第3話 上級編 『達成』
自分の店を守りきり、その上臨時収入まであったとあって、菜々美はご機嫌だった。
「はぁー、お金を数えるのってなんて幸せなんでしょう。(ハァト)」
菜々美はさっき拾い集めた硬貨を一枚一枚数えていた。
「菜々美さん、アレーレさんがあの恥ずかしい格好をしてくれるそうです」
「アレーレが?」
「はぁい。私、菜々美お姉様のために戦いますわぁ」
アレーレは菜々美にすりすりする。
「へえ。そんじゃあこれあげるわ」
菜々美はアレーレに変身のためのお玉を渡した。
ロシュタリア王宮の中庭のとある物陰。
「あぁっ、クァウール様!」
「パルナス、何をするのっ!?」
「クァウール様、クァウール様っ!!」
パルナスは少年の体を少女の体に必死にこすりつける。少女は草むらにあお向けになっていた。
がいんっ!
突然何者かがパルナスの後頭部を強かに殴りつける。
「あいたぁ! 痛いじゃないか!」
「パルナス! 私を差し置いて、クァウールお姉様にいいことをするなんて、この私が許さないわ!!」
パルナスが振り向いた先にはアレーレが仁王立ちでいた。
「ア、アレーレ! なんて格好してるんだ!」
前半分はウエイトレス姿。後ろは背中とお尻が丸見え。そんな姿でアレーレがいた。
「ええい! 天誅!!」
げいんっ!!
「ぎゃんっ!!」
アレーレの一撃をくらって、パルナスは昏倒した。
「さぁー、クァウールお姉様。私がその火照った体を沈めてさし上げますわ」
アレーレはクァウールににじり寄る。クァウールはあお向けのまま、アレーレから離れようとする。
「ア、アレーレ、何をする気なのですか?」
クァウールの顔には恐怖と不安が混じった表情が浮かんでいる。
「うふふ。いいことですよ。(ハァト)」
妖艶に微笑むアレーレ。こういったことに鈍いクァウールでも、自分の身に危険が迫ってきているということは容易に察知できた。
「アレーレ! そんな格好で恥ずかしくないのか!?」
突如として、パルナスが復活した。
「あらパルナス。最近打たれ強くなったわね」
「こんな恥ずかしい格好をして、アレーレは露出狂だったのか! なんて恥ずかしい姉なんだ!!」
パルナスはアレーレの背後から彼女のお尻のTバックを引っ張った。
ごぎんっ!!!
「ぎゃふん!!!」
アレーレの痛烈な一撃によって、今度こそパルナスは昏倒した。
「見られて恥ずかしいような体はしてないわっ!! ――さぁー、クァウールお姉様、いいことしましょうねぇ。(ハァト) …………あーっ! いない!!」
おろおろと周囲を見回すアレーレ。しかし、パルナスの体が転がっているだけで、クァウールの姿はない。
クァウールはさっさと逃げてしまったのだった……。
そんなこんなで平和な時間が流れ、謎の少女の正体がばれることもなく、アレーレは手に入れた力でパルナスをどつきまわしたり、お姉様たちに過激なアタックをかましたりしていた。
そんなある日、バグロムが侵攻してきた。
「アレーレ! バグロムと戦ってらっしゃい!!」
「はい! アレーレ、行ってきます!! そのかわり菜々美お姉様、バグロムを追っ払ったあかつきには私といいことしましょうね。(ハァト)」
「え?」
菜々美の顔がひきつる。
「たっぷりご褒美して下さいね」
菜々美に擦り寄るアレーレ。
「あ……そのぉ………」
今ここでアレーレの機嫌を損ねるわけにはいかない。菜々美はとっさにそう思った。しかし、下手な約束をするわけにもいかない。
「ま、まあ、がんばりようによってはね……」
「菜々美お姉様、バグロムを追っ払ったら私といいことする約束ですよ」
