○主な登場人物
中田裕一 (30)
響 愛華 (10)
石川弘之 (9) 眼鏡をかけている
石川沙耶 (6)
高田勇太 (9)
愛華の母 (34)
愛華の父 (36)
先生 (男28独身)
車掌(27)
中田の父 (58)
中田の母 (56)

○九月、土曜日の夜
●響 愛華宅 子供部屋
探偵ものアニメ番組の絵のついた学習机の上に手紙。
机の時計は午後7時10分を指している。
手紙の内容は
『ごめんなさい。旅に出ます。日曜日には帰ってきます』

●響家 居間
  食卓横でおろおろして受話器を握る愛華母。
  食卓の椅子に座り、険しい表情でたばこをふかす父。

愛華母「(心配そうに)はい、先生。そうです。置き手紙を。
      (少し間を置いて)えっ、弘之くんや勇太くん達も?」

●愛華の先生宅
  やや暗い殺風景な部屋
先生  「(頼りない声で)そ、そうなんです。同じように
        手紙を残して、いなくなってるんです。
        なにか、愛華さん達が旅に出る理由とかわかり
        ませんか?愛華さんが最も年上ですし」
●響宅
愛華母「わかりません、娘はこんなことをするような
        子じゃないですし」
愛華父「(机を叩いて)いったい、愛華はどこへ言ったんだ」
首をたれる父。

●ローカル電車車内
  まばらな乗客。
  子供が4人、対面シートにすわっている。
  愛華と沙耶が隣、弘之と勇太が隣という配置。
  愛華は時刻表をひらいている。弘之は小冊子をじっと読んでいる。
  (ひみつブックと書かれているマンガイラスト付き小冊子)
  沙耶は愛華の時刻表を興味深げに覗き込んでいる。
  勇太はジュースを飲んでいる。

  その背後の席。裕一が座っている。窓際にはビール。

車掌がやってくる。
車掌  「次は舟形〜」
子供たちを見つけ、おやという表情をして、
子供たちの席の前で立ち止まり、

車掌  「きみたち、お父さんやお母さんは?」
子供たち、どきっとする。
愛華  「え、えっと」
車掌  「どこから来たんだい」

裕一、その様子に気がつき、子供たちの方を見る。
険しい表情でだまっている子供たち。

車掌  「(やさしく)黙っていちゃ、わからないよ」

裕一、立ち上がり、
裕一  「すいません。私が保護者です」

車掌、ちょっとけげんな表情をして、
車掌  「あ、そうですか。(子供たちを見て)
        お嬢ちゃん達、そうなのかい」
愛華  「そ、そうです」
弘之  「う、うん」
車掌  「(裕一の方を見て軽くおじぎをして)
        それは失礼しました」
立ち去る車掌

愛華、車掌の方を見て、いなくなったのを確認して、
愛華  「(小声で)お、おじさん、ありがとう」
裕一  「(やや小声で)君たち、どこから来たんだい」
裕一、隣の席に座り直す。
愛華  「え、えっと」
勇太、ジュースを窓際に置いて、
勇太  「掛川だよ、静岡県の掛川」
裕一  「ええっ、そんな遠くから・・・。よく子供だけで
        山形まで来れたね」
勇太  「怪しまれないように、何度も自動販売機で、
        切符を買い直したんだ」
沙耶  「おかげで一度電車に乗り遅れた〜」
裕一  「なるほどねぇ」
愛華  「お願い、車掌さんには言わないで。どうしても
        行きたいところがあるの」
沙耶  「そうよ。ひみつ探しをしなきゃならないの〜」
弘之  「こ、こら、沙耶!」
裕一  「ひみつ探し?(子供たちの表情をうかがって)
        大丈夫、車掌には言わないから、教えてくれないかな」
弘之、ひみつブックを掲げて
弘之  「こ、これだよ、この本の中に秘密の暗号を見つけたんだ」
裕一  「暗号?」
勇太、弘之からひみつブックを取り上げて、開いて、
本の下の方を指す。
勇太  「この下のところになぞなぞがあるだろ。これを解いた答えの
        頭の文字を順番にならべると、えっと何だっけ」
弘之  「(ちょっとムッとしながら)オシロノキタ、
        チョウナイベンチウラニヒミツアリ」
裕一  「お城の北?」
勇太  「そうそう。その謎を愛華が解いたんだよ。な」
愛華  「うん。このお城の北ってのは、城北線のこと。
        チョウがないということは」
沙耶  「ヒラしゃいん。うちのパパ!」
弘之  「こら、沙耶」
愛華  「愛知県にある城北線のひら(比良)駅に秘密があると
        いう、暗号だったの」
勇太  「で、面白いから、俺と弘之で行ってみたんだ。その
        比良駅へよぉ。そしたらあったんだよ」
裕一  「(わくわくした表情で)え、何が」

