Love somebody tonight
シャワーをあがったばかりのときに電話のベルがなった。誰からかって言うのはわかっていたから、タオル頭にかぶってパジャマを引っ掛けて、いそいで電話を取った。
いつものように彼女は少し酔っている。そしていつものとおりわたしはあいずちを打つだけで、彼女は泣きそうな声で話す。聞いてあげるだけでいい。彼女が自分で答えを出すまで付き合ってあげればいい。
ぬれていた髪が、クーラーの風にあたって乾き始める。少し、寒い。
そして今夜は、電話の向こうはいつもの彼女と少し違った。
「これから彼の部屋に行ってくる」
いくらか強い声で、彼女は言い始めた。
「行くの?これから?もう遅いよ?それに…帰ってるのかな?」
まず帰ってないだろう。今日は金曜日。時間は22時を回っている。彼にはステディがいる。帰っていたとしても、一人ではない確率の方が高い。
「電話は、したんだね?」
わたしが聞くと、彼女は即座に否定した。したら、会えない、と。
彼女は馬鹿ではない。直情型でもない。ただ、追い詰められている。
自分が彼を好きだという、その想いに追い詰められて、疲れ始めている。
だから、終えたい、のである。
彼女はそうは言わない。自分の気持ちを伝えるだけだと、そう表現する。
でもわたしも、そして彼女も、そのあとは確実に予想がつく。「そっか。じゃ、行っておいで。」
「後で電話するかも。」
「いいよ。起きてるし。気をつけてね」
「ありがと」
彼女ははっきり言うと、電話を切った。
わたしは半ば乾いてしまった髪をタオルでもう一度拭きながらベッドに腰掛ける。
わたしも恋をしている。
恋をしていることすら相手に気取られないように。
恋していると言えば、大事な親友を失うから。
向き合って触れ合う相手よりも、肩を並べて同じ方向を見て話せる相手が今は心地よい。
ただ、わたしの心の奥の何かが、たまらなく彼に恋している。彼女の電話を待ちながら、わたしは彼女より臆病なだけなのかもしれないとふと思った。
彼女は今ごろどうしているのだろう。泣いているのか、笑っているのか。電話はいつになるかわからない。ベルは鳴らないのかもしれない。
まだ夜は長い。時間はたっぷりある。
こんな夜は、ちょっとだけ心を開放して、友達でない彼を思うぞんぶん恋してみよう。彼を恋している自分を、ゆっくりと想ってみよう。夜はゆっくりふけていく。ずっと身近にいるけれど、まだ見たことのない彼、知らない誰かを恋しているわたしを包み込みながら。