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小説 『ああっ、アスカちゃん』 第2154話(通算 第1話) |
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【人物紹介】 《アスカ》 どこぞの世界からシンジ(契約者)を幸せにするべくやってきた女神。契約者の ためならば手段を選ばないプロである。 《ヒカリ》 なぜか魔法少女。世界を愛で満たすべく、活動を続ける。これは魔法の世界で出 世するための昇進試験なのである。 《シンジ》 ミサトのマンションに同棲している。間違い電話でアスカを呼び出してしまい、 ミサトとアスカにステレオでいぢめられる不幸な日々を送る。レイのことが好きだ が片思い。この事実はミサトとアスカには知られている。趣味は女装と音楽の演奏。 《レイ》 どこか変わった所がある少女。とても無口。 【これまでのお話】 シンジのかけた間違い電話がなぜか女神であるアスカの所にかかってしまった。 アスカはシンジの元に問答無用で押し掛け、幸せにするという契約を結んでしまう。 ところが彼女の『契約者のためならば手段を選ばない』という主義のためか、毎回 シンジはとんでもないトラブルに巻き込まれてしまう。しかし契約がある以上、ア スカはシンジを幸せにしなければ帰ることができない。結果としてアスカはシンジ の所に住むことになる。ところがシンジはミサトと同棲(笑)しており、シンジは この二人の世話をしなければならないのだった。 【本編】 【ミサトのマンション】 アスカが普段着で寝っころがって菓子をつまみながらテレビを見ている。シンジ はアスカの隣で、アスカのためにお茶をいれている。 テレビ「2月14日はバレンタインデー。愛する人にチョコレートを送りましょう」 「ねえ、シンジ。バレンタインデーってなに?」 「うっ…それは」 シンジは言いたくなかった。もし言えば、また余計なトラブルに巻き込まれる。 「ねえ、知らないの?」 「し、知らないよ」 「…ウソついてるわね」 「(ドキッ)う、ううん。本当に知らないんだよ」 「じゃあ、知ってるかどうか体に聞いてみるわ」 アスカは立ち上がるとシンジの肩に手をかけた。 「たあっ!!」 「うぎゃああぁぁ!!」 アスカはシンジを万字堅めにした。 「さあシンジ。バレンタインデーとは何? 答えなさい」 「ほっ、本当に知らないよ!」 「う・そ・つ・き」 アスカは体に力をこめる。 「ぎゃあああぁぁぁ!!」 「さあ、答えなさい。バレンタインデーとは何?」 「そっ、それは女の子が好きな男の子にチョコレートをあげる日なんだ」 「ふーん、女の子が好きな男の子にチョコを…。じゃあ、シンジはレイにチョコを もらえば幸せになれるのね!?」 アスカはシンジを放り出した。シンジは無様に床に投げ出される。 「えっ、いや、そんなことはないよ」 シンジはアスカを必死で説得する。しかしそれは無意味だった。 「隠しても無駄よ。じゃあ、さっそく行動を開始するわ」 「ちょっ、ちょっと待ってよ!」 「いくわよ。ゲーヘン!!」 アスカは魔術で着替えると、窓を突き破ってレイのマンションへと向かった。後 には砕けたガラスとシンジが残された。 「ああ〜。ガラス片付けないとミサトさんに怒られる…(;_;)」 シンジは泣く泣くガラスを片付けると、レイのマンションへと向かった。 「なんとか間に合えばいいんだけど…」 シンジは道をひた走る。視界にヒカリの姿が映った。 「ああ、碇じゃない。どうしたの? そんなに慌てて」 「あ、イインチョー。実はアスカが綾波の所に押し入ろうとしてるんだ」 シンジのその言葉を聞いた途端、ヒカリの表情が強ばった。 「な、なんですって。…それじゃあ、たあっ!」 「うぐう!」 ヒカリはシンジの溝落ちに強烈な一撃を放った。シンジは腹を押さえてうずくま る。 「ごめんね。碇。