DoGA CGアニメコンテスト16の入選作品感想

第16回 CGアニメコンテストの入選作品の感想です。作者名は敬称略です。

この感想文については作品感想のページについての補足をご覧ください。

私の独断と偏見による評価点を付けたページは 別に用意しました。

影遊び - 渡村 耕資

作品を観て、発想のセンスとか、「じいさんの壺」の作者らしい作品だなと思った。 これも前回に続いてまたアイディア賞もの。 よくこういうものが思いつくなぁと感心する。 キャラクターも個性的なデザインで、表情も豊か。

「こんな狭いところを渡るのか」というセリフに重ねて、時々崩れる岩の道を見せて、 実は渡るのは影のところだったとか、オチも含め、至るところが、よく練られている。

ただ、全体的にそれぞれの面白いシーンを表現するタイミングが早すぎたり、 演出的にもやや地味すぎる気がする。 重要なシーンでは、十分な間を取るとか、インパクトのある演出を加えるなどすると、 もっと、観客が作品全体の面白さをしっかり掴みやすくなったかもしれない。

例えば、襲いかかる獣の影が現れて、助かったと喜んでいるうちに、 獣に食われるシーンは、本人が獣の方を向いて事態に気がつくシーンなどを 加えるなど、もう少し長くした方が良かった気がする。 セリフも会場では聴き取りにくかった。

実は鈍い私は、上映会では気づかなかったが、DVDで見直してから、 その面白さに気づいた部分が、結構あったのだ (場外スタッフをやっていたせいで疲れていたのかも。苦笑)。

カラテカの野望 - 原田 浩二

DoGAのコンテストは、毎回、シンプルなキャラクターで面白い動きを作る作品というのが、 いくつかあって、それも、年々、その洗練度が増している感じなので、それも楽しみの一つだと思う。

多分、こういう作品って普通に人体オブジェクトでやったら、 むしろあんまり面白くない気がする。それと、足を思い切って省略している部分も、 私は気に入っている。

それにしても、どれもこれも、アクションが見事。漫然と戦っているのではなく、 一つ一つに、ストーリーがある。

今までコンテストに入選してきたアクション作品に比べると、 全体的に遅めだが、動体視力が悪い私には、これくらいがちょうどいい。 解説書にもあるが、白キャラの結構えげつない戦いが面白い。 それと、連打のシーンが気持ちいい。 あと、どさくさに紛れて、人体のパーツ投げてるシーンにも笑。

レトロゲームマシンっぽい音楽もいい感じ。 ただ、最初のシーンで、無音が長く続くのには、ちょっと違和感を感じた。

オチはちょっと地味過ぎたかな。

カッポロピッタ〜まんまくいねい〜 - 松村 麻郁

ストーリー的には、ママが鳥を調理しているシーンを観て、 恐怖におののくシーンが、最後のオチにうまくつながっていて、全体としては、 よくまとまった物語作り。 鳥料理が出てきた時に、一瞬、生きていた時の鳥を思い出して、 二人は食べられないが、一人だけが平気で食べるシーンも非常に良い。

冒頭のテンポよく次々に料理が現れるシーンも観ていて楽しい。

ただ、主に中盤に、場面のつなぎ方に強引な部分が多いように感じた。 時間経過や場面の変化がつかみにくかった。その結果、話の流れも頭に入りにくい。 全体的に、似た調子の絵が続いてることも流れがわかりにくい理由の一つかもしれない。

例えば、二番目の場面、回転テーブルに高級料理が並べられているシーンが、 作品全体の流れにあまりスムーズに入っていなかった感じがする。 それと、三人組の一人が、最初に食べ始めるシーンも、唐突に感じた

その部分は、メリハリが悪さも目立った感じ。三人組の移動するシーンなども長すぎたかも。

ピアノ曲が映像に非常に良く合っていた。

Lights - 須藤 悠

こういう作品は難しいね。きっと、笑った人と、きょとんとした人とで、 まっぷたつってとこじゃないかと思う。 あれは割れそうだとか、何にも考えずに素直に観ていると、 割れる瞬間に笑いのツボにはまりそう。そのタイミングとかは絶妙だし。

