放課後児童クラブ運営の為の手法(平成28年8月10日)

児童健全育成指導士 田中 純一

放課後児童クラブの運営は全国各地様々です。おやつ一つとってみても、手作りおやつがよい、おやつは出さない、既製品が良いなどがあります。また食べ方もおやつタイムの時間内にいつでも食べれる、みんなで一緒に食べる、頂ますは一緒だが、ご馳走様は別々など多様です。おやつに限らないでその他の運営方法も実に様々ですが、それぞれのクラブでは自分たちのやり方しか知らないとか自分たちのやり方だけが正しいと思っていることもあります。
 世の中は状況環境依存的ですから、いろいろな手法を知り、試してみて、状況にあった子どもたちの為になり、支援員にとっても無理のない手法を見つけたいものだと私は思います。いろいろなクラブをみさせてもらい、学んだことを提案してみたいと思います。 

1、      1、男の子は出来るだけ暇な時間をなくしてあげるのも良い

2、       2、ストレスを出来るだけ減らす手法 
  イ 一人静か遊び(詰将棋・マンガ・折り紙・恋占いトランプなどなど)
 ロ ゴロゴロタイム(お昼寝・読書・マンガなど)
 ハ フリータイム(学習・読書・お絵かき・将棋・オニム・転がしドッジなど)
  二 活動タイム(避難訓練・全員での工作や縄跳びやゲーム・縄跳び・けん玉など)
 ホ おやつタイム(20分程度の間に自由におやつ終わったら一人静か遊び)
 へ ランチタイム(45分程度の間に食べる終わったら一人静か遊び)

   3、    モストティーチング・モアラーニング

4、      4、一つの活動の中に働く・学ぶ・遊ぶのメリハリを
 イ 働き・学び・遊びのメリハリを
  ロ 利他的行為と利己的行為が一致する活動を
  ハ 働くことを大切にする

   5、    臨機応変のグループ作り
 イ 学年別グループ・男女別グループ・異年齢グループ・自然発生的グループ

   6、    障がい児対応が子どもへの対応の基本
  イ バーバリズムに陥らない
  ロ ユニバーサルデザインの活動を
  ハ 子どもを支配しようとしない


 1、  男の子は出来るだけ暇な時間をなくしてあげると良い
 ADHD(注意過敏多動性症候群)と言われる子どもが7%から8%いると言われていますが、7人から8人の内、女の子が一人に対して男の子が6人から7人との統計が出ているそうです。男の子は刺激に反応しやすくできているようです。ですから男の子は暇があるとついつい余計なことをしてしまうものです。歩道の縁石に上がり、空き缶があると蹴り、石があったら投げます。サイレンの音がすれば飛び出すし、やることがなければ隣の女の子を小突いたり髪を引っ張ったりします。
 集団行動で折り紙を教える時も予め男の子に暇を与えないようにしておくと問題行動が激減します。折り紙を半分に長□折りにしたら、立てて気合いで倒す。また開いて反対に長□折りをして、頭に載せて集会室を一周するなどです。
 避難訓練などもただ黙って座らせておく時間を少なくし、たとえば座った人から『おはしもて』(おさない、はしらない、しゃべらない、もどらない、ていがくねんゆうせん)を頭の中で10回繰り返し考えてみるなどの課題を与えておくことも良いと思います。
 集団が集まるまでの時間調整としてちょっとしたクイズやゲームなども有効です。
 男の子は刺激に反応しやすいものです。不必要なことに反応しないように別の課題を準備しておくことが必要です。

