| お悩み相談室 |
§1
「みなさんこんにちは。本日は特別企画、『お悩み相談室』を執り行いたいと思い
ます。まずは最初のご相談。悩みを聴くのはこの方です」
「はい。水原誠です。では、相談者の方に登場して頂きましょう」
半透明になっているついたての向こうに人影が現れた。シルエットからして女性
である。なお、誠はこの女性が誰なのかは知らされていない。女性も聞き手が誰な
のかは知らない。
「では、あなたのお悩みをどうぞ」
誠が愛想よく言う。
「はい。…その…私の好きな男の子のことなんです」
ついたての向こうの彼女はあまり抑揚のない声で言う。
「へえ。恋愛問題ですか」
「ええ…。まあ、そうです」
「で、どんなお悩みですか?」
「はい…。私はその男の子が大好きなんです。でも、その男の子にはもう好きな人
がいるんです」
「それは三角関係ですね?」
「はい。そうです。そうなんですけど、その子ったら本人にその自覚は全然まるっ
きしないんですけど、もうそれはとんでもないスケコマシ野郎で、次から次へと女
の子たちをたぶらかしまくっているんです」
ついたての向こうの彼女はハンカチで涙を拭きながら言う。
「へえー。スケコマシ野郎なのに、本人にその自覚が全くない。それは大変ですね。
でも、その人には心に決めた人がいるんでしょ?」
「はい。そうなんです。にも関らず、その男の子は次から次へとやりまくっている
んです……。心に決めた女性というのは会いたくても会えない人なので、さびしい
のかとも思ったんですが、それでもあれは酷すぎます」
「会いたくても会えないというと、その人はすでに亡くなられた方なんですか?」
「いえ。そうではなくて、その人は今別の世界にいるんです。それでその男の子は
その人を迎えにいくために、先エルハザード文明に関する研究をしているんです」
「へえー。凄い人なんですねえ」
「ええ。私も彼の熱意には痛み入るものがあります。でも、あの超スケコマシぶり
は許せません! 彼ったら、心に決めた人ができる前も、できた後も、やりまくっ
ているんですよ! しかも本人にはその自覚がまるっきりないもんですから、これ
ほど手をつけられないものもありません。本当に許せないですよね」
「そうですね。僕もいろいろな話を聞いたことがありますが、これほど凄いのは初
めてです。とてもじゃないけど、エルハザードにそんな人がいたなんて、信じられ
ませんね」
誠は少し冷や汗をたらしながら答える。
「ええ。まあ、その人はエルハザードでない別の世界からエルハザードに来た人な
んで、本当のエルハザードの人ではないんですけどね。でも本当に許せませんよね」
「ええ。僕も、そんな人とは関り合いになりたくはないですね」
「でしょーっ!?」
「ええ。まあ」
「で、私はどうしたらいいと思います?」
「うーん、そうですねえ…。やっぱり本人に自覚がないのがいけないんでしょうね。
ここは一つはっきり言ってあげたらどうですかね。そうすれば、少しはましになる
かもしれませんよ」
「そうですね。じゃあ、そうしてみます」
「はい。では、今回の相談はここまでとさせて頂きます」
§2
「はぁい。次のご相談です。悩みを聞くのはこの方です」
「おう。あたいはシェーラ・シェーラ。炎の大神官さな。んじゃ、相談者出てこい」
シェーラの指図で、ついたての向こうに人影が現れた。シルエットからして女性
である。なお、シェーラはこの女性が誰であるのかは知らされていない。女性も聞
き手が誰なのかは知らない。
「じゃ、おめえの悩みを聴こうか」
「はい。相談というのは、うちの古くからの仲間のことなんどす」
「へえー。古くからの仲間ねえ…。あたいにもそんなのがいるなあ…」
「うちはとある聖職者なんどすが、その仲間とは修行時代からの腐れ縁なんどす。
それでもううちはそいつと一緒にいるのが嫌で嫌で、ええ加減別れたいんどすが、
これがちいとも別れられんのどす。ほんにうちはどうしたらいいんでひょうか」
「あぁー、分かる分かる。あたいもそういう奴が一人いるんだよ。まったく、こう
いうやつには参るよなあ」
「ほんにその通りどす」
お互いに悩みを共有しているということを知って、シェーラとついたての向こう
の彼女はお互いにフランクな雰囲気になる。
「やっぱそういうやつには一発ガツンとかましてやるのが一番だよ。そうすりゃ、
おとなしくなるさ」
「そうどすかなあ…。なんかうちはかえって火に油を注ぐようなことになるような
気がするんどすが。なんせ相手はうちみたいな知識人とは違って狂暴どすからな。
変なことすれば、どんな仕返しされるか分かったもんじゃないんどす」
「そりゃあとんでもない野蛮人だなあ。おめえは聖職者だそうだけど、その仲間っ