作者のコメントを読むと、ずいぶん1分にこだわっているようだけど、 1分で出来る面白さばかりにこだわらず、自由な長さに挑戦して欲しい気もする。

1分程度の短い作品を連続で見せて面白さを倍増させるという手法もいいかもしれない。

どっちもメイド - 石川プロ

確かに力作なんだけどなぁ。作品としての洗練度は増してるんだけど、 インパクトとか、作品に対しての感動度とか、面白さは、 正直言って過去の彼のどの作品よりも、弱いという感じがする。

まず、私としてはヘンタイなのは悪くないんだけど、 ヘンタイのやり方がどうだろうかと思うわけですよ。 話とか、セリフとか、いろいろと直接的過ぎるわけで…。 もう少し、遠回りにやって、わかるひとにはわかるヘンタイぶりがいいのですよ。

多分…。

解説書にもあったけど、石川氏はピュアだから、 ここまで直接的に作れるのかもしれないなー。 ピュアではない私は絶対マネできないよ。 そもそも、あんなセリフやこんなセリフを、声優に頼めない(笑)。

基本的には、エッチな描写をうまく笑いに変換できていると思う。 下手な人が(多分私を含む)やると、きっと、 もっと気持ち悪いことになってしまうからなぁ。 その辺は流石にうまい。

しかし、メイドで「ご主人様」というのは、あんまりにも定番すぎるわけだし、 巨大な怪獣か何かが襲ってくる…というのも、 石川氏自身を含め大阪芸大CAS関連の人達が、すでにさんざんやっているものだし、 なんか、そうでないものを作品の軸にして欲しい気がする。

もしかして、CAS出身者は、何作に一回は、 巨大なんとかを出して戦う展開を作らなければならないという、 厳しいノルマとか、血の掟とか、何かあるのだろうか。 時折、そんな思いが頭をよぎることがある(←おいおい)。

石川氏のようにすさまじい程の制作力と個性があると、 世の中で定番のキーワードやシーンを作品の軸に使うのは、 むしろ作品にとってマイナスになる事もあるのではないかという気もするんだけどなぁ。 他のユニークな引き出しを石川氏はきっといっぱい持ってると思うんだ。

石川プロ作品ならではのハートウォーム感は、今回は少々あっさり目な感じだけど、 ただ、あざらしが去っていくのを少女がぼんやりと観ているシーンに、 ちょっと出ている感じで、この部分は良かったと思う。

それにしても、 かけなくていいモザイクをわざわざかけてるのにはびっくりしたなもー。 一体、対象視聴者は誰ですかこれ(笑)。

引力 - いしづかあきこ

引力の働きが、もし異なったらどんな映像感になるだろうか。 そういう発想をもとに、メリハリのある映像で見事にまとめた作品だと感じた。 単に上に引っぱられるだけの映像ばかりでなく、下に落下するなど、 観る側が予想している流れとは時々違う映像を差し込んでいるのが良かった。

一つ一つの画面の構図をよく計算していると感じたし(私はそういうセンスが 鈍いので、漠然とだけど…。笑)、黒地に白という絵作り、そして映像に見事に 合っている音楽など、とにかく丁寧だなと思う。

ただ、作品を観る側の多くは、なぜそういう現象が起きたかに対して、 納得できる何らかの理由が欲しいし、結論的なものが欲しいのではないだろうか。 そして、それらは言葉などを使ったものでなく、映像的に示せればもっといいと感じる。 その辺りが不足しているので、結果として、 不満を抱く人が多くなるのではないかと感じた (解説書のコメントとか読むとそういう指摘があるし)。

面白い映像感を出してみたいという気持ちが前に出ている作品なので、 私自身はあまり不満を感じなかった。 とりあえず映像化してみた方がいいものがある。これはそういう作品だと思う。