アレーレはきっちりと約束を取りつけようとする。
「いやぁ……そのぉ……」
考えてみれば、アレーレはファトラの侍女なのだ。交渉術くらい持っていても不思議ではない。
「い、いいことって、一緒にお茶を飲んだりすることかしら?」
ぎこちない笑みを浮かべつつとぼける菜々美。
「いいことっていうのはですね、菜々美お姉様――」
アレーレはいいことの内容を具体的に分かりやすく説明する。
「あ、あーら。おやつあげるから、そういうのはなしにしなさい。ね? ね? ね? ――あれ………あーっ、アレーレ!!」
「菜々美お姉様、バグロムを追っ払ったら私といいことする約束ですからねーっ」
アレーレは菜々美との交渉を一方的に切り上げて、バグロムの飛行艇へと走っていった。
「私はあんたといいことなんかしないからねぇーーーっ!!」
菜々美の絶叫は虚しく響き渡った。
それからしばらく。
壮絶な破壊音や、バグロムの絶叫などが響き渡っていたが、突然人間の叫び声がしだした。
「きゃあーーっ!! 何するんですかぁっ!?」
「ええいうるさい! おとなしくしろ!!」
「きゃあああぁぁーーっ!!」
見ると、ズタボロになった陣内が必死こいてアレーレを小脇に抱えていた。
「ふははははっ!! こいつは貰っていくぞ! ではさらばだ!!」
「あーっ、お兄ちゃん! アレーレを返しなさい!」
「ひゃははははははっ!! 菜々美よ、兄の偉大さを知るがよい!! ふひゃははははははははは!!!」
陣内は高笑いと共に悠々と飛行艇に乗り込み、飛行艇は浮上していく。
菜々美が止める間もなく、アレーレは陣内によって連れ去られてしまった。
「あちゃー。失敗しちゃったわねぇ…」
アレーレといいことする約束がなしになり、内心ほっとしている菜々美である。
「菜々美さん、アレーレさんが連れていかれちゃって、大変じゃないですか!!」
気が気でない様子で騒ぎ立てるクァウール。
「そうねー。どうしようかしら……」
「菜々美君、今こそ変身して、アレーレを助けにいく時じゃ!!」
突如として、ストレルバウが現われた。
「えー、でも変身用のおたまはアレーレが…」
「ここに新しいおたまがある!」
ストレルバウは新しいおたまをかかげる。
「やりましたね菜々美さん! これでアレーレさんを助けにいけますよ!!」
「じゃあクァウール、よろしくね」
クァウールの肩をぽんと叩く菜々美。
「え?」
クァウールの顔が引きつる。
「そ、その……菜々美さんが助けにいくんじゃないんですか?」
「クァウールの方が適任よ。だって、クァウールは私より強いんだから」
にこやかに断言する菜々美。
「え、え、え……でも………」
「菜々美お姉様、アレーレは名誉の戦死を遂げたことにして、助けにいくのはやめましょう」
「……パルナス、あんた恐いこと言うわね」
「パルナス! 実の姉を死んだことにしようだなんて、あなたは何てことを言うんですか!」
クァウールはパルナスの耳を引っ張った。
「あいたたたっ! だ、だってアレーレの奴、変身できるようになってから、僕をいじめてばかりなんだもん!!」
パルナスはクァウールの指を放そうとするものの、クァウールも要を得ていて、簡単には放れない。
結局、誰がアレーレを助けにいくか、議論は紛糾するものの、結論はいつまでたってもちっとも出なかった。
それから2〜3日したある日。アレーレがいなくなってからというもの、ファトラが騒いだりする程度で、おおむね平和な時がすぎていた。
そんな東雲食堂にて。
「菜々美さん! 大変です!」
クァウールが顔を真っ青にしながら飛び込んできた。
