと、話題がそれてしまった。観光社会学講師を目指す私としては、もっといろいろ喋りたいことも有るが、こんなところでいくら喋っても原稿料はもらえない。
本題に入ろう。
平日のうららかな昼下がり…だとばかり思っていた。
しかし、私の知らないうちに世間様では春休みなどという行事が進行中で…
何年ぶりかで満員電車の醍醐味を嫌というほど味わうことになった。
大阪ドームと大阪城ホールの両方で、イベントだかコンサートだかがあるらしく、その上に車両事故まで重なって、車内は鮨詰め状態。幸い座席についていた私だが、こんな状態では目的地で下車することなどできるかどうか怪しいものだ。別に急ぎの用事があるわけではないから、いいけれど。しかし人が多すぎる。しかも若い女性が目立つ。男性アイドル(死語か?)のコンサートでもあるのか、こんなに大量の女性を目にしたのは何年ぶりだろうってほどだ。
彼女達の唇を彩る鮮やかな朱やピンクが、時として凶器になるのをご存知だろうか?サラリーマン時代、満員の通勤電車が揺れた拍子に、ペットリと襟元につけられた口紅を落とすのに苦労した。ハイヒールの踵で思い切りつま先を踏まれたこともあったっけ。彼女達の長い髪が頬に触れて気持ち悪い思いをしたことも、痴漢に間違われないように両手でつり革にしがみついていた事も、今となっては懐かしい思い出だ。
おやじのように過去を振り返っていたところで電車が停車し、スライドしたドアの向こうから、おいおいまだ乗ってくるんか、とうんざりするほどの人間が押し込まれてくる。もちろん、その力は車内の人間にも作用して…
「きゃっ!」
私の目の前に立っていた妙齢の女性が、勢い余って倒れこんできたのだ。
どこにって、そりゃぁもちろん私の膝に。
「す、すみませんっっ!」
彼女は慌てて立ち上がろうとした。けれども、前に倍する勢いで再び私の膝に押し戻される。
うら若き乙女は真っ赤になって、なんとかこの窮地を脱しようと、立ち上がり際に身体の向きを変えた。しかし…今度は後ろ向きに、私の膝に座り込む形で押し付けられてしまったのだ。
「…………」
「…………」
彼女も戸惑っただろうが、私だってパニックだ。この、膝の上の私の手はどうすればいいのだ?
ヘタに動かしたら彼女のヒップを撫でまわすことになる。席を替わってやろうにも、この状態で不用意に身動きすのは避けるべきだろう。だがそれなら、このまま私の膝は彼女の指定席になってしまうのか???
ああ、だけど…柔らかい感触だ。鼻孔をくすぐるのは香水か?それとも化粧品の匂い?
嗅ぎ慣れた香りとはまるで違う、柔らかくて甘くて優しい香り。
私の心の奥で何かじわ〜んと広がるものがある。
ちょっとヤバイかも…。
天の助けか、その時大阪城公園に到着し、車内に詰め込まれていたほとんどの人間を吐き出した。件の彼女もまたしかり。恥ずかしそうにぺこりと頭を下げて逃げるように去っていく。
白いセーターにつつまれた二つ丸い岡が目の前で揺れて…
(ええなぁ〜〜〜)
まるっきりオヤジになって鼻の下をのばしてしまった私だった。
「……何やってんだよ」何度注意してもベッドでの喫煙を止めない男が、咥え煙草のまま私の頭を抱き寄せた。
「いや、やっぱりかたいなー思うて」
数年来の友人にして恋人である男の名前は火村英生。ヤクザな外見からは想像もできないが、母校である某私大で助教授なんていう固そうな職業を生業としている。
「ぺっちゃんこやし」
「あたりまえだろ。男なんだから」
つれない助教授殿は私の手を胸から払いのける。
「ふう〜」
「なんだよ。おかしな奴だな」
私は黙って火村の唇からキャメルを取り、一息だけ吸ってすぐに返した。
「なあ、もっとやらかいもん触りたいと思うたことない?」
火村は又私がわけのわからないことを言い出した、とばかりに顔を顰める。
毎度毎度失礼なやっちゃでホンマに。
「もっと豊満な胸に顔埋めてみたいとか思わん?」
「…おまえはそうしたいのかよ」
「君はしたないんか?」
ぽよぽよ柔らかくてすべすべのお肌。思わず頬擦りしたくなるではないか。
「今慌ててしなくったって、いずれ運動不足のアリスは腹も出て、おっぱいもでかくなるだろうからな。その時にだぶついた柔らかい贅肉を触るからいい」
「なんやねんそれ。俺が言いたいのはそういうことやのうて…」
「なんだよ。したりねぇならいくらでもしてやるぜ!」
「って、火村っ!そうやないっちゅうとんるんじゃ!」
「うるせえっ!」
情緒も何もあったもんじゃない。このっ、ど助べえオヤジっっっ!!!!!
