Subject: [nirai-kanai 1416] ma & ba (Re: Maphe) Date: Tue, 12 Mar 1996 18:28:13 +0900 (参考資料) 「はじめての人の言語学-ことばの世界へ」(上山あゆみ、くろしお出版) 「国語概説」(佐伯哲夫、山内洋一郎、和泉書院) 「標準語はいかに成立したか」(真田真治、創拓社) 「は」行の発音は、奈良時代までおそらく「ぱ」であったものが、 平安時代頃に「ふぁ」に変化し、更に室町あたりに「は」に変化 してきたという経緯があるようで(江戸時代の謡曲のテキストに 「ひ」の発音に対して「ふぃ」と振りがなのうってあるものがある そうです。既にその時点では変化してしまっていたと考えられる ようです。 ....というような経緯もあり、歴史的には「ば」行は「ぱ」行が 濁ったものであると考えるのが妥当なようですね。 濁点は無声音を有声に変えるものであり、「な」「ま」「ら」の ような有声音に濁点はつかない。なお、「ヴ」は「ふ」の濁った音 と考えることができるというような説明がありました。 Subject: [nirai-kanai 1421] ma & ba Date: Wed, 13 Mar 1996 18:51:02 +0900 (JST) >  この「ふぁ」は下唇を軽く噛む例の宮古の発音だったんですかね? 当時の録音テープなどが残ってれば確実なのですが.. よくわかりませんが、仮に現在の日本語の「ふ」が、当時の音を 引き継いでいるとすれば、宮古の発音とは異なることになるよう です。(日本語の「は、へ、ほ」「ひ」「ふ」はそれぞれ、音声 学的には別の子音になるようです。日本語の「ふ」は英語の「f」 とは異なり、「ふ」の発音でそのまま有声音にしたのが「わ」行 になるようです) 岩波新書の「ことばと国家」によると、 「p」->「f」の規則的な変化というのはヨーロッパでもあるようで、 「父」や「足」については、、ラテン語、フランス語、イタリア語、 スペイン語では「p」、英語とドイツ語では「f」だという説明が あります。(でも、日本語の変化と関係づけていいのかどうかは よくわかりませんね :) >  いわゆる「ぱ」の音に「ぱ」の表記をあてはめた > おおもとの歴史を知りたくなっちゃいますね。 このあたりの説明は特にありませんでした。 (「ば」の清音(無声音)に相当するものとして「ぱ」が 考案されたのではないか、という説もあるようですが.. ??) ところで、この「国語概説」の琉球方言の項に、 | 琉球方言には、[puni](骨) と[p'uni](船) のように、有気音 | (非喉頭化音)と無気喉頭化音のものとの対立を有する方言がある。 | [?ami](雨)、[?wa:](豚)のように、語頭の母音や語頭の半母音の | 直前に声門破裂音(喉頭破裂音)のあらわれる方言がある。 | さらには、[pa:」(葉)、[pana:](花)、[puni](骨)のように、ハ行 | 子音が語頭で[p-」となり、日本語の古音を残している方言がある。 なんてありましたが... (私にはさっぱりわかりません :) >  無声音と有声音の区別が理解できてないことに気付きました。 >  無声音と有声音て、何ですか? 声帯が振動しない(無声)、する(有声)の区別のようです。日本語の 「共通語」では、「か」と「が」、「た」と「だ」、「ぱ」と「ば」、 「ち」と「じ」などの違いに相当するのだと思います。:) ====== (おまけ) 「国語概説」によると、国際音声学協会の「国際音声記号」と別に 日本語の音声表記のために日本音声学会所定の日本語表記法と図表 があるようです。 これは、子音については、「調音部位」による両唇音・唇歯音・歯音・ 歯茎音・硬口蓋音・軟口蓋音・咽喉音(声門音)の区別、「調音方法」 による破裂音・通鼻音・摩擦音・破擦音・弾音の区別、「声帯振動の 有無」による無声音・有声音の区別を表としてまとめたもののようです。 で、子音について、この観点で列挙し、更にこの表記法を使った 「現代日本語の音節」という別表と対応させてみました。 調音部位 調音方法 声帯振動有無 共通語発音(外来語除く) 「P」 両唇音 破裂音 無声音 パ,ピ,プ,ぺ,ポ 「b」 両唇音 破裂音 有声音 バ,ビ,ブ,べ,ボ 「m」 両唇音 通鼻音 有声音 マ,ミ,ム,メ,モ 「F」 両唇音 摩擦音 無声音 フ (国際記号では「Φ」) 「W」 両唇音 摩擦音 有声音 ワ 「f」 唇歯音 摩擦音 無声音 ----- 「v」 唇歯音 摩擦音 有声音 ----- 「s」 歯音 摩擦音 無声音 サ,ス,セ,ソ 「z」 歯音 摩擦音 有声音 ----- 「ts」 歯音 破擦音 無声音 ツ 「dz」 歯音 破擦音 有声音 ザ,ズ,ゼ,ゾ 「t」 歯茎音 破裂音 無声音 タ,テ,ト 「d」 歯茎音 破裂音 有声音 ダ,デ,ド 「n」 歯茎音 通鼻音 有声音 ナ,ヌ,ネ,ノ 「-」 歯茎音 摩擦音 無声音 シャ,シ,シュ,ショ (「s」を伸ばした記号) 「-」 歯茎音 摩擦音 有声音 ----- (「z」を伸ばした記号) 「-」 歯茎音 破擦音 無声音 チャ,チ,チュ,チョ (「t」+「s」を伸ばした記号) 「-」 歯茎音 破擦音 有声音 ジャ,ジ,ジュ,ジョ (「d」+「z」を伸ばした記号) 「r」 歯茎音 弾音 有声音 ラ,リ,ル,レ,ロ 「-」 硬口蓋音 通鼻音 有声音 ニャ,ニ,ニュ,ニェ,ニョ 「C,」 硬口蓋音 摩擦音 無声音 ヒャ,ヒ,ヒュ,ヒョ (「C」の下に「'」のような記号) 「j」 硬口蓋音 摩擦音 有声音 ヤ,ユ,ヨ 「k」 軟口蓋音 破裂音 無声音 カ,キ,ク,ケ,コ 「g」 軟口蓋音 破裂音 有声音 ガ,ギ,グ,ゲ,ゴ 「ng」 軟口蓋音 通鼻音 有声音 ガ,ギ,グ,ゲ,ゴ(ガ行鼻音) 「h」 咽喉音 摩擦音 無声音 ハ,ヘ,ホ という感じになるようです。(「ピャ」のように各子音と 「j」との組み合わせで表記できるものは、省略しました) # 母音は、すべて硬口蓋音または軟口蓋音だそうです。 麻酔さん masui@flab.fujitsu.co.jp