「なぁに? またバグロムが攻めてきたの?」
「いえ、今度は巨大怪獣が攻めてきました!」
クァウールのその言葉に、菜々美は思わずずっこけそうになった。
「ちょっとクァウール! 冗談も休み休み言いなさいよ!」
「いいえ! 巨大怪獣です! あれを見て下さい!!」
「あ、ちょっと!!」
クァウールは菜々美を無理矢理外に連れ出した。
「きゃああっ! な、なにあれぇーーっ!?」
クァウールが指差した先には人形みたいな巨大怪獣がいた。身長は数十メートルといった所か。
「菜々美さん、あの巨大怪獣、こっちに向かってきてます! 危険です!!」
「ああんもう! 地球防衛隊は何をしているの!? ここはエルハザードだから、エルハザード防衛隊でしょ! エルハザード防衛隊は何をしているの!?」
思いきり取り乱しながら叫ぶ菜々美。
「菜々美さん、変身して追っ払わないとだめですよ!!」
「私に変身しろと言うの!?」
「そうです!」
「あんたが変身しなさい!」
「いやです!」
「あんた最近、気が強くなったわね!」
「と、とにかく、私は嫌です!」
「菜々美君、今変身しなければ、君の店はあの巨大怪獣に踏みつぶされてぺしゃんこじゃぞ!!」
突如として、ストレルバウが出現した。
「ストレルバウ博士! あの怪獣、あんたの仕業じゃないの!?」
「いいや違う! 今、我らがロシュタリアは巨大怪獣の侵略を受けているのだ! そして、あの巨大怪獣を食い止められるのは、菜々美君、君しかいない!!」
「なんで私だけなのよ!? クァウールだっているじゃない!」
「わ、私、戦えません」
「というわけで菜々美君、頼んだぞ! ちなみに、君は今は上級じゃ!」
「あーもう! みんな勝手に言ってなぁさい!」
菜々美はストレルバウを殴り倒し、クァウールを突き飛ばすと、やけくそになりながら巨大怪獣へと向かって走り出した。
巨大怪獣の進路であると思われている付近は逃げ惑う民間人でごった返している。菜々美はさらに走り、避難が完了しているあたりまで走ってきた。あたりには誰もいない。
見られる心配がないのを確認すると、菜々美は意を決して呪文を唱えた。
「呪法のウエイトレス ビューティー菜々美、メイクアップ!!」
呪文を唱えると、菜々美の体が光に包まれる。
光が消えると、そこには見た目はウエイトレス姿だが、後ろ半分は紐水着で、背中とお尻が丸見えという菜々美がいた。
怪獣の間近までくると、その大きさがはっきり分かる。身長40メートルはあった。
「私にこんな恥ずかしい格好をさせて、許さないんだから!」
かけ声一発、菜々美は怪光線を巨大怪獣へと放った。
が、命中はしたものの、ほとんど効果がない。
「ストレルバウ博士、必殺技よ!」
『おお菜々美君! ついに自ら必殺技まで! 君はとうとう呪法少女であることを受け入れてくれたのじゃな! わしゃ嬉しいよ!』
「とっととしなさい!」
『よし分かった。それではゆくぞ!』
菜々美の上空にある呪法少女支援機から強力な怪光線が打ち出される。菜々美はそれをおたまで反射させ、怪獣に命中させた。光線が炸裂し、怪獣が転倒する。
「やったわ! これで私のお店は守られたのよ!!」
喜びいさむ菜々美。
『菜々美君、気をつけろ! 奴はまだ生きておるぞ!』
「ええっ!?」
怪獣は光線が当たった所をさすりつつ、ゆっくりと立ち上がった。
「は、博士! どうすればいいの!?」
『もう一度当てるのじゃ!』
「分かったわ!」
もう一度光線を当てる菜々美。しかし、結果は前と同じだった。
怪獣は菜々美めがけて前進してくる。
「ひえええぇぇっ!!」
