●登場人物
加東拓雄(30)
藤村  潔(29)
加東恭子(22)
さやか(17)
みゆき(16)
ゆか(16)

○午前7時、駅。
      会社へ向かうサラリーマン、学生達が階段を
      登っていく。発車する電車。

      駅の改札の前、通勤客の中を歩く加東。
      左脇にノートパソコンを抱えている。
      肩をすくめ、ちょっとおろおろしながら歩く。
      自動改札を通り、辺りをきょろきょろと見ながら、
      階段を登っていく加東。

      ホームで、電車を待つセーラー服姿の女子高生
      (みゆき、さやか、ゆか)達。
      靴下は紺のハイソックス(…ってなんでもいいけど)。
      加東がやってきて後ろに並ぶ。

みゆき「なに、それ信じられない〜」
さやか「でしょ、でしょ、でね〜、彼氏がさぁ〜」
ゆ  か「彼氏って、もしかしてそれってヒロシ〜?」
さやか「ちがう、ちがう、もうヒロシとは終わったんだから〜」

      加東その姿をちらっと見る。電車の警笛の音。
      ホームに電車が到着する。電車の扉が開く。
      おしゃべりをしながら電車に乗る女子高生達。
      それに続き、辺りを見回しながら、電車に乗る加東。

○加東の回想
      ファミリーレストランで食事をする藤村と加東。

藤  村「そうか、お前ももう30かぁ〜」
加  東「ほっとけよ。ところでさぁ」

      テーブルの上の紙袋、ノートパソコンがちらっと見える。

加  東「それってパソコンか?ずいぶん小さいな」
藤  村「(パソコンの方を見て)あぁ、これか」
      藤村、紙袋から小型のS社のノートパソコンを取り出す。
藤  村「最近、電子メールとか多くてさぁ〜、これだと、
        外回りの時も読めて、便利なんだよ」
      藤村、ノートパソコンの蓋を開く。
      液晶ディスプレーの上部に小型カメラが付いている。
加  東「あれ?…それって、カメラか?」
藤  村「あぁ、まぁ、あんまり使わないんだけどな。
        動画も撮れるんだよ」
加  東「へぇ、そんなのがあるんだ」
      しげしげとパソコンを見る加東。

○パソコンショップ
      藤村の持っていたのと同型のS社のノートパソコンが置いてある
      (前のシーンのパソコンの映像とオーバーラップさせる)。
      周囲には他のノートパソコンが所狭しと並ぶ。
      その前に立っている加東とパソコンショップの店員。

      店員、そのノートパソコンを差して、
店  員「はい、これです。今なら拡張バッテリーをサービスしますよ」
加  東「(小さくささやくように)う〜ん、どうしようかなぁ」

      加東、辺りを見回し、「カメラ搭載」と書かれたPOP広告に
      目を止める。そこにはP社のノートパソコンがある。
加  東「あ」
      加東、それを指差しながら、
加  東「これって・・・」
店  員「あぁ、それですか。それもカメラ付きですよ」
      店員、そのノートパソコンをもって、液晶ディスプレーの下の方に
      あるカメラを指差し、
店  員「これは、ここにカメラが付いてます」
加  東「(小さくささやくように)こっちのが…低い」
      しげしげとパソコンを見る加東。

○加東の自宅
      P社のノートパソコンが加東の膝の上に乗っている。
      向かいあわせにソファーが置いてある居間。
      ソファーに座っている加東、パソコンを操作している。
      液晶ディスプレーには対面のソファーが映ったウィンドウが
      表示されている。

加  東「う〜ん、このままじゃまずいなぁ」

      加東の背後から恭子がやってきて、加東の操作する
      パソコン画面を覗きこむ。
恭  子「何やってるの、おにいちゃん」
加  東「わっ!」
      びくっとする加東、背後を見る。
加  東「な、なんだ恭子か…、おどかすなよ」
恭  子「こんなとこで何やってるのよ」
加  東「いや、その…、でで、電池のチェックをしてたんだよ」
恭  子「パソコンなんかに、ちっとも興味の無かった
        おにいちゃんが、どういうことなんでしょうねぇ」
加  東「いまどき、携帯パソコンぐらい持ってないと
        職場で笑われるんだよぉ」
恭  子「ふ〜ん。あ、私、出かけるから、あとよろしくね」
加  東「デートか」
恭  子「おにいちゃんも早く彼女ぐらい作りなさい」
加  東「うるさいよ恭子」
恭  子「じゃあねぇ〜」

