Webメールシステムの構築と運用
-- OutLookサポートからの解放 --
沢田 潔1) ヒューズ スコット2) 東山 正人2) 永野 泰之1) 浅井 広1) 岸 真司1)
名古屋第二赤十字病院 医療情報部1)
リスメールチーム2)
Implementation of the open source Webmail system.
-- We had been released from support of OutLooks. --
Sawada Kiyoshi1) Scott A. Hughes2) Masato Higashiyama2) Nagano Yasuyuki1) Asai Hiroshi1) Kishi Shinji1)
Department of Medical Informatics, Nagoya Daini Red Cross Hospital, Nagoya, Japan1)
The RisuMail Team, Tokyo, Japan2)
Abstract: We had adopted Microsoft Outlook as the standard office PC mail application within our organisation, and provide end-user support for it over the years. However, Outlook has the inconvenience of only being able to send and receive email from a computer that has been pre-configured, configuration itself is awkward, and regular occurrences such as personnel being relocated within the organisation and the need to move their data from one PC to another, generated numerous problems and a heavy work-load for support.
Webmail is an alternative approach whereby email is sent and received via a web browser. This enables the sending and receiving of email from any computer anywhere, as long as the computer has a browser and is connected to the network. SquirrelMail is an open source webmail application that supports the IMAP4 protocol.
In order to resolve the problems we had with the use of Outlook, we implemented a webmail system and have started providing this service for our end-users.
Keywords: Webmail, IMAP4, SquirrelMail, open source

1. はじめに
 当院では1999年2月より、HIS業務用PCメーラーとしてOutLookを利用してきた。 2003年6月現在、業務PC約500台 アカウント数1068人 の規模でメールシステムを運用しているが、 設定したPC上でしか送受信ができない不便さ、難解なメール設定方法や人事異動による個人データ移行などで トラブルやサポートの負担が発生している。 これら問題点を解決するために、2003年3月よりWebメールサービスを開始した。
2. Webメールのしくみ
2.1 Webメールとは
 Webメールとは、IEやNetscapeなどのWebブラウザ上で電子メールを送受信する仕組みである。 ネットワーク上に接続しWebブラウザが使える環境ならば、いつでもどこでも、メール送受信が可能である。 インターネットの世界では、Yahoo!メール・フリーメールなどがWebメールとして有名である(図1)。
図 1 Webメール画面
2.2 POP3とIMAP4との違い
 一般的には、POP3プロトコルにて、OutLookやユードラなどPC端末上に設定されたメールソフト(メーラ)を使用して、 メールの読み書きを行なう。 POP3はメールサーバからメールをPC端末上のメールソフト(メーラ)に持ってくる、一方通行の仕組みである(図2)。
図 2 POP3プロトコル

 一方IMAP4 は POP3 のようにメールを取り込むだけではなく、サーバ上にフォルダを作成し、 そのフォルダにメッセージを保存することが可能である。 また、IMAP4を用いたWebメールサーバとによって、PC端末上のWebブラウザなら、 どこでも同じようにメールを読んだり書いたりすることが可能となる。
図 3 IMAP4プロトコル
2.3 Webメールのしくみ
 Webメールは、IMAP4プロトコルを使用する。 IMAP4プロトコル(図3)におけるメールクライアント(メーラ)に相当するものが 「Webメールサーバ」である。
