【資材部編】運動会の思い出
平成21年8月7日


和40年代の後半頃と記憶していますが、従業員全員参加の運動会が企画されました。 当時の会社は方々に工場が分散していて、同じ会社の社員であっても工場の場所によっては全く交流のない工場もあって、その弊害を無くす意味もあって全員参加の運動会が行われたと記憶しています。夫々の工場単位でチームが結成されて、競技種目ごとに選手が選ばれたり、又工場毎の演出、飾り物も企画されて終業後担当者がその作成に汗を流して準備に熱中している姿が方々で見られるようになった。と此処までは誰でも想像出来る楽しみの風景ですが、中には全く渋い顔しているグループもおりました。 その渋顔グループの大将が実はこの私であったんです。
◆1万人分の弁当を作ってくれ!
当時の従業員数は男女合わせて約5千人程でした。社員一人と同伴者一人にお昼のお弁当を配り、5千人分のお菓子袋も用意して配るとの案が出されて、その手配全てを資材部にいるH君、君が担当してくれの「鶴の一声」で、いやもおうも無く、やる事になりました。
お昼の弁当を1万個ですよ!鉄鋼、樹脂、電気材料、等々の調達ならそれこそ人に言われる前に任してくれと名乗りを挙げますが、弁当1万個となると・・・?すぐ思いついたのは名古屋駅の駅弁屋のM商店、あそこなら何とかなるだろうと、悩むより先ず突撃だと、早速に名古屋駅に行ってM商店の責任者に強引に面談、かくかくしかじかで当日9時までに1万個の弁当を届けて欲しいと説明したら、まじまじとこちらの顔みて、「粘土細工でも半日で1万個なんて出来ません」とあっさりと断られてしまった。 そりゃ当然でしょう。会社の名前は知っていても今迄何の取引も無く、藪から棒に突然弁当を1万個も作ってくれと言われれば断って当然でしょう。その頃になりますと資材部でも「海千山千」のベテラン?ですから、いわれて、はいそうですかと引っ込むほど純ではありません。何をどう話したか記憶にありませんが、覚えているのは先方の責任者が根負けしたのか、「弁当の作り方、保健衛生上の問題点、コスト等々具体的な話まで展開して、M商店とその協力会社分を含めて供給可能弁当数はXXXX個で 不足分は、A社、B社に頼んでみたらと紹介までしてくれた。 その中の一社で豊橋にある老舗のT屋さんに行って、同じように説明交渉したら、何とか引き受けてくれてこの2社で1万個の調達見込みがついてほっとしたが・・・・。

◆受け入れ体制
肝心の我々の方の準備が殆ど出来ていなかった、というより誰も引き受け手がいなかったのが真相、 そりゃそうです、弁当係りになると朝5時過ぎには瑞穂グランドの各工場の指定場所に集合して、9時開場と同時に押し寄せる従業員と家族一人ひとりに弁当とお菓子を渡さねばならない、それが弁当支給締め切りの11時まではその場所を動く事も出来ず当然運動会会場には入る事が出来ないし自分が出場も出来ない、完全に裏方さんとなるのだから誰も喜んで引き受けるわけはない! 大体私自身も、弁当調達の目途が着いたのだから交代してくれと言う気持でいたんですから、誰もが嫌がるのは当然!でも誰かがこの貧乏くじを引いてくれないと弁当が宙に浮く、 そこで心を鬼にして、いや鬼以上の「閻魔様」にして各工場の労働組合の責任者に説明して、何人かを出してもらう事にしたが今思い出しても「嫌な仕事」だった! 自分が嫌だと思ってるのを、人に押し付けるんですからこんな辛い話はない!選出された(貧乏くじ引いた)数十人を集めて休日に瑞穂グランドで説明して、実際に来たとしての仮想演習をやって貰ったが、皆な嫌な顔もせず動いてくれて本当に有難かった。
◆弁当の試食
先程から弁当、弁当と騒いでいますが、一体どんな中身の弁当であるかは、社員旅行の幹事役をやられた方ならすぐ想像出来ると思いますが、「誰からも褒められもせず、けなされもせず」「食中毒を起こす危険性の低い」「手軽に何処ででも食べられる」「それでいてコストは低い」そういった条件を満足させるのは、そうです、その通りです。「お稲荷さん」しかありません。
注文決定する前に当然試食があります。私と各工場の代表者数人が、昼食時にその試食をしました。 これで良かろうと判断したら、次は会社の「うるさがた」にも試食を御願いする、当然私も一緒。 さらに社長を含めた重役陣にも試食を御願いする、と言った繰り返しで最初は美味しかった「お稲荷さん」も回を重ねると、もうその姿とにおいを嗅いだだけで食欲喪失。。。でも皆なの前で不味いとは言えませんので、我慢してお茶で流し込んだ・・・
暫くは「お稲荷さん」の言葉を聞くだけで,胃がキュ〜となりました。 甘いの辛いのと言われるのは序の口、もっと豪華な弁当にせよ、幕の内にしたらどうか、中には「サンドイッチとコーヒーが良いとかなんとか、弁当一個の予算がXX円でそんなものが出来ますかと反論したいのを胃の中に押し込んで、右の耳から左の耳に聞き流し面従腹背そのもので、ほんまに苦労しました。クイモノのウラミはおっかないぞ。