攻撃どころではなくなり、逃げ惑う菜々美。
『菜々美君、早く奴をなんとかせんと、君の店が潰されてしまうぞ!』
「そんなこと言ったって、攻撃が効かないんじゃしょうがないじゃない! 何とかしなさいよ!」
『むううぅぅ……。こ、こうなったらあれをやるしかない……』
「裸になれとか、そういうのはなしよ!」
『そうではない! やってくれるか菜々美君!』
「なんだか知らないけど、背に腹はかえられないわ! 私やるわ!」
『よし分かった! では行くぞ!!』
突然、呪法少女支援機から光線が発射された。それは菜々美の頭上に降り注ぎ、菜々美の体を光に包む。
「きゃああああぁぁぁっ!!」
菜々美の絶叫。あまりのまぶしさに、菜々美は目を瞑った。それでもまぶたを通して光が目に入る。
「ひえええぇぇっ! どうなってんの!?」
『よぉーし、成功じゃ!!』
やがて光が弱くなり、菜々美はうっすらと目を開けた。
景色が違う。
さっきまではフリスタリカの大通りだったはずなのに、今は展望台のような所にいる。あの巨大怪獣が見下ろせる位置だ。見晴らしはよく、あたり一面よく見える。しかし、このあたりに展望台といったらロシュタリア王宮しかないはずなのに、ロシュタリア王宮が見えているのが変だった。
歩くと、それと一緒に景色が流れる。しかし、流れ方が変だ。
菜々美は足元を見た。そして、絶叫した。
「きゃあああぁぁっ!! わ、私が大きくなっているぅ!! 私が巨大化してるわあぁっ!!」
口から泡を吹き出しそうな勢いで、菜々美は絶叫する。
菜々美はあの巨大怪獣よりも大きいくらいにまで巨大化していた。しかも、服装は前はウエイトレス姿、後ろは紐水着のままだ。
「いやあああぁぁっ!! こんな! こんなことになるなんてぇ!」
羞恥心のあまり、しゃがみこむ菜々美。
『あれは体の大きさを30倍にする巨大化光線じゃ! 今の君は身長49.5mであるからして、あの怪獣の身長44.4mよりも大きいぞ!』
「ストレルバウ博士、覚えときなさいよ! 復讐してやるわ!」
『とにかく、今はあの巨大怪獣を倒すことが先決じゃ! さあ、ジャイアント呪法少女、攻撃じゃ!』
「攻撃ってどうすりゃいいのよ!」
『この際じゃから、掴み合いじゃ!』
「ええいもう! 仕事料、きっちり貰いますからね!」
羞恥心を必死にこらえ、菜々美は顔を真っ赤にしながら巨大怪獣に掴み掛かった。巨大怪獣といっても、今の菜々美にとっては自分より体格が小さい。
菜々美は怪獣を突き飛ばそうとするが、怪獣はうまいことそれをよける。逆に、菜々美は怪獣によって投げ飛ばされてしまった。
「きゃあああぁぁっ!!」
地響きをあげ、家屋を破壊しながら菜々美の体が地面へ投げ飛ばされる。逆さまになり、前半分だけのスカートまでめくれている状態の菜々美に怪獣が詰め寄り、彼女の上に覆い被さる。
「ええい、気色悪いわね!」
菜々美は怪獣を蹴飛ばすと立ち上がり、再び怪獣に掴み掛かった。
怪獣の後ろに腕を回し、首をホールドしようとする菜々美。すると、怪獣の背中にファスナーがあるのを見つけた。
「こ、これは!?」
怪獣の背中に、縦一直線にファスナーがある。まるで着ぐるみのようだ。
菜々美は意を決して、そのファスナーをずり下ろした。
すると――
「きゃー。いやーん!」
黄色い悲鳴があたりに響く。
「ア、アレーレ!?」
「菜々美お姉様、お久しぶりですぅ」
怪獣の中にいたのはアレーレだった。アレーレが着ぐるみを着ていたのだ。彼女も巨大化していた。
「アレーレ! なんであんたがこんなことしてるの!」