そうは言っても、作品をまとめるような、解決的な何かがあった方が もっと良くなったのではないかとも思う。

ところで、引力が逆に働いたりする事を映像化している作品は、 名古屋で開催されたJDAF(ジャパンデジタルアニメーションフェスティバル)2003の 上映会でも観たことがある。 フランスのSUPINFOCOMさんが制作した「GRAVITIES」という作品。 その作品を思い出した。

実は、この作者はそれを観たことがあるはず。映像感はかなり違うが、 多分、色々とヒントになったのだとは思う。

卵をみつける話 - ヒロモト アキノリ

女の子のモデリングはかわいいし、キャラの動きとか、背景とか、 効果とか、どれも、くどくもなく、手抜きもなく、丁寧で、非常にいい感じ。

ただ、演出的には全般的にぬるい感じがした。

例えば、「まぁそれはたいしたことじゃないんですけど」と言うシーン。 ここは視聴者側が、スクリーンの前で「十分たいしたことだろ!」 とか突っ込むところなのに、 なんか、そういう気持ちになる演出が不足している感じがする。

一方、彼氏の方、ここも「二人でなくて六人かい! (さらに、六人という数自体がおやくそくすぎる!)」って、 突っ込みを期待してるんだろうけど、そこも弱い。

多分、誰でもいいけど、突っ込みキャラみたいなのが、 あった方が良かった気がする。

それと、シーンを映す時に、常にゆっくり動かしているカメラワークのやり方や、 音楽を入れるタイミングも含め、場面作り等が、 全体的にぬるい感じが、テンポを悪くして、結果として、 笑いを半減させてしまっている気もする。

いや、そういう作風も十分アリだとは思うんだけど、 そういうタイプのものは、作品の規模をもう少し大きくして、 キャラの魅力を時間をかけて伝える必要があるのではないかという気がする。 この作品は時間が短いので、キャラの魅力が伝わる前に終わる感じになり、 物足りなく感じるのではないだろうか。

短い作品では、基本的にはメリハリをつける方が、観客によく伝わると思う。

面白かったシーンとしては、 同じ人物が、二回同じアクションをして、実は二人居たという部分。

それから、カメラを動かしながら、卵が割れているのを撮しているシーンが 特に綺麗な感じで印象的だった。

ねんど - メテオール

過去の作品を知っている側からすれば、やっぱり、 作品の規模が短いのが物足りないが、年々、洗練度が増していることは感じる。

中でも、最初のシーンの、女の子の体から粘土が出てくるシーンと、 画面手前から手が出てきて粘土をこねるなどして(他にも違うパターンあり) 場面転換をするというセンスとアイディアがいい感じだし、 背景作りも相変わらず美しい。女の子も表情豊かでかわいらしい。

ただ、詞にも出ているキスのシーン、女の子のリアクションとか、 他のところに比べても演出的にあっさりしていて、 作品のまとまり感を弱くしている感じはする。

私としては、メテオールがコンテストに出した作品の中では 「赤い自転車」の次に好きな作品。

りんご色の水 - 赤木 沙英子

本作を観てまず思ったのは、 前作「しももも」の時の品の良いモノクロの画風で見せた 作者のセンスを維持しつつ、着色してさらに美しい進化をしているなぁという点。

ただ、子供達が見せるしぐさなどは、前作に比べると、新鮮さや、 共感できる面白さに欠けた感はある。つまり、 「おや?」とか「そうそう、そんなこと俺らもするよな」 みたいなインパクトがやや不足気味。 トイレに紙がないから、男子トイレへ…というネタは、 多くの作品がやり尽くしているし。

一番面白いと感じたのは、やっぱり、かえるを水流で吹き飛ばすシーンで、 上からのショットを効果的に使っている点。 ただ、水流を受けたカエルの表情をもっと観たかった気もする。 子供などはその辺りを面白がりそうだし。

空へ行きたい - ほしこうへい・たかやまたつお

絵作りが綺麗で、3Dと2Dの合成にも無理がない。 各キャラクターの表情が豊かで、特に妹が良い。 妹が作った雲の造形を感心してみるピエロの表情がよい。 一つ一つのしぐさが、とてもかわいらしい。