◆弁当が余ったらどうするか
どっかのコンビにでは時間切れの弁当は廃却するそうですが、当時はそんな「罰当たり」な事は考えもしませんでしたが、実はこれは深刻な問題だったんです。  5千人とその同伴者で合計1万人が全員きてくれれば、余る弁当は無しの計算ですが、絶対にそんな事はありえません。 11時の弁当支給締め切り後、10個や20個くらいの余りなら処分できますがこれが100個以上になりますとそう簡単に処分できません。 色々協議検討の結果付近の施設の方々に食べていただくように御願いしました。 11時半までには施設の方に個数をお知らせと同時に搬入しなければなりません。  各工場の担当者から11時締め切りと同時に残数の確認をしてもらい、予定数が残っているかどうかで施設と連絡打ち合わせして搬入するといった綱渡りをやりました。 おかげで廃棄するような勿体無い事をせずに済みましたがまだこれには裏話があるんです。  各工場で競技進行を支えている裏方さん達は弁当を貰いに来る時間が無く結局2時近くなって「腹減った、弁当くれや」とやってくる、中には一個じゃ足りないからもう一個欲しいとくる豪傑もいる・・・と予想してXX個は最低残して置きましょうと提案してくれた現場のA君の説に従って残しておいたら、その通りの現象が起きて皆なたまげた。どうしてA君はそれが予想できたんだろと聞いたら、彼は自分の住んでいる地区の合同運動会の役員をやってその時に弁当の数で散々苦労した事が今回の予想に繋がったんですと説明を聞いて、全部持っていかなくて良かったと皆が胸なでおろした次第でありました。

◆お菓子5000袋の調達
これは案ずるより生むがやすしの通りで、これは某デパートの外商にその道のベテランがおられて、予算はXX円ですと連絡したら、すぐそのサンプルを作ってきてくれた。聞けば名古屋の北区に駄菓子屋専門通りがあって、どの様な詰め合わせでも予算次第で個数制限無く受注可能ですとの事だった。 このサンプルは、腐るものでもなく、昔懐かしい駄菓子の部類から簡単なキャラメルやチョコまで入っていて、見ただけでも楽しかった。有難い事にこれは試食する必要性がなく、いろいろな種類のサンプルの最終処分は全て女子社員に一任となって、彼女達から多いに喜ばれたし、運動会の当日も子供達からも喜ばれた。ただ不思議だったのは弁当はある程度予測した数量が残ったがこのお菓子の袋は何処の工場でも「残数ゼロ」との連絡が来た事と後で欲しいと言って来た人もいなかった事だった。 どうやって見事にゼロにしたか今でもわかりません。
というような事をやって、最終の後始末が終了する頃、競技場の競技種目も終わり中では閉会式・・・結局我々弁当係りは、競技場の歓声を聞いていただけで中に入る事も出来ず一日中外にいました。 そんな事で、昔運動会やったなあの思い出話は、弁当だけで華やかな入場式も競技も何もしりませんでした。 はい、遠い遠い昔昔の物語です。