てことは、そいつも聖職者なのか。そんな乱暴な奴が聖職者になれるだなんて、エ
ルハザードも堕ちたもんだねえ」
「ほんに困ったもんどすなあ…」
「ま、そういう時は決闘でも申し込んで、足腰立たなくなるほどにぎゃふんと言わ
せてやるんだな」
「そうどすなあ…。やっぱりそれが一番なんどすかなあ…。今までにも何度か戦っ
ておるんどすけど、一度も決着ついてないんどすな」
「とにかくガァーーンとやってやるんだな。ま、そういうわけで、今回の相談はこ
れで終わりだ」
§3
「はぁい。では次のご相談です。悩みを聞くのはこの方です」
「うむ。わらわはファトラ・ヴェーナスじゃ。では、相談者、出て下され」
ファトラの指示で、ついたての向こうに女性らしき人影が現れた。お互いに相手
が誰なのかは知らない。
「では、そなたの悩みを申してみなされ」
「はい。私の妹のことなのです」
「ほうほう」
「妹は、根はとてもいい子なのですが、何かといえばつっぱってしまって、周囲に
迷惑をかけることが多いのです」
「なかなか出来の悪い妹をお持ちのようですな。具体的にどのようなことをするの
ですか?」
「いえ、出来が悪いということは決してないのですけど……。----そうですねぇ…。
たとえば、街で若い娘をナンパしては肌を重ねたりとか…。まあ、その程度ならい
いのですが、仕事をすっぽかしたりするのは感心しませんわね。それに、相手に無
礼を働かれたりすると、復讐したりとか。その他には、ちょっと悪ふざけが過ぎる
所がありますわね。あと、貴族や豪族の同じ趣味をした娘たちと秘密の別荘で乱交
パーティーを開いたりするのにはちょっと困っていますわね」
「なかなか頼もしい妹さんですな。今度一度会ってみたいものです」
「きっとあの子は心の中はさびしいのですわ。ですからあんなことをするんだと思
うんです。本人も、自分のやっていることがおかしなことだということを知ってい
ると思うんです。私や他の人たちがあの子の心の内を理解してあげることができれ
ばいいんでしょうけど、あの子はプライドが高くて、なかなか心の内を見せてくれ
ないんですよね。
ああ……。私がもっとしっかりしていれば、こんなことにもならなかったでしょ
うに……」
「ほほう。本当はさびしいということを知られないようにするために、かえって暴
力的な行動に出るということですな」
「ええ。そうですね。ですから、見ているとかわいそうになってきてしまって……。
でも、周囲に迷惑をかけていることには違いありませんし、なんとかやめさせなけ
ればと思っているんです。やっぱりそれにはあの子の心の内を理解してあげるのが
一番だと思うんですよね」
「ふーん…。そういえば、わらわには姉がおるのじゃが、わらわも困った思いをし
たことがあるのう…」
「そうなんですか。お互い似たような苦労があるのですね」
「わらわの姉はとてもいい人で、わらわもお慕い申し上げておるのじゃが、個性的
な趣味をお持ちでな。あっちこっちからかわいらしい服を集めてきては、わらわに
着せて楽しむのじゃ。着せられる服がわらわの好みにあったものであればまだよい
のじゃが、これがみんな少女趣味なものばかりでな。わらわの好みには合わないん
じゃよ。
わらわは嫌だから、誰か他の者に着せてくれと言うんじゃが、姉はわらわにしか
着せたがらん。それにいったん着せかえが始まると、延々つきあわされるときてお
る。もっと困ったことには、着せかえされたわらわの姿を見て、みんなくすくす笑
うし…」
ファトラはちょっとすねたような顔をした。ただし、口元は皮肉な笑みに歪み、
斜に構えた視線はついたての影を見つめている。
「……まあ、それはおもしろいお姉さんですね。一度会ってみたいものですわ」
やや口調の変わったその言葉に、ファトラはふふんと鼻を鳴らした。
「話が逸れてしまいましたな。ええと、あなたの妹さんのことでしたね。それで、
どうするんですか?」
「……はい。お互いにより理解しあうために、今まで隠していたことを打ち明けよ
うかと思うんです」
「ほほお。どんなことを打ち明けるのですかな?」
ファトラは興味津々で訊く。
「はい。…その…実は……」
「実は?」
目を輝かせ、椅子から身を乗り出すファトラ。
ついたての向こうの彼女は何か思案するようなそぶりをした後、話しだした。
「……実は…あの子は私の本当の妹ではないんです」
「ほ、本当の妹ではないですと!?」
予想外の言葉に、ファトラは驚愕した。
「はい。私が6歳の時、あの子はまだ赤ん坊だったんですが、実はあの子はとある
橋の下で捨てられていたんです。それを私の両親が拾い、育てたんです。