「はい。バグロムの親玉に捕まりまして、刺客に仕立て上げられちゃったんです」
アレーレは着ぐるみを脱ぐ。彼女が着ている服は、菜々美と同じ、前半分がウエイトレス姿で、後ろ半分が紐水着というものだった。
『むおおっ! バグロムたちにわしの呪法少女支援機が解析できようとは! バグロム、恐るべし!』
「さぁーて、菜々美お姉様。今は私と菜々美お姉様は敵同士。――そういうわけで、いきます!」
アレーレは菜々美から離れると、構えを取った。
「ちょ、アレーレ? 私、別に戦う気なんか……」
菜々美の言葉を無視して、アレーレは菜々美へ向かって突進してきた。
「きゃあぁっ!」
身長44.4mのアレーレと、身長49.5mの菜々美が、白昼堂々フリスタリカの大通りで揉み合う。しかもその姿は半裸に近い。アレーレが菜々美の背後から彼女の胸に触った。
『むおおぉぉっ!! なんという凄い光景! 凄すぎるぅ! 生きててよかった!!』
「ストレルバウ博士、見てんじゃないわよ! 何とかしなさい!! ――あ、きゃああぁぁっ!」
アレーレによって菜々美は押し倒された。家屋の上に倒れ、轟音が響き、下敷きになった建物はぺしゃんこになる。
「あぁん、菜々美お姉様ぁ!(ハァト)」
「ひいいいぃぃっ!!」
手足をばたつかせる菜々美。アレーレは菜々美の胸に顔を埋めている。
「ちょっとストレルバウ博士! 何とかしなさい!!」
『ううーーむ、もう少し見ていたい所じゃが、仕方あるまい。巨大化を解除するぞ』
「え? ちょっと!」
ストレルバウは巨大化を解除した。
瞬間、菜々美の体が伸び切ったゴムが縮むかのごとく小さくなる。
そして――
ぺしゃ!
「あっ!」
アレーレの声。
『え?』
ストレルバウの声。
いきなり菜々美が小さくなったせいで、アレーレは前につんのめっていた。アレーレは立ち上がると、自分の下になっていた菜々美を掌に載せる。菜々美は目を回していた。
『い、いかん! 菜々美君だけを小さくしたせいで、アレーレの下敷きになってしまったぁ!!』
菜々美の反応はない。
「菜々美お姉様、大丈夫ですかぁ?」
アレーレは菜々美の頭をつつき、反応がないのを見ると、彼女を自分の胸の間に入れた。
「さてと。これからどうしましょう…」
手持ち無沙汰になり、立ち尽くすアレーレ。
そこへバグロムの飛行艇がやってきた。
「おいアレーレ何をしている! さっさと街を破壊せんか!」
飛行艇に乗っているのは陣内である。
「えー…でも……」
「さっさと言う通りにしないと、巨大化を解除してやらんぞ!」
拡声器でまくしたてる陣内。アレーレは困ったように眉をひそめる。
「アレーレ、菜々美君を下ろすんじゃ!」
ストレルバウが走ってやってきた。誠やクァウールもいる。
アレーレは菜々美をストレルバウたちの元へ下ろしてやった。
「菜々美ちゃん、大丈夫か!?」
「ま、誠ちゃん……。私……」
菜々美はかろうじて意識を取り戻していた。激しいダメージを受けて体が動かないものの、それでも誠に見られる羞恥から体を隠そうとしてしまう。
菜々美は誠が差し出した手を取り、目に涙を浮かべた。
「菜々美ちゃん。君はよう戦ったで。もう大丈夫や」
「うん……」
ストレルバウは菜々美の変身を解除してやった。クァウールが菜々美の介護をする。
「残念じゃが、菜々美君はもう戦えん。いったいどうすれば……。――クァウール殿、戦ってくれるか!?」
「えっ!? その…私……」
クァウールは返答に困り、顔を逸らす。
と、誠がストレルバウの前に出た。
「僕が戦います」
「おお誠君、戦ってくれるか!?」
「はい!」