この問題は私が解決するわ」 ヒカリはレイのマンションへと向けて走り出した。後にはシンジだけが取り残さ れる。 「ああ、もうやだこんな人たち…」 シンジは泣いていた。 【レイのマンション】 突然なんのまえぶれもなく窓ガラスが割れ、何かが部屋の中に入って来た。そし てその後に豪音が響く。早い話が音速を越えていたのだ。部屋の中央にはキテレツ な衣裳に身を包んだアスカが立っていた。 「移動時間はジャスト5秒ね。まあまあの所だわ」 「惣流さん…何?」 レイは平然とした様子で奥の廊下から出てきた。 「ああ、レイ。2月14日がなんの日か知っている?」 「バレンタインデーでしょ。葛城三佐が言っていたわ」 「そう。じゃあ、話は早いわね。レイは誰にチョコをあげるの?」 「別に。誰にもあげないわ」 「シンジにあげる気はない?」 「ないわ」 「そんなこと言わずに。シンジは根暗で鈍くてバカだけど、人助けだと思ってあげ てあげてくれない?」 「なんで?」 「なんでって…。そうしないことにはシンジが幸せにならなくて、私はいつまで経 っても契約が終了しないじゃないの」 「そんなこと、関係ないわ」 「あんたには関係なくても、私には関係あるのよ。それならば実力行使よ。とお!」 アスカは周囲の空間に重力線の歪みを発生させた。しかしどういう方法だか分か らないが、レイはそれをあっさりとかわす。 「そんな…一体どうやって…。どうやらあんたと悪い仲でいるのはよくないようね」 アスカはレイの存在に恐怖した。その時、アスカは特殊能力者にしか感じられな いエネルギーの場を感じた。 「これは…もうあいつが気づいたようね。これはぼやぼやしていられないわ。レイ、 来なさい!」 アスカはレイの腕を掴むと、再び魔術で今度は別の窓を突き破ってマンションの 屋上へと出た。それと同時に声が辺りに響き渡る。 「魔法少女プリティーヒカリ参上。惣流さん、私が来た以上、あなたの好きには、 させないわ!!」 これまたヒカリもキテレツな衣裳に身を包み、変なポーズをとって叫んでいる。 「やったね、ヒカリちゃん。バッチリ決まったよ」 「あんたは黙ってなさい」 ヒカリはお共のマスコット、ペンペンを諭す。 「やっぱり来たわね、ヒカリ。なんであんたはいつもいつも私の邪魔をするの!?」 「あなたの心には愛が足りないわ。私があなたの心を愛で満たしてあげる! さあ、 はりきって参りましょう!! いきなり必殺技、愛のA10神経シンクロ光線!!」 ヒカリがそう叫ぶがいなや、ヒカリの持っているバトンから光がほとばしり、ア スカを包み込もうとする。アスカはそれを軽く受け流し、レイと一緒に飛んだ。 「はん、この程度じゃ私を仕留めることは無理よ。じゃあ次は私の番ね」 アスカは両腕を大きく振り上げると、頭の上で球電を作る。 「さあ、くらいなさい!」 アスカは頭の上の球電に強磁界をかけてヒカリに撃ち込んだ。ヒカリはそれをよ ける。数千ケルビンもの球電はコンクリートにぶつかると、コンクリートを蒸発さ せながら、さらにめり込んでいく。 「はずれよ。惣流さん、綾波さんに碇君にチョコをプレゼントさせるのは私がやる わ。あなたは引っ込んでなさい」 「残念ながらそうもいかないのよ」 アスカはヒカリに再び攻撃を仕掛ける。お互いに攻撃を仕掛けてはかわすのを何 度も繰り広げた。 その時、ようやくシンジが到着した。シンジはマンションの下から屋上にいるア スカたちを見上げている。 「なんとか間に合って欲しかったんだけど…。手遅れか…」 シンジは額に縦線を描いている。アスカとヒカリがシンジを見つけた。 「あっ、シンジ。バレンタインデーよ! 受け取りなさい!!」 「ああっ、先を越されてしまうなんて…」 アスカはレイをシンジに向かって突き飛ばした。アスカたちのいる場所はマンシ ョンの屋上である。 「きゃあああぁぁぁ!!」 「あ、綾波!!」 シンジはレイの落下しそうな地点へ走る。しかしレイは空中で1回転すると、地 面に着地しようとする。