●舟形駅、ホーム。止まっている電車、
扉が閉まり発車

●車内
4つに折られた新聞紙の切れ端を裕一に見せている弘之。
弘之  「これだよ。これがベンチの裏に貼り付けてあったんだ」

裕一、それを受け取り、ひろげる。

裕一  「なになに、0268、スルトシカラレル。
        なんじゃこりゃ」
弘之  「わからないでしょう」
裕一  「この0268というのは、市外局番?」
勇太  「ぶっぶ〜」
沙耶  「おふろやだよ」
弘之  「こら、簡単に教えたら面白くないだろ」
裕一  「おふろや? しかられる?えっと、あ、そうか、ノゾキ!」
愛華  「おじさん。声が大きいよ」
裕一  「す、すまん。でも、正解だろ?」
弘之  「大正解!奥羽本線のノゾキ(及位)駅」
裕一  「僕は山形出身だからわかったけど、良く分かったねぇ」
愛華、裕一の持つ切れ端を覗き込んで、
愛華  「ほら。この新聞、山形の新聞でしょ。それでわかったの」
裕一  「なるほどなぁ・・で、その及位駅に行くのかい」
子供達「うん(うなづく)」
裕一、窓の外を見て、
裕一  「でもさぁ、もう暗くなってきてるよ。どこか、
        泊まるあてはあるのかい」
勇太  「ドロンズみたいに野宿」
沙耶  「そう、ガソリンスタンド!」
裕一  「そ、そりゃ、無理だよ。すぐ警察が来ちゃうよ。
        ぼくも子供が野宿するなんてほっとけないし」
愛華  「お願い見逃して、もうちょっとなの」
沙耶  「お願い・・」
裕一  「う〜ん。そうだなぁ」
車内アナウンス「次は、新庄です」
裕一  「よし」

○午後8時半
●古い民家
●風呂場、やや広い。
中田父と、風呂に入ってはしゃぐ沙耶。
弘之、勇太の背中を流している。

●広い座敷。テレビがある。大きなテーブルの上には食事。
  黒電話の受話器を持っているいる中田母。
  中田と風呂上がりの愛華がざぶとんに座っている。
中田母「はいはい、いえいえ、お気になさらずにぃ、はい、明日山形駅
        さまでいらっしゃてけろじゅ(山形なまり)」
電話を置く中田母。
中田母「そでにしても、驚いただげやぁ。久しぶりに帰ってきだ
        思っだら、孫さ連れできだんかと思うだじゅう」
裕一  「ばっだれ、まだ、結婚もしでねぇがに、なにあほなこというがぁ」
ちょっとびっくりした表情をする愛華。
中田父「(遠くから)子んらが風呂出ただじゅう〜」
中田母「はぁ〜い」

●中田家、外からの風景。
  窓のカーテンの隙間から光がこぼれている。
  子供達の大きな声。

●座敷
みんなでご飯を食べている。
裕一  「それにしても、どうして、親にだまって来たんだい。
        親と一緒にこればよかったのに」
愛華  「お父さん、電車で旅行しないの。電車はいやだって。
        それに、いつも旅行は、計画どおりに
        休みをとって決まったとこしかいかないの」
弘之  「うちの親、あの秘密の暗号。馬鹿にして、
        とりあってもくれないんだよ」
沙耶  「そうそう、お兄ちゃんバカなの」
弘之  「ちがうだろ。・・・それに勇太とだまってでかけたこと
        すごくしかられた」
勇太  「おれんちは、親が共稼ぎで旅行へ行く暇もないんだ」
中田母「でも、親に心配かげったらいけないだべな」
中田父「そだ。心配かげっちゃだめだじゅ」
子供達「う、うん(うなづく)」
中田父「ゆういぢもだじゅう」
沙耶  「わ〜い。ゆういぢもだじゅう、ゆういぢもだじゅう」
頭をかく裕一。