「よし、ではこれを持ちたまえ! そして、それを掲げながら呪文を唱えるのじゃ!」
「分かりました」
「ま、誠ちゃん…。私のために戦ってくれるの…?」
「大丈夫や、菜々美ちゃん」
誠はストレルバウからおたまを受け取ると、呪文を唱えた。
「呪法のウエイトレス ビューティー誠、メイクアップ!!」
瞬間、誠の体が光に包まれる。
光が消えた時、そこには前半分はウエイトレス姿で、後ろ半分は紐水着という出で立ちの誠がいた。
「ま、誠様、なんて格好!?」
クァウールが顔を真っ赤にする。あまりの光景に、菜々美も顔をそむけた。
「菜々美ちゃん、行ってくるで」
誠は菜々美に笑顔を向けると、バグロムの飛行艇へと向けて走り出した。
『誠君、術の使い方は分かるのかね!?』
誠の耳に、ストレルバウの声が無線で聞こえる。
「大丈夫です! シンクロできます!」
『おおそうか。これにもシンクロ能力が使えるのか!』
「はい! 大丈夫です!」
誠は呪法少女支援機を呼び寄せると、それに飛び乗った。
陣内の乗っている飛行艇に接近し、飛び乗る。
「むおおっ! 水原誠! ここで会ったが百年目! 今日という今日こそは引導を渡してくれる!! それにしても何て恥ずかしい格好なのだ! 貴様、どこまで変態になれば気が済むというのだ!?」
「うるさい! 菜々美ちゃんをあんな目に遭わせて、許さへんで!!」
「何をーっ!」
誠は呪法少女支援機からレーザーを打ち出すとそれをおたまに反射させ、陣内を直撃した。
「ぎゃああああぁぁーーーっ!!」
陣内の断末魔。
かくして、ロシュタリアはまたも陣内の進行を退け、菜々美の店は守られたのだった。
ロシュタリア王宮のとある一室。不意に扉がノックされる。
「菜々美ちゃん、入るで」
「うん」
扉が開くと、誠が入ってくる。
部屋の中では菜々美が一人、ベッドに入っていた。
「菜々美ちゃん、体の方はもういいんか?」
「うん。もうほとんどよくなったよ」
愛想のいい笑みを誠に送る菜々美。誠はベッドの脇の椅子に座った。
「そうか。ほんとに、心配したで」
「心配かけちゃってごめんなさい。ほんとに、ストレルバウ博士には参ったわ」
「ああ、ほんまにな。僕からも博士にはよう言っとくな」
「うん。――ねえ誠ちゃん?」
不意に、菜々美の顔に不安の色が宿る。
「なんや?」
「神の目の研究はいいの?」
「うん? ああ、神の目ね。――今はいいんや。今は菜々美ちゃんのことの方が大切やもん」
はにかみながら言う誠。その言葉に、菜々美の顔がぱっと明るくなった。
「ほんと?」
「ああ。ほんとや。菜々美ちゃん、ぼろぼろになってまったもんな」
「誠ちゃん……」
「あれ、菜々美ちゃん、どうしたんや? 悲しいんか? 目に涙がたまってるで」
「ううん、違うの。いいの。気にしないで」
「そうか。――菜々美ちゃん、僕おかゆ作ってきたんだけど、食べるか?」
「え?」
「ほら。前菜々美ちゃんが僕におかゆの作り方教えてくれたやろ。それ思い出して、作ってみたんや。あんまりうまくできんかったけど、食べてみるか?」
「う、うん! 食べる!」
「じゃ、これ…」
誠は菜々美に器に入ったおかゆを渡す。菜々美はそれを一口口に運んだ。
「おいしい。おいしいわよ誠ちゃん」
「そうか。よかった」
「また今度、お料理の作り方教えてあげるわね」
「ああ」
結局、今回の一件は巨大呪法少女の騒ぎで首謀者が発覚してしまい、全ての責任がストレルバウにあることになった。ストレルバウはぐうの音も出ないほどの賠償金を払わされた上、菜々美にも多額の慰謝料を払ったが、それはまた別のお話……。
おわり