ところがその着地地点にはシンジが来ていた。シンジはレ イに顔面に蹴りを入れられた。 「ぐわあぁぁ!!」 シンジは鼻血をふき出して、顔を両手で押さえながら地面に転げ回る。 「無様ね」 レイがポツリと言った。 「あれがバレンタインデーなのね。日本の習慣はよく分からないわ。シンジはああ いうのが幸せなのね。かわった趣味だわ。マゾかしら…」 アスカが感心したように言う。 「違うでしょうに。やっぱりあなたはただの厄病神ね。私が正しいお手本を見せて あげるわ」 「どうする気?」 「うう、痛い。死にそう…。アスカのやつ、いつか必ず…」 シンジは服を鼻血で真っ赤に染めながら、ようやく起き上がった。 「おお、センセやないか。こないな所で何やっとるん? それに凄い鼻血やないか」 ちょうどその時トウジが通りかかった。 「えっ、いや、何でもないんだ」 「せやけど、あのマンションの屋上に人がいるみたいやないか」 「うっ、ううん。何でもないんだよ」 「ふーん。そうなんか」 「必殺、愛のA10神経シンクロ光線!!」 ヒカリはレイとシンジに的を合わせると光線を放った。この光線が照射された人 間はお互いに愛しあってしまう。 「そうはさせないわ!」 ライバル心に燃えたアスカが、光線の軌道上に空間の干渉を起こした。このため 光線がわずかにそれる。 軌道をそれた光線はシンジとトウジに当たった。 「うわあ!」 「う、なんかいや〜んな気分」 「なんだか僕も…」 「おお、センセなんかわい、センセのことが好きになってきたで」 「僕もトウジのことが…」 シンジとトウジはしっかりと抱きあった。 「みなさい。惣流さん。ちょっと狙いがそれたけど、これが愛という物よ。ああ、 なんて美しいんでしょう…」 「やったね、ヒカリちゃん」 ヒカリはペンペンを無視して自己陶酔状態になっている。実に無責任であるが、 ヒカリの目的は世界を愛で満たすことなので、形は問わないのだった。 「やっ、やめなさい! こんなんじゃだめだわ。こんな形で契約が終了したんじゃ、 私のメンツにかかわるわ」 アスカは屋上から飛び降りると、シンジとトウジの前に出た。シンジとトウジは 今にも口づけしようとしている。 「二人とも、やめなさい」 「なんや惣流。おまえは俺とセンセの仲を邪魔するんか?」 「そうだよアスカ。それって嫉妬じゃない?」 「な〜に言ってんの!! さっさとやめなさい!!」 アスカはシンジをトウジから引きはがすと、シンジの首にチョーク・スリーパー をかけた。 「ぐええ!!」 「ああっ、センセ! センセ!」 シンジは失禁して気絶した。トウジはシンジの元にかけよる。 「そ、惣流…。おまえってやつは…」 「何? 文句があるならヒカリに言いなさい」 「私は悪くないわよ。悪いのは狙いをはずさせた惣流さんよ」 いつのまにかヒカリが来ている。 「なによ。いつも私の邪魔ばっかりしているくせに!」 「邪魔じゃないわ。あんたがいつも不幸をばらまくもんだから、こうして私がそれ を阻止してるんじゃない」 「私は契約者であるシンジを幸せにするためにやってるのよ。それが女神の中でも エリートである私のつとめよ」 アスカとヒカリは再び陰険な雰囲気になる。そして争い出した。 「センセ。センセ。起きてーな。死なんといてや。そっ、そうや。人工呼吸を…」 トウジの唇がシンジの唇に近づいていく。こうして1日が過ぎていった。 【病院】 シンジが目を覚ました。 「知らない天井だ…」 「碇君」 「あ、綾波」 「大丈夫?」 「う、うん」 「何か食べる? リンゴ剥いてあげるね」 「え、どうして綾波はここにいるの?」 「私がシンジ君の蹴っちゃて、心配だったから」 「え、そうなの。でも全然平気だよ。慣らされてるから…。(T_T)」 「そう。よかった」 終わり 【おまけ】 「先輩」 「なに。マヤ?」 「今日、バレンタインデーですね」 「それがどうかしたの?」 「せ、先輩。チョコレートの代わりに私をもらって下さい!」 終わり