Webメールサーバは、
  1. ユーザ利用端末とHTMLで通信を行う(ユーザ操作はPC端末のWebブラウザ)。
  2. ログイン時に入力された、メールユーザ名とメールパスワードをメールサーバ本体に問い合わせて「認証」を行う。 認証が成功するとメールの読み書きができる。
  3. 個人メールBOXからメールを取り出し、Web画面上に「メール受信リスト」を作成する。
  4. メール受信リストから選択された「メール本文」を表示する。
  5. メール作成をWeb画面上で行い、メールサーバへSMTPで送信する。
などの、メールを操作するための基本的な機能がある。
Webメールのしくみ(図4) ではWebメールサーバとメールサーバとは別けてあるが、同一サーバ上で動作も可能である。
図 4 Webメールのしくみ
3. システム構成
3.1 SquirrelMailとは?
 オープンソース SquirrelMail(スクイリルメール) 1) は、 PHP4で記述された標準規格重視のWebメールシステムである。 メールの管理や送受信のために、IMAP/SMTPプロトコルを標準に実装した シンプルなWebアプリケーションサーバーソフトウェアである。 SquirrelMailには、次のような特徴がある。
  1. 他のソフトウェアに依存する部分が少ないため、インストールや設定が容易である。
  2. HTML 4.0に準拠した純粋なHTMLを返すため、いろいろなWebブラウザを使用してメール環境を利用できる (オプションでJavaScriptも使用可能)。
  3. MIMEサポート、アドレス帳、フォルダ操作といった一般的なメールクライアントの機能を標準装備している。
  4. プラグインによる高機能なユーザ向けツールの拡張が可能である。
SquirrelMailはGPL(Gnu Public License)で配布されている。 現在、国内外の企業・個人に使用されており、ユーザ数は約200万人以上あると報告されている。
3.2 システム構築
 当院では、CPU : Pentium3-1.2GHz*2, MEM : 512MB, HDD : 120GB(RAID5) の、1サーバ構成で、 OS : RedHat-Linux7.2, HTTPD : Apache1.3.28, MTA : Sendmail8.12.9, IMAPD : UW-imapd2002, スクリプト言語 2) 3) : PHP4.3.2, ユーザプリファレンス格納用DB : PostgreSQL7.3.3 などの オープンソースを用いて構築した(図4)。
 SquirrelMailには、コンソールでの対話形式インストーラー(図5)が用意されているので、 システム構築やサーバ環境設定が容易である。 また、国際化翻訳システムの対応がなされており、デフォルト翻訳言語として日本語が選択できる。
図 5 SquirrelMail 対話形式インストーラー
4. 運用
4.1 マニュアルの整備
 リリースの前に、Webメールの仕組み、制限事項・注意点、最初に行なうこと(図6)などの コンテンツを充実させ、初心者でも初期労力が少なく開始できる環境を整えた。 特に、「OutLookからWebメールへしなやかな移行」(図7)と題したマニュアルでは、 OutLookで受信したメールをWebメールへ転送する方法を重点に解説している。
4.2 OutLookへの移行時の問題点
 OutLookに保存されている送受信メールのデータは、添付ファイルによる転送にてWebメールへ 移行をしていただいたが、OutLookのアドレス帳データの移行は、ユーザに手作業にてお願いした。 今後は、新しくリリースされたSquirrelMailのCSV形式のアドレス帳インポート/エクスポート プラグインを利用することによって、双方向でアドレス帳データの移行が可能となる。
4.3 OutLookとの併用における問題点
 当院で業務PCにインストールされているOutLookは、セキュリティを重視した 「企業/ワークグループモード」で設定されている。このモードではIMAP4はサポート されておらず、POP3でのみのメーラーとなる。したがって、OutLookでメールを取り込むと サーバ側のメールBOXが空となり、次にWebメールでメールを開くと受信メールフォルダ(INBOX) 上のメールリストがなくなってしまう。
 また、Webメール側のメール振り分け機能で、受信メールを個人フォルダの別のフォルダへ 移動した場合、次にIMAP4に対応していないOutLookを使うと、サーバ上の個人フォルダは表示できない。
 これら併用時の制限事項・注意事項もアナウンスした(図8)。
 2003年6月に業務PCのHDD初期化(すなわちOutLook個人プロファイルデータの消去)を期に、 OutLookの利用を止めてWebメールへの移行を促した。
4.4 HTMLのmailtoタグ問題
 従来、院内Webページに公開している職員メールアドレス一覧表では、 HTMLのmailtoタグを使ってワンクリックで端末POPメール送信画面が開くように利用者の便を 図っていた。しかし、Webメールの利用者の増加とともに、端末のPOPメーラが 起動してしまうこの機能はかえって混乱の元になる恐れがあったため廃止をした。 現段階では、POPメーラの利用者にとっては利便性が失われることとなってしまった。
今後は、Webメール内の共用アドレス帳に職員の電子メールアドレス一覧からメール送信が できるとともに、業務PCでは院内Webページのmailtoタグ・クリックで、Webメールの メール送信画面が起動可能なようにWebブラウザの設定を見直す検討をしている。
図 6 Webメール 最初に行なうこと
図 7 OutLookからWebメールへしなやかな移行
図 8 Webメールとの併用時の制限事項・注意事項
5. 稼動状況
5.1 Webアクセス状況
 2003年3月より開始し、同年5~6月のWebメールログイン1日平均314回、 HTTPのアクセス1日平均6400件であった。
5.2 利用状況
 OutLookなどPOP3でのメールソフトでは、 などの制約があったが、Webメールによって、院内各所のPCで、いつでもどこでも 同一のメール環境が利用できるようになったことは、多くの病院職員から好評をいただいている。
 さらに、SquirrelMailのファイルマネージャープラグインにより、個人フォルダ上にファイルの保存/退避が行なえ、 PC間のファイル転送/移動がFDやMOなどの媒体に頼らず行なえるようになった。
5.3 サポート・管理
従来のOutLookのユーザサポートとして、
  1. メール新規開始時の初期設定
  2. 人事異動におけるOutLook個人プロファイルの異動先PCへの引越し
が、電話サポートや現場へ赴いてのサポートが頻繁にあった。 これらのサポート業務から解放されたことは管理者サイドにとって福音となった。
6. まとめと考察
WebメールシステムはサーバHDD個人容量制限に問題点はあるものの、 PC側のユーザ管理・サポートの負担から解放され、かつユーザ利便性の大幅な向上がある。
今後は、 を、計画中である。
SquirrelMailはこれらの拡張にも十分耐えうる基本機能を有すると考える。
7. SquirrelMail(スクイリルメール)の日本公式サイト
 SquirrelMail(スクイリルメール)1)の日本公式サイトが、 SquirrelMail Japan として公開されている。
SquirrelMail JapanのURLは http://www.squirrelmail.jp/であり、 日本語においてSquirrelMailを使用する、又は使用したい個人、組織向けに、 コミュニケーションとダウンロードのハブとして設立されている。
参考文献
[1]SquirrelMail Japan. スクイリルメール日本公式サイト: http://www.squirrelmail.jp/ , 2003.
[2]廣川 類 他. PHP4徹底攻略: ソフトバンク パブリッシング, 2002.
[3]廣川 類 他. PHP4徹底攻略実践編: ソフトバンク パブリッシング, 2002.