○朝
●玄関
出かける裕一と、子供達。
玄関の外に立つ中田夫婦。
愛華  「どうも、お世話になりました」
他の子供達「せぇ〜の、(おじぎして)ありがとうごさいました」
中田父「また、遊びにきてけろ」
中田母「これ、お弁当。そっからおがあさん達にお土産だじゅ」
お弁当とお土産を渡す中田母。受け取る愛華。
愛華  「どうも、ありがとうございます」
裕一  「じゃ、行こう、不思議探しの旅のゴールへ」
子供達、握りこぶしを振り上げ、
子供達「おー!」

●及位駅改札口
発車する電車。
改札を出る、裕一と子供達。
待合室に老夫婦が座っている。
愛華  「すみません。この辺にお風呂屋はありませんか?」
夫    「は?お風呂屋?のぞきのお風呂屋だべか、ほ〜ほっほ」
夫の背中を強く叩く妻。
妻    「こん人はなんちゅうあほなことを・・。
        お嬢ちゃん、あいにく、この辺に銭湯はないだべよ」
愛華  「そうですか、どうも、ありがとうございます」
裕一  「ううむ、ここに来て、手がかりなしか・・」

弘之、紙を取り出し
弘之  「何か新聞紙の切れ端に他に秘密はないかなぁ。さかさに
        するとか・・・。う〜ん」
沙耶  「しんぶんし、さかさに読んでもしんぶんし〜」
勇太  「それだ! 逆さに読んでも同じ場所だ」
愛華  「そ、そうなると、あっ、や、やおやよ、きっと!」

●八百屋「八百八」の前

歩いてくる裕一と子供達。
看板を指差す弘之。

弘之  「間違いないよ。この店の名前自体、逆さにしても
        同じに読めるもん」

店内に入る子供達。裕一は外で待つ。

●店内
店の奥にすわっているおばさん(ちょっと顔恐い)、
子供達を見て、立ち上がる。
おばさん「なにかね」
愛華    「あ、あの、すみません。あの〜」
ひみつブックを見せる愛華。
おばさん「(にやりと笑い)ほほ〜、秘密を見つけた
          子がまた来たな〜」
勇太    「また? ・・しまった先を越された!」
弘之    「なんてこったい。マイケル!」
沙耶    「おぉ、まいご〜!」
がっくり倒れる沙耶。
おばさん「まぁ、そんなにしょげなさんな。ちょっとまってな」

おばさん、奥から、古びた箱を持ってきて、ふたを開ける。
七色にきらきら輝くカードが見える。
子供達  「わぁ〜」(沙耶を除く)
おばさん「これは特別なカードだと、雑誌社の人が言ってたぞ」
カードを取り出す弘之。
弘之    「これはまぼろしのウィザード、トロワのカードだ」
勇太    「やったぁ」
愛華    「ここまで来たかいがあったわ」
よこになっていた沙耶、起き上がって、
沙耶    「よく見えないよ。沙耶にも見せて・・・」

●八百屋「八百八」外
長椅子に座って待っていた裕一。
子供達やってくる。
裕一  「秘密は見つかったかい」
子供達、カードを掲げて、
子供達「うん!」

●山形駅新幹線ホーム
響夫妻と、にこにこした子供達と、裕一が立っている。
愛華夫「どうも、ご迷惑おかけしました」
裕一  「いえいえ、とても楽しかったです」
愛華母「それにしても、愛華、どうしてこんなことしたの?」
愛華  「これよ」
きらきらしたトロワのカードを見せる。
愛華父「なにぃ、こんなカードのために、こんな
        とこまで来たというのか」
がっくりする愛華父。
裕一  「でも、子供達のいい思い出になったと
        思いますよ」
愛華  「(頭を下げて)ごめんなさい。もうこんなことはしません」
他の子供達「せ〜の。(頭を下げて)ごめんなさい」
愛華父「わ、わかった。もう二度とこんなことするんじゃないぞ」

アナウンス
「まもなくつばさ132号東京行が発車します」

愛華父「それじゃあ、失礼します」
愛華母「ほんとお世話になりました」
子供達「おじさん、バイバイ」

電車に向かう、響夫妻と子供達。
裕一、愛華の肩を叩く。振り向く愛華。
裕一  「(小声で)お父さん、電車で来たね。よかったね」
愛華  「うん」
愛華母「愛華、早くしなさい」
愛華、裕一に手を振って、
愛華  「バイバイ」
乗り込む子供達。
沙耶、扉から顔を出す。

沙耶  「ゆういぢも親に心配かけるんじゃないぞ」

沙耶を車内に引っ張る弘之、戸が閉まり
発車する新幹線。

頭をかく裕一。
裕一  「バイバイ・・・ありがとう」

−完−