2001.01.28 自衛官の独り言


F−15(イーグル)について

1.はじめに
 本文中で偉そうに語りますが、アビオニクスや、航空力学についての記述はあてにしないでください。また、
平気で嘘を語る可能性があるので、うそを発見した場合や疑問がある場合は、メールか掲示板に一筆お願いします

2.世界最強の戦闘機
 ご存知だと思いますが、F−15は西側最強の戦闘機です。アメリカのF−22が制式化(実任務で配備されること)されると、F−22が西側最強の戦闘機になるのでしょうが、F−22は形状のステルスの為、そんなにかっこよくありません。やはり、格好の良さならF−15です。また、値段やシステムの複雑さも世界最強です。
値段の世界最強は、F−2が引き継ぎましたが、システムの複雑さは民間航空機なみ(?)です。

3.安全神話 
 アメリカで訓練中に片翼を失ったF−15が、奇跡的に基地に帰還した話は、ご存知の方も多いと思います。この話の何がすごいかというと、「片翼を失っても機体を浮かせていることができた」「片翼を失った航空機を着陸までコントロールできた」に尽きると考えます。「片翼を失っても機体を浮かせていることができた」は、翼面荷重を少なくする設計方針が片翼を失っても機体を浮かすことができたわけですが、マクダネル・ダグラス(現ボーイング)の優秀さは、胴体でも揚力を発生できる形状にF−15を設計したことだと考えます。「片翼を失った航空機を着陸までコントロールできた」は、機体をコントロールする為に必要な油圧系統が多重バックアップの為、片翼喪失により油圧が1
系統ダウンしても、ほかの2系統でコントロールできるシステム・デザインの為だと考えます。なお、片翼を喪失して、なぜ油圧系統が1系統ダウンするのか?それは、操縦舵面のフラップとエルロンに油圧を送っており、翼がなくなると油圧配管が切断されます。油圧系統は、1箇所でも油が漏れると、漏れた回路全体が使用不能に陥る性質がありますので、ゆえに油圧が使用不能になるのです。ちなみに、ほかの航空機だったら油圧はほとんど死ぬでしょう。

注:「アメリカで〜」と書いていますが、イスラエルの間違えです。もうしわけありません。

4.機能美あふれる形状
 機能が優れているものは、どのような物も美しいのです。人は、これを造形美などと呼びますが、F−15もこれに値します。空を飛翔しているときは、ご存知のようにアメリカの国鳥(?)である尾白鷲のような猛禽類独特の美しさと猛々しさが目を引きます。が、いったん地上に降りると、すらりと伸びた脚(足)のため、
スマートで英国紳士のように気品があります(?)。見た目以上にすごいのは、内部の機構がメカニカルの芸術となっています。

5.航空機の操縦系統について
 あまり詳しくない方の為に、少しだけ戦闘機の操縦系統のメカニズムを解説したいと思います。映画などで戦闘機のパイロットが、床から伸びている棒状の物を掴んでいるのを見たことがあると思いますが、その棒状のものが「コントロール・スティック」で、パイロットの足元にあり両足で操作するペダルが「ラダー・ペダル」です。そして、その「棒」と「ペダル」に接続されているリンケージ(連結棒又は、プッシュ・プル・ロッド(押引き棒)とも言う)やケーブルが各操縦舵面(エルロン、ラダー、スタビレータ)のアクチュエータ(油圧力によって空気抵抗等に負けないように人力を大きくする機械)に接続されています。パイロットは、このコントロール・スティックとラダー・ペダルで戦闘機を意のままに操縦するのです。以上がメカニカル・コントロールですが、対極にフライ・バイ・ワイヤ・システムがあります。パイロット・インターフェースはメカニカル・コントロールと同じなのですが、「コントロール・スティック」と「ラダー・ペダル」のところで電気信号に変え、配線でフライト・コントロール・コンピュータに伝達します。そしてコンピュータで機速、高度、姿勢、加速度等を演算した後、またもや電気信号によって操縦舵面のアクチュエータに伝達し、操縦舵面を作動させます。両者を比べると、安全性はあるが操縦機能のバリエーションが少ないメカニカル・コントロールに対し、操縦機能のバリエーションが多彩(プログラムを変えると違う操縦特性になる)だけでなく、機構が簡単になるが安全性を確保する為、3重4重のシステムにする必要があります。