ただ、物語的には、心に何らかのひっかかりを感じている描写がある兄が、 一体何に悩んでいるのか、それがわからなくてすっきりしない感じだった。

最初のシーンでは妹の方が帰ろうよと言って、後のシーンでは兄の方が、 帰ろうと言い出すという、対になる面白い構成になっていたので、 物語の中に、もう少し、兄の気持ちを描写するシーンがあったら、 作品がさらに引き締まったのではないだろうか。

拳闘巫女こぶしちゃん - 大木奈 翁

ラフな絵ながら、その一つ一つのカットのつながりが、 非常に計算できていると感じる。 基本的には、バトルシーンばかりで構成しているのにもかかわらず、 各キャラの行動に、観客を引きつけるだけの明確な理由があるので、 観ていて全く飽きない。

ところどころ遊び心を感じさせるカットもあるので、 繰り返し観れば、ますます面白いことに気がつく。

それと、木造の高層建築という設定が非常に良かった。 その題材に、気づいたところが作者のすごいところ。 この作品は高さの描写があったから、面白くなったのだ。

敵を倒しながら、上へ向かって進むというアクションで、 中盤、作品に勢いが作れたし、その後の崩壊シーンで、 迫力のあるクライマックスを演出できた。

それと私は、途中の完成パーティのシーンが気にいっていて、 これが作品にメリハリを与えていたと思う。

この人の絵コンテで、もっと多くの作画スタッフを集めて作れば、 本格的なものができるんだろうなと感じる。 背景等のラフな感じは、決して今のままでもそんなに悪くないので、 女の子がもうちょっとだけ、かわいく描かれてたら、それで私は十分かも。

物語的には、これだけのすさまじいアクションカットを費やして、 こぶしちゃんがこれだけ一生懸命に活躍したのに、 最後は少々あっさりしすぎた気もする。 もう少しこぶしちゃんがみんなから賞賛を受けるような、 コテコテな演出があっても良かったかも。

オープニング曲も詞もノリも非常に良くて、 むしろ最後に置いた方が、作品を盛り上げたかもしれない。

CREMONA - いしづかあきこ

全くの偶然なのだが、実はこの作品のビデオコンテを私は観たことがある。 たまたま、その日、名古屋のナディアパークに行った私は、 そこでJDAF2003(上述参照)のワークショップが開催されていたので、 何の気なしにその様子を観客として観ていたのだが、 その時に、このビデオコンテが出されたのだ。

毎年、DoGAのコンテストのほとんどの作品の感想を書くような人間は、 多分私だけ(笑)。世の中、どんな偶然があるかわからないものだ。

そのワークショップには、押井守氏が参加していて、 あまり正確な言葉は覚えていないが、そのビデオコンテに対して、 彼は、良くできているが、これ自体に味があるので、 これを作り込んでちゃんとした作品とした時に、 面白くなるかどうかはちょっとわからない…というようなコメントをしていたと思う。

そんなわけで、オチも含め、この作品を知っていた私なので、 DoGAの上映会で観たときは、ちょっと新鮮さは失われていた。 ビデオコンテと比べてどうかというと、 その時の特にキャラクターの味のある作画を生かした上で、 背景等に手作り感のある美しい着色がなされた作品に仕上がっていた。 実際に作品として完成させて良かったと作品だ思う。

物語的には少々淡泊な感じだけど、色彩の美しさも相まって、 観客の心を揺らすことができたのではないかと思う。

それにしても、色の使い方が見事だなぁ。黒が活きているんだろうな。 発色感がすばらしい。

Loop pool - 鮎澤 大輝

これも色遣いのうまい作品。映像全体を虹色っぽく仕上げるのは、 最近の流行りなのかな。NTSCビデオでの見栄えもいいし、 ちょっと堅い印象のある3DCGと併用するのになかなかいい効果だなぁと思う。 可変スローモーションと、回り込むようなカメラワークも効果的に使われている。 要するにマトリクス的手法だけど、こういう手法は、パクりというよりは、 今後の作品にごくあたりまえに使われていく、普遍的なものなんだと私は思う。