今までこのことはあの子には黙っていたんですが、もう打ち明けようかと思うん
です…」
「すすすすす捨て子ぉっ!!??」
驚きのあまり、言葉がまともな声にならないファトラ。
「…はい…」
「捨て子ぉぉっ!? あああぁぁ……」
ファトラは気が動転して、きゃんきゃん騒ぎだした。
「まあ、私の妹の話ですのに、あなたが取り乱してしまうなんて、変ですわね」
ついたての向こうの彼女はころころと笑った。
「えー、聞き手のファトラ様が狂乱してしまったので、今回の相談はここまでとさ
せて頂きます」
§4
「はぁい、次の相談でぇす! 悩みを聞くのはこの方です」
「はぁい、菜っ々美ちゃんどぇーす! では、相談者の方、どうぞー!」
ついたての向こうに相談者が座る。ついたてに映るシルエットからして、相談者
は男性だ。
「はい! ではあなたの悩みをお聞かせ願いまぁーす」
「はい。僕の悩みなんやけど、僕は優柔不断で困っているんです」
「ほおほお。具体的にどんなふうにですか?」
「そのぉ、僕の周りにはいろんな女の人がいるんやけど、何かといえば僕のことで
もめるんですよね。僕はみんなとは仲良くしていたいんやけど、みんなそれじゃあ
嫌なんでしょうかねぇ…」
「へえー。なんでもめるんですか?」
「よく分からないんやけど、どうやら僕が誰のことを好きかとかいったことでもめ
ているみたいですね」
「ほおほお。恋のトラブルですか。それは大変ですねー。で、あなたは本当の所は
誰が好きなんですか?」
菜々美はうきうきしながら訊く。
「いえ、特に誰が好きというわけでもないんですよ」
「…だったらそのようにみんなにはっきり言えばいいんじゃないですか?」
やや落胆したようなそぶりを見せる菜々美。
「でも、ひょっとしたら自分のことが好きかもしれないとみんな思っているのに、
『好きじゃないよ』なんて言えないやないですか」
「でも、下手に気を持たせておくよりはいいんじゃないですか?」
「そうですか? でも僕、みんなとの仲はいいままでいたいし、下手に断って、仲
を悪くしてしまうのもいやなんですよね」
「で、でも、そんなんじゃいつか破滅しちゃいますよ!」
菜々美はやや取り乱した。
「はあ…。でも、僕、言いだす勇気ありませんし…」
「駄目です! きちんと言うべきです!」
「はあ……」
「いいですか、分かりましたね?」
強い口調で言う菜々美。
「はあ……でも…」
「あーっ、もうっ!」
ついたての向こうの彼の優柔不断ぶりに我慢できなくなった菜々美は唐突に立ち
上がった。
ついたての向こうに入り、虚を突かれたような顔をしている彼の胸倉を掴む。
「ちょっとまこっちゃん! そんな優柔不断なことでどうすんのよ!? そのうち
嫉妬した女の子に殺されるわよ!」
「な、菜々美ちゃん! なんで僕やと分かったんや!?」
「こんなこと言うような男の子なんて、まこっちゃんしかいるわけないでしょ!
あー、もう! 悔しいぃっ!」
激昂した菜々美は誠の体をがくがくと揺さぶる。
「ぼ、ぼくそんなに気に障ること言うたかぁ!?」
「言ったじゃない! それすらも気づいていないのぉ!?」
「そうやったかあ?」
その後は物音と悲鳴が延々と続くだけだった。
「えー、相談の続行が困難になってしまいましたので、今回の相談はここまでとさ
せて頂きます。次回があったら、次回をお楽しみに」
「ああぁ……。わらわは……わらわは捨て子じゃったのか……」
「あ、ファトラ様。まだいたんですか」
「ファトラ、どうしたのですか?」
「あ、姉上」
ファトラはルーンの腕をはっしと掴んだ。
「姉上、わらわは姉上の本当の妹ではなかったのですか…」
「まあ、何を言うんです? あなたは私の妹じゃないですか」
ルーンはころころと笑った。
「えっ? でも…」
「まあ、悪い夢でも見たのですね。かわいそうに…」
ルーンはファトラを自分の胸の中へ抱きすくめる。ファトラは素直にそれに従っ
た。
「では、私はこれで帰りますね」
そう言うと、ルーンは帰っていった。
「よかったですね、ファトラ様。捨て子じゃなくて」
「まあな…」
終わり
§後書き
すでにSS本体を読まれた方は読んで頂き、ありがとうございました。まだ読ん
でいない方はどうぞ読んで下さいね。
相談者が誰なのかはバレバレですね。まあ、そういうふうに作ってあるんですけ
どね。(^^; ちなみに、話していて声で分からないかと思われるでしょうが、これ
についてはご勘弁願います。(^^;
アフラとシェーラのなんか、シェーラが相談者が誰だったのか知ったら大喧嘩に
なるでしょうね。(^^; あと、ルーンが冗談を言っていますが、まあこのくらいは
いいと思います。
ちなみに、私はファトラとルーンのが一番気に入っています。(^^)