火村と私の関係は、まだまだ世間一般に認知されるようなものではないにしろ、お互いに納得しているわけだし、別段不満もない。あるとすれば奴が絶倫すぎるというくらいだ。体力に物をいわせてこちらの都合などおかまいなしに事を進めるのはどうかと思うが、そんな時は後でちゃんとご機嫌とりをしてくれるし。この時とばかりコキ使えるのでそれはそれで楽しかったりする。
けれども、やはり私も男だったということだ。
甘い異性の魅力には素直に反応してしまうのは自然の摂理であり、まだ私にもそういうところがあるのだなぁ、というくらいの軽い感慨でししかなかったのだが…
そんな素直な感情を吐露するには、相手が悪すぎた。
「ほれ。どうだ、アリス」
我が目を疑わずにはいられなかった。全身に金縛りが走る。
瞳孔が極限まで開ききり、呼吸困難にさえ陥った。
「おまえの望みどおりだろ。触ってみろよ」
…………こいつ、絶対、腐ってる!!!!!
ベッドの上には火村の姿 ―――その胸でぷるんぷるんと震えている、アレはいったい???
「Fカップだそうだぜ」
蒼白になりながらも訊ねずにはいられなかった。
「それ、どないしてん?」
自分のものと思えないほど、その声は上ずっている。
あたりまえだ!
Fカップの巨乳をゆっさゆっささせている火村だなんて………想像したくないだろう、誰も!
「買ってきたに決まってるじゃねえか。いくら器用な俺でもこんなもん作らねぇよ」
…そりゃあそうだろう。しかし、どこで?
いや、それよりっ!
いったい、どんな顔して買うてきたんや〜〜〜っっっ??????????
「限りなくホンモノに近いさわり心地らしいぞ」
頼むから、そんなものを素肌にくっつけたまま身体を捻るのはやめてくれっ!
「せっかく買ってきてやったのに、嬉しくないのかよ」
嬉しいわけがないだろう。何を考えとるんじゃ、どアホっ!!!
Fカップのオッパイをぼよんぼよんさせながら話しかけるな!気持ち悪い!
「なんだよ。おまえ、でっかいおっぱいが好きなんだろ」
誰が、いつ、そんな事を言うた?!
ボインの火村なんか見とうないわっっっ!目が腐ってまう!
「さあ、遠慮なく、俺の豊満な胸の谷間に顔埋めてくれ」
こいつ、こいつ、こいつぅぅぅぅ〜〜〜っっっっっ!!!!!!
なんちゅう悪趣味な嫌がらせや〜〜〜っ!!!
それが大学助教授のする事かっっっ!!!
このっ、超ウルトラ・スーパー・スペシャル・どヘンタイっっっ!!!!!
けどまあ…
これもこの屈折しまくった男の嫉妬の現れかと思うと、可愛い気もする。
みてくれだけは一人前のくせに、ほんまにガキやねんから。
ここは大人の余裕ってのをみせてやるか。ふっ。
しかし―――
火村の買ってきたアイテムはそれだけにはとどまらなかった。
「ひっ、火村のボケぇぇぇぇっっっ!ど変態〜〜〜っっっっ!!!!!」
それからの数日間――下僕と化した火村がヘロヘロになるまで、思いつく限りありとあらゆる雑事にコキ使ってやった事だけはここに明言しておこう。
End/2001.01.14
たまきさぁ〜ん、ありがとぉーーーー!! 殆ど押しつけ状態のあんなモノに、こんなスンばらしいお話---ププッ。もう大爆笑させて頂きましたーぁッ(*⌒O⌒*)ヽ Fカップの火村!! Fカップの火村☆ Fカップの火村ぁ〜♪ヽ(^o^)ノ 衝撃っちゅうか、見たいような見たくないような…。私、己の想像力が貧弱だったことを、今日ほど良かったと思ったことはありません(笑) 嫉妬していると言えば聞こえはいいが、う〜ん…壊れているゾ、大学助教授。でも、壊れてる火村が好きッ! お気が向かれましたら、壊れてる火村をまたぜひplease!! ところで、(変態の)火村が買ってきたFカップポイン以外のアイテムって何ですかぁ!? みどりば、乙女だからわっかんなぁ〜い(=^.^=) |
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