2、  ストレスを出来るだけ減らす手法
 放課後児童クラブでは必ず学習をしなければならないとか、読書をしなければならないなどの規制がありません。子どもたちに選択肢を多く用意しておけば、その中で選択して楽しく時間を過ごすことが出来ます。学習タイム45分・読書タイム30分・お昼寝タイム45分・おやつタイム30分などと一斉に規制をするために、障がい児やADHD傾向の子どもたちを中心に問題行動を起こしてクラブ全体がたいへんな状況になることもあるものです。大人でも読書タイム45分+学習タイム45分と90分の制限は辛いものです。
 そこでいくつかを組み合わせて選択肢を用意することが良いと感じています。
 イ 一人静か遊びタイム
 一人静か遊びとはおやつタイム、昼食タイム、学習読書タイムなどが終わった子どもに自由遊びにさせてしまうと、友達とおしゃべりして他の子どもの邪魔になったりケンカをしたりすることを防ぐために考えたものです。
 子どもの活動を下からしっかり観察していると(=under stand)見えてくるものがあります。子どもたちは仲間と一緒に遊ぶとそれがエスカレートしてケンカになるものです。そこで遊んでも良いけれど一人でしか遊ばないルールを作りました。将棋やオセロやオニムもなしです。でも詰将棋、マンガや本読み、トランプの恋占い、写し絵、折り紙なども一人でやるものなら自由です。思考するとかも良いでしょう。一人静か遊びをやらせるとトラブルが減少するので長期休業期間中の職員の休憩時間確保にもなります。
 一人で静かに遊べないで常に大人の援助がないと遊べない子どももいます。こうした子どもにもその子どもの発達段階を考慮して、適切な一人遊びが出来るものを提供するための研究が必要です。その子どもの興味が何かをunderstand(=理解して)いくことが大切です。障がい児は固執性があることが多いものです。その子どもが固執するものが何かを見つけて、必要なことをすることは多少費用と時間がかかります。トラブルを起こした後始末を考えれば安いものともいえます。
 ロ ゴロゴロタイム
 昔は長期間休業中にはお昼寝タイムがありました。小学生期はお昼寝を必要とする子どももいますが、必要としない子どももいます。子どもに「『静かに寝なさい』との先生の怒鳴り声がうるさくて眠れない」と言われるよりもお昼寝タイムをゴロゴロタイムにしているクラブもあります。ゴロゴロタイムでは他人に迷惑さえかけなければお昼寝、マンガ、読書、学習、折り紙、将棋など静かな活動であればOKとの考えです。
 ハ フリータイム
 放課後児童クラブでは必ずしも学習をしなければならないとは決められていません。それを無理やり座らせて学習を強制する必要があるかは難しい所です。学習も含めていろいろなことを自由にやる時間と設定して、その中で子どもに選択させることもあるように思います。
 二 学習タイム・読書タイム
 学習の習慣付けのために学習タイム等を設定することもあるかと思います。低学年から高学年では学習量も違います。学習を終わった人から一人静か遊びに移行して良いとの手法が私は良いのではないかと思います。なお夏休みも宿題も終わらないのにマンガを読み始める子どもがいたとしたら、それは個別援助活動の問題となります。
 ホ おやつタイムや昼食タイム
 男の子にとっておやつや昼食は栄養補給でしかないことが多いものです。しっかりと食べることは個別援助活動の問題になると思います。おやつなら20分から30分、お昼なら45分から1時間の時間設定をして、その時間内に自由に食べるとのやり方だとトラブルが減少します。
 ト 集団活動タイム
 子どもたちが一人静か遊び・ゴロゴロタイム・フリータイムなどで自由な活動時間が拡大すれば集団で一斉に活動することも嫌がらなくなります。子どもたちは必ずしも集団活動が嫌いというわけでもないからです。みんなで転がしドッジをやろう、けん玉をしよう、夏休み工作をしよう、ゲーム大会をしようなどで全体の活動のメリハリをつけるために10時間のうちの45分を2回くらいの集団活動タイムがあってもと良いのではないかと思います。また万が一の避難訓練なども集団行動として大切です。ただ障がいの程度によってはみんなと同じことをすると暴れる子どももいます。そうした場合は無理をする必要性がないように思います。障がいの程度は子どもたちの方がわかっているものです。『〇〇ちゃんだけずるい』なんて言うのはたんに言ってみたいだけのことが多いものです。

3、   3、モストティーチング・モアラーニング
  シンガポールやフェンランドの学力が高いと言いますが、両国とも教えすぎないようにして子ども自身の学習を大切にしています。放課後児童クラブは子ども達に対する放課後の生活を支援することが目的です。教え込むことよりも自ら活動する時間帯を大切にした方が子どもは安定するように感じています。
 長期休業期間中で10時間いるとして、どの程度子どもをコントロールし、ティーチングの時間を割いているかを考えてみる必要性があると思います。放課後の時間を3時半から6時半の3時間としたときにどのくらいの子ども自らの活動と支援員のコントロールの時間があるかを考える必要性があると思います。
 子どもたちが自主的で発想が豊かで新しいものを創造していくクラブをみていると、支援員によるコントロールの時間が2割、子ども自身によるものが8割かなとおもうことがあります。10時間いるならば、学習読書タイムが1時間、集団活動タイムが1時間で後は基本的に子どもによる選択できるものが良いように思います。
 子どもの自由時間を増やすと子どもが悪くなるとの考えもありますが、やってみなければわからないものです。子ども自らの活動を多くしていくことが問題行動を減少させる一つの手法ではないかと私は感じています。

 4、  一つの活動の中に働き・学び・遊びのメリハリを
 イ 働き・学び・遊びのメリハリを
 働くは傍を楽にするというのが日本語の語源とか。学ぶは真似ぶが語源。遊びは和語の語源は定かでないが自由に自らの意思で動き回るとの意味のようです。働くときは他人の為に一生懸命動く、学ぶときは真摯に真似る、遊ぶときは自由とのメリハリが大切と私は感じています。
 基本的に生物は自分の生命を一番に大切にするとの原則があります。自己中心で他人の迷惑を省みないのはダメでしょうが、利己的行為は大切なことです。同時にホモサピエンスは集団行動で生き残ってきたので、利他的な行為もやる動物だそうです。子どもの発達段階をみますと、小学校低学年までは利己的なことが中心となります。中学年高学年になるにしたがって利他的行為も出てきます。放課後児童クラブ等では利己的活動が利他的活動にもなるように意図的にやるようにしたらと思います。
 ロ 利他的行為と利己的行為の一致する活動を
 クラブの周囲をみんなで草取りや石拾いをしてから遊ぼうとの『始める前に美しく』との提案は利己的行為と利他的行為が一致する活動です。『チラシをカールで裁断して折り紙をしよう』『お店屋さんごっこで店員さんをしよう』なども面白いと思います。
 ハ 働くことを大切にする
 自尊心がなくなると問題行動が多発する傾向があります。自尊心を持つことが大切ですが、自尊心を培うには他人に認めてもらっていると感じることが大切なようです。小学生期は遊びや学びを通して成長すると言われますが、エリクソンによれば小学生期の獲得課題は勤勉性とあります。勤勉性は一般的には労働とか勉強になります。学校は主に勉強をするところですから、放課後児童クラブでは働くことを大切にして勤勉性を培い、周囲の人の評価が高まり、自尊心を高める活動を取り入れることが良いと私は思います。『遊ぶ前にゴミ拾いをしよう』との活動は誰にでもできます。たくさんゴミを拾ったら褒めてあげることが大切と思います。子どもに働く経験をさせることは実はとても難しいことです。この難しさをクリアしていくことが必要と思います。