6.F−15操縦系統の憂鬱
 F−15の操縦系統は、完全メカニカル・コントロールの世代とフライ・バイ・ワイヤの世代の狭間に設計されており、安全性を考慮しての為か、メカニカルとフライ・バイ・ワイヤの2重システムとなっています。そのためか、かなり複雑な機構となっているので、整備員泣かせな機体です。フライ・バイ・ワイヤのみであれば、機速、高度等をコンピュータで計算し、理想的な姿勢にするよう操縦舵面を作動させるので、機構は簡単なものになるのですが、F-15は
フライ・バイ・ワイヤと表裏一体に作動するメカニカル機構があるので手間は2倍かかります。中でも、どう考えてもフライ・バイ・ワイヤでないと出来ない作動をPRCAというメカニカル・コンピュータで実行しており、その中身はいまだ謎です。謎と書きましたが、嘘です。自分は、10年近くF−15を整備してきましたが、
中身を理解していないのは勉強が足らないだけです。自衛隊の中には、「なぜこんな優秀な人が自衛隊にいるのだろう?」と思われる人が頑張っているので、F−15は安泰です。

7.整備性のよい飛行機?
 自分の立場から言わせてもらうと、「F−4EJ(ファントム)
よりは、仕事量が減った気がするが、いったんへそを曲げると頭が痛いF−15」なのです。F−4EJは整備性を語る以前に、整備のことを考えて設計されたとは思えない作りになっているのです(F−4が好きな人は許してね)。そこで、F−4EJから比べるとF−15は、「少しは整備のことを考えて設計されているな」と思えます。たとえば、エンジンの脱着なんかは、F−4EJは一日仕事ですがF−15は2時間くらいで完了します。さて、とりあえず誉めましたが、F−15は戦闘機のロールスロイス(自分が勝手に言っている)なので、安全の為の配慮を惜しみなく使用しています。そのためシステムが複雑になり、ひとたびトラブルが発生すると、テクニカル・オーダー(取扱説明書)とにらめっこすることとなり、非常に頭が痛くなります(自分だけかな?)。

8.がんばれ!!F-15
 日本形式名F−15J/DJ(”J”は単座で”DJ”は複座)は、米国のF−15C/Dがベースとなっています。F−15J/DJの事を上の記述で
べた褒めしておいて、いまさらこのようなことを書くことを許してください。自分は、F−15E(ストライク・イーグル:格闘戦だけでなく攻撃もでき、マルチ・ロールな味付けがされている)が好きだ。未確認ですが、F-15Eは完全フライ・バイ・ワイヤだと聞いたことがありますが、本当のところはどうなのでしょうか?誰か教えてください。もしも、フライ・バイ・ワイヤならば、将来的に航空自衛隊のF-15もそのうちなるのかな?でも、今のシステムを完全に変えてしまうのは、むちゃくちゃ金がかかりそうなので、防衛庁は動かないだろうなあ。がんばれ!!三菱重工(補足:航空自衛隊のF−15は、三菱重工が主契約会社となっています)。個人的要望ですが、航空自衛隊のF-15を、フライ・バイ・ワイヤに改修してください。出来れば、フライ・バイ・ライト(光ケーブルでの信号伝達方式)なんて選択肢もありますが、どうでしょうか?海上自衛隊の飛行艇US-1に負けてはいけません。がんばれ!!F-15。

9.映画「ベストガイ」について
 航空自衛隊のF-15を語る上で避けて通れないのが映画「ベストガイ」です。織田裕二扮する「五空団から来たゴクー(タック・ネーム)」が、トップ・ガンの上のベストガイになる為に
頑張る物語で、笑い、ラブロマンス、サスペンス、スリル、偽スホーイありと存分に楽しめる内容となっております(東宝の回し者?)。まあ、映画「トップガン」のパクリだとの意見も聞かれますが、空撮シーンはものすごく良いです。あそこまで空撮にこだわった映画は、ハリウッドでもお目にかかれません(防衛庁全面協力)。


 

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