響 ヒロ
私の友人(あるいは恋人)の火村英生という男は、私が時に風邪でダウンした時や締め切り前の断食状態のせいで倒れた時など、私にバカだの間抜けだの健康管理がなってないだのと口汚く罵るのだが、私に言わせればこの男の方が余程健康管理がなっていない。季節の変わり目ごとに体調を崩すのはもちろんのこと、その程度に留まらず、春先は暖かくなってきたのをいいことに気を抜いては朝方の寒さに風邪をひく。梅雨時は頭痛にやられ、夏は夏バテにプラスしてクーラーのつけすぎで風邪をひき、秋は秋で、まだ暖かいからと油断していて夜の冷え込みに風邪をひく。冬はいわずもがなのインフルエンザだ。それが毎年毎年毎年毎年。いい加減、学習能力が欠如しているのではないだろうか。これで日本の未来を担う若者達に物を教える立場にあるというのだから世の中を冒涜している。レポートの採点や己の研究のせいで万年寝不足なのも災いしてるが、ようは神経質なのだ。年を追うごとに比例的に増えてきた白髪達と、幾度となく繰り返す、あの悪夢がそれを証明している。かてて加えて年がら年中の胃痛持ち。太らないで済むのは羨ましいが、それはやっぱり違うだろう。ばあちゃんが一緒に食事をすることを言い出してくれなければ、食事を摂らない日もあるのではなかろうか。まぁ、仕事の質と量を考えれば分からなくもないが、それにしてもそれならそれで対処法というものがあるだろう。まず第一に煙草を控えるべきだろう。あの極度のヘヴィースモーカーが慢性ビタミン不足を引き起こし、風邪をひきやすい体質にしてるのだ。人間嫌いのせいでイライラすることも多いのは性格もあるが―――やはり選んだ仕事を間違っているのではないか?―――慢性的カルシウム不足だ。おまけに、普段は室内に籠もりがち。通勤は車ときては、運動不足にもなるだろう。学生時代はボクシングをしていたらしいが、今となっては過去のことだ。今はいいが、そのうち足から来るだろう。ちなみに私は毎日、夕方1時間の散歩は欠かしてない。何故、夕方かというと、陽を浴びながらも紫外線が少なくてすむからだ。そうそう。最近はスポーツクラブで水泳なんかもやっている。作家の職業病とも言える肩こりと腰痛には一番だ。それに私は水泳は好きなのだ。子供の頃、毎年夏が待ち遠しかった。授業でも、プールの時間を休んだことは一度もなかった。
―――話が逸れた。
とにかく火村英生という男は万事が万事、こんな状態なのだ。多少ばかり見目が良く、腹が立つくらいに頭も良くて、将来を嘱望された最年少の助教授で病弱とくれば、母性本能をくすぐられる女性達が後を絶たないのではないかと思われるだろうが、遺憾せん、口の悪さと性格の悪さが災いして、モテるようでその実、モテない。本人は特に気にしていないどころか、清々している観があるので、いいのだろう。そうでなくては、世の男どもは納得すまい。
結果的に、紆余曲折を経て、私がそのポジションにつくことになり、火村がダウンする度に、見舞いに行っては甲斐甲斐しく世話をするのが私の仕事となったわけだが。病気で気弱になった火村は私を傍に置きたがるのだ。それを可愛いと思うかどうかは別として、いつも口の減らない小憎らしいほどの男がダウンしている様を見るのは、それはそれで特権というものだろう。ばあちゃんには頼めない。万が一うつりでもしたら大変だ。なんといっても、ばあちゃんはお年寄りだ。私が動けない状態にある時はお願いするが。火村には絶対、一人暮らしはさせるまい。
今日も今日とて―――
「へぇ、面白いモン書いてんじゃねぇか。もちろん、俺に一番に読ませてくれるんだよな?」
「!!!」
私が声もなく、まさに椅子から飛び上がったのは言うまでもない。
そして、私の運命も……End/2001.06.28
とってもナイスなヒロさんの突っ込み小説です☆ BBSに書き込んで頂いたものを、こっちに移しちゃいましたvvv だってあのまま流れていっちゃうのは、勿体ないんだも〜ん☆ |
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