      立ち去る恭子、顔をしかめながら、それを観ている加東。

○夜。加東の部屋。
      室内灯は消してあり、電気スタンドがついている。
      机には分解されたマウス、ドライバが置いてある。
      取り外されたケーブルには、小型のスイッチが付いている。

加  東「う〜ん、こんな感じかなぁ」
      小型のスイッチを押す加東。カチッと音がする。
加  東「難しいなぁ」
      カチッと音がする。
加  東「こうかなぁ」
      カチッと音がする。

○電車に乗り込む加東のシーン(冒頭のものと同じ)

      電車に乗り込む加東。扉がしまり、発車する電車。
      やや混み合った車内。

車内アナウンス
      「車内混み合いまして、ご迷惑おかけしております。
        なお、携帯電話のご使用は、他のお客様のご迷惑と
        なりますので、ご遠慮ください」

      そのアナウンスが流れる中、
      おしゃべりをする立っている女子高生さやか達、
      それをちらちら見る加東。
      それを見てちょっと不快な顔をする女子高生達。
      それに気づいて思わず目を逸らす加東。

車内アナウンス
      「まもなく、宝蔵寺、宝蔵寺です」

      停車する車両、扉が開くと多くの乗客が降りる。
      空いた席に女子高生達(さやか、みゆき、ゆか)座る。
      対面の席、ちょっと狭い空き席がある。
      そこにちょっとむりやり座る加東。
      右となりのおばさん(45歳)と、左となりの男子高生達が
      不快な顔をする。
      バツが悪そうに、左右をちらっと見てから、頭を下げる加東。

      ドアが閉まり、発車する電車。

      ひざの上にノートパソコンをゆっくり置き、
      目を閉じる加東。額に汗がにじむ。
      加東の手が、ノートパソコンの左側に不自然に付いている
      ボタンの方に動いていく。
      人差し指がボタンの上に。

携帯電話の音「ピピピピピ・・・」

      びっくりして目を開け、手をひっこめる加東。
      向かい側のさやか、携帯電話を取り出す。

さやか「もしもし、あ、ヒロシ〜?いま電車の中、
        うん、そう。え〜、そうなの?」

      足を組み替え、話を続けるさやか。
      不愉快な表情をする加東の右隣のおばさん。

      加東、心臓の音がドキドキしながら、
      再度、手をボタンの上に持っていく。

      カチッという音がする。

      電話しているさやかの隣のみゆきが、
      その音に気がつき、加東の方を見る。
      加東の手が震えている。
      閉じられたノートパソコンには小型カメラのレンズ。

みゆき「あ…、ああっ!このヤロぉ…」
ゆ  か「みゆき、どうした」
みゆき「こいつ、さやかのパンツ、盗撮してるぞ〜!」
さやか「ええっ〜」
      電話をしていたさやか、びっくりして足を閉じる。
      乗客達、加東の方を見る。
      びっくりして顔をあげる加東。

女子高生達、立ち上がって、加東の方につめよって来る。
加  東「え、え、僕は何も…」

みゆき「このヘンタイ野郎。見せろよ、そのパソコン!」
      加東のひざの上のパソコンを奪い取るみゆき。
加  東「あ、ああっ」
      みゆき、蓋を開ける。液晶画面には、
      パソコンに付いているカメラが撮影中の映像が
      リアルタイムに表示されている。
みゆき「やっぱり」
      そこに男子高生がやってくる。
男子高生「ちょっと待ってろ…」
      横から液晶を覗きこみタッチパッドを操作する男子高生。
      足を組み替えているさやかの下半身がアップになった
      映像(動画)が映し出されている。
さやか「(顔を紅潮させ、声を荒げて)こいつ信じられねぇ〜」
みゆき「この野郎!」
      みゆきにネクタイをつかまれる加東。
ゆ  か「なに考えてんだこいつぅ!」
加  東「(上ずった声で)あ、あっ、ご、ごめんなさい…」
男子高生「よ〜し、このヘンタイ野郎のズボン降ろそうぜ」
みゆき「よ〜し、あたしが降ろしてやる!」
加  東「や…、や…、やめ」
ゆ  か「みゆき、ちゃんと押さえたよ」
      加東を押さえつける男子高生と、ゆか。
      顔をしかめて見ているさやか。
      ベルトを外すみゆき

○郊外を走っていく電車の映像。

加東の声「ぎゃぁ〜」

-完-