摂餌忌避がみられた100および200 ppm群の0〜1週では,200 ppmの雌雄は顕著な食餌効率の減少を示したが,100 ppm群の雌雄では食餌効率は逆に増加していた。しかし,これらの動物の2週以降の食餌効率は,200 ppm群の雄の6〜9週以外のすべての検査時期で対照群に比較し低い値を示していた。この変化は投与が進むにつれ概ね程度が強くなる傾向があった。したがって,本被験物質の動物の体重および摂餌量に対する影響は,投与開始直後の摂餌忌避に加え,直接的な毒性も含むものと考えられた。
100および200 ppm群の動物においてみとめられた心臓,肝臓,腎臓,脾臓ないし副腎の絶対重量の減少あるいは脳,心臓,脾臓,副腎,精巣,精巣上体ないし卵巣の相対重量の増加は体重増加抑制による二次的な変化と考えた。制限給餌により体重を70から90%低下させたSDラットにおいてこれらの臓器重量が変動することが報告されている(3。
100 ppm以上の投与群の雄では尿色が有意に濃くなり,尿量が有意に減少した。雌においても統計学的有意差はなかったものの尿量は減少する傾向がみられた。本試験では摂水量の測定は行なわなかった。しかし,制限給餌により体重増加を抑制した際に摂水量および尿量が減少するということが報告されている(4ことから,本試験の動物でも摂餌量減少に伴い摂水量が減少し,その結果尿量の減少および尿の濃縮が引き起こされたものと推察した。また,200 ppm群の雌雄において尿中ビリルビンが有意に増加したことも尿量の低下による見かけ上の変化である可能性が考えられた。100 ppm以上の投与群の雌雄で見られた無機リン,ナトリウム,カリウムないし塩素の増加もこの尿量減少による尿性状の変化によってもたらされたものと推察した。
20 ppm以上の投与群の雌および100 ppm以上の投与群の雌雄で肝臓の相対重量が増加した。病理組織学的検査では,100 ppm群の雌雄のそれぞれ5および7匹ならびに200 ppm群の雌雄全例の肝臓にびまん性肝細胞肥大が観察され,肝臓が被験物質の標的臓器であることが明らかであった。100 ppm群における本所見の程度はすべて軽度であったが,200 ppm群では雄8匹および雌4匹で中等度の病変が見られ,この病変の発生に用量相関性があることが示された。100 ppm群の雄では肝臓の相対重量に有意な増加がみられなかったが,その値は105%であった。制限給餌により体重増加を抑制した実験において,本試験の100 ppm群の雄と同程度の体重増加抑制を起こした動物では,肝臓重量は絶対重量で対照群の60ないし69%に,相対重量で95ないし81%に減少することが示されている3),4)。したがって,本試験の100 ppm以上の投与群の動物で肝臓の絶対重量の減少の割合が比較的小さく,相対重量に減少がみられなかったことは,被験物質の肝臓への影響を示すものであると推察した。