やろうと思えばやれる,と言う話である。

その動物飼育室には,雄が約50匹と雌が約100匹飼われていた。
基本的に雌雄は別に飼うので,雄は1ケージ5匹ずつ10ケージで16ケージ収納可能なラックに入れられており,雌は20例ずつ,4ケージをぶち抜いた特製ケージに2ラックに分けて飼育されていたものである。
ラックというのはケージを入れておく棚のようなもので,床からは50センチほど離れたところから4段棚ができている。
足は四本あるが,それぞれにタイヤがついていて可動式であり,設置している間はこれにストッパーをはめて動かないようにしている。
雄のラックと雌のラックは部屋の壁につけて対面して配置してあるから,ラックとラックの間には約4メーターほどの空間がある。

ある朝,動物管理に入った人間が,各ケージの動物のチェックをしているうちに,雄が一匹足りないのに気づいた。
ふたのしめかたが悪くて逃げ出したものと思われた。
驚いたその人間は,雄のケージをすべてチェックしたが脱走動物はいない。

まさかと思いつつ,約4メーターの空間をはさんで対面している雌のほうのケージを見たところ,ひとつのケージの蓋がずれていた。そして案の定,中には雌の間に体をもぐりこませ,ぬくぬくと丸まっている脱走野郎がいたのである。

いい根性である。
雌のフェロモンを頼りに,ケージから脱出し(その動物のケージは下から2段目の棚だった),ラックの足を伝って床に降り,再び足を伝って雌のラックによじ登り,さらにケージに侵入したものらしい。
受託試験に用いている動物ではなかったので多少管理体制が甘く,ケージもぼろいのを使っていたせいか,雌のケージのふたが外から開けられたのだろう。

脱走野郎はそれなりの処置を受け,各ケージが再点検され,動物室には平和が戻ってきた。
雄の侵入したケージの雌は,それを所有している研究員が大雑把な性格だったこともあり,その後の観察も大してされずにそのまま維持されていたのだが。

それから約三週間後。

誰しも内心予想していた結果が起こった。

ぴぃぴぃと子供の声がし始めたのである。

さすがの所有者もその報告を受け,ほっとくこともできずに動物室を調べに行った。

雄が侵入した雌のケージの動物のうち,8例が哺育を開始していた。
それぞれにケージのすみのほうに巣を作って大量に子供を生んでいる。

ところで,ラットの性周期は4から5日間である。
したがって,20匹の雌がいたら,確率的にはそのうちの4から5匹が発情期と言うことになる。
かの雄はラッキーだったのかもしれない。
発情期の雌が確率的な数の二倍いたのである。
そして,それすべてとやった上,作っちまったのである。

しかし,それだけでは話はすまなかった。
雄がぬくぬくしていたケージの上下のケージでも,ガキ生んだラットが数匹ずついたのである。

上下のケージはふたも緩んでおらず,絶倫ラットが侵入したとは考えにくい。

ということは,である。

小指一本突っ込めるか否かと言う金網越しに…なのである。

絶倫雄ラットは絶倫であるのみならず,アクロバットプレイの達人だったようなのである。

この事件から,かのラット所有者は新たな知識欲に目覚めた。
現在彼は,発情期の雌と雄を同一ケージに入れ,間に金網をいれて交尾が成立するかを熱心に検索している。

すでに10回以上試してみているが,成功者はいまだいない,そうであるが。

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