 5、  臨機応変のグループ作り

 平成27年度からは4年生以上も放課後児童クラブの対象になりました。1年生と5年生では身長・体重・学力・帰ってくる時間・興味も違います。異年齢の班を固定して活動をするのはそろそろ困難になってきていると思います。また放課後児童クラブでは家庭に代替え機能もあります。のんびりしていたいのにいつも同じメンバーでおやつを食べさせられるのは嫌な子どもも多くなっているように思います。

 基本を自然発生的なグループにしておき(一人でいることも含む)、避難訓練などでは学年別男女別、集団で工作をするときは異年齢グループなどを考えたらと思っています。また活動最中にもグループが変化していくこともあります。ユニット折り紙をやっていて、一人一人にユニット単体の折り方を指導する→仲間と大きなユニットを作る→クラブ全体に飾り付けるのようにやれば、ケースワーク→グループワーク→コミュニティワークとなっていきます。


 6、障がい児対応が子どもへの対応の基本

  イ バーバリズムに陥らない

 人間の行動の90%以上は自動的にやっていると放送大学院の現代社会心理学特論で紹介されていました。運転する場合を考えてみてもほとんどの動作は自動的に行われています。危険に備えて身体が動くようにたいていの活動は自動的に行われているのだそうです。これを認知的倹約家というそうです。認知的倹約家である人間はオートマチックに身体を動かすことがほとんどです。石を投げた子どもに『なんで石を投げるの?考えてみなさい』などと言いますが、そこに石があったから手が投げたのであって、別に考えて投げたわけではないものです。『石を投げた手が悪い』と言えばよいだけです。同様に言葉で教えることをバーバリズムと言いますが、あまりあてにならないものです。言葉に頼らないで子どもをしっかり観察してみることが必要と思います。

 遊んでいて『○○ちゃんが私を馬鹿と言った』などと言いつけにくるのも本当にそう言ったかどうか疑問なことが多いものです。実は『先生。私のことをもっと注目してください』との本音があることがあります。『今日は素敵なワンピースだね。誰が買ってくれたの?』と答えることが真のニーズに答えることになることもあります。ナイチンゲールは、病人はしゃべれないことが多いから、しっかりと観察することが一番大切と言っています。また頭を打ったときに冷やしながら、あまりに『大丈夫?』『気持ち悪くない?』『お医者さんにみてもらおうか?』などと聴いてばかりいると心配になって嘔吐して救急車騒ぎになることもあります。心配になって自家中毒を起こすのです。

 言葉に頼らないで鳥の眼・虫の眼・仲間の眼で観察することが一番大切です。

  ロ ユニバーサルデザインの活動を

 高学年も放課後児童クラブが対象となり、活動が難しくなってきました。一つの活動に年齢別の目的をそれぞれしっかりと持てば、同じ活動で一緒にやってかつ異年齢を同時に満足させることも可能です。モストティーチング・モアラーニングのように基本はしっかりと手短かに教え、後は子ども達に任せていくのが良いと思います。

 カプラ・折り紙・ワミー・ジャンケン遊びなどは誰でも出来るけれど奥が深いのでユニバーサルデザイン的だと私は思います。また、ドッジボールやオニムなどのゲームも2人組3人組(ツーパワー・スリーパワーの手法)を使えばユニバーサル的なものになり、障がいのデメリットをなくすことができます。

ハ 子どもを支配しようとしない

 障がい児を受け入れてみると支援員の指導が上手くいかないことがあります。それはある意味では障がい児でない児童が支援員の支配を我慢しているとも考えられます。まずは支援員自身が子どもの立場になってみることが大切と思います。また障がい児に受け入れられないことは他の子どもにも実は受け入れてもらっていないのかもと考えることが出来ます。

 精神心理学者ユングは『権力は腐敗する暴力は麻痺する』と言っていますが、私自身も自分の心にとめておきたい言葉と思っています。 

 なおこの文書はYAHOOトップカテゴリ一覧→生活と文化→子ども→活動、遊びをクリックしていただけるとtomoyanの『遊びを考える』のホームページに掲載してあります。