ただ、誰もが思うことだと思うが、この作品、 タイトル通りに、loopになっているとは言い難い。 そして、多分、このloopには我々人間も介在すべきだと作者も思ったのだろうから、 恐らく人間に鳥を撃たせたのだが、その撃った人間が朽ちて、 loopは続くという風にはなっていない。 loopを崩したのが人間であるという意味なのだろうか。 でも、それだと葉っぱに変えたことの意味がわからなくなる。

多分、最初の食物連鎖の映像イメージが先に思いつき、 後の話を片づけるアイディアが思いつかなかったというところだろう (実は上映会の後のレセプションで、作者の鮎澤さんと、 その辺りについてちょっと話をしたけど、そんなところのようだ)。

そんなわけで論理的には収まりは不足しているけど、 葉っぱにしてしまうという効果自体は、 映像としての収まりを良くしていたと思う。

昔の私は、話の収まり方をしきりに気にしてたんだけど、 最近の私は、実は面白い映像のアイディアが思いついた時は、 その片づけ方が思いつかなくても、とりあえず作品化してもいいんじゃないかと、 思うようになっている。

百合と一郎 - 橋川 TAN

力作。そして、3DCGキャラで泣かせる演出ってのはとってもとっても難しいのに、 この作品は、演出も使い、それを見事にやってのけている。素晴らしい。 私は色々と3DCG系作品を観ているけど、 3DCGキャラを使った作品で、 ここまでのレベルに達する泣きを演じた3DCGキャラクターを、ほとんど観たことがない。 何億も使って制作されたはずの映画ファイナルファンタジーよりも、 一個人が作ったこの作品に感動させられる。その感動には、自分自身が、 女の子をメインに個人で3DCG作品制作をしていることも、 やはり含まれているとは思うのだが、それを抜きにしても、 どうも、こういう作品に出会う機会はあまり多くない。

3DCGの技術は日々進化していく。しかし、その技術を使った自分が観たい作品、 そういうものにはなかなか巡り会えない。 それはどういうわけなのか、ちょっと考えてしまう。

この作品で、私が一番印象的に思ったのは、やはり、 鏡による二人の光のコミュニケーション。 面と向かって話す時は、悪口とかが口に出てしまうし、つい手も出てしまう。 でも、光を使ってコミュニケーションをした時に、 二人がかけがえのない親友(恋心も含んだ)であったことを初めて実感したのだと思う。

特に、髪を揺らしながら、光る鏡を持って百合ちゃんの乗る車が走り去っていくシーン。 ここでの百合ちゃんの可愛さったら、並大抵じゃないよ。 これに勝るシーンなんて世の中のアニメでもそんなにないですよ。 だから、悪いこと言わないから、グランプリあげなさいってば>審査員。

それから、岩山の頂上で足が痺れて転んだ時に、 白いものがチラリと見えた後、一郎の視線を感じて、 素早く脚を閉じるシーン。ここもすばらしい。絶妙だ。計算しつくされている。 あんまりこのシーンを褒めてるとヘンタイ扱いされるが、 ヘンタイだと言われようが、良いものは良いのだ。

なんか、いずれ、その日が来るのでは…と思いながらも、 それはやはり私自身の好みの問題もあるから、 夢まぼろしの領域なのかと思っていた。 個人作家による3DCGキャラクターを使った私が観たかった作品。 それを観る日がついに来たんだ。 この作品を観た時の感想、いや感動は、そんなものだった。

技術的な面で、映像、細かく観ていくと、人物と、 肝となるオブジェクト(建物とか)だけはちゃんと作り、 手間のかかる背景等は、写真などを適材適所で利用している。 実は止め絵に、キャラクターだけを動かす映像も多い。

私も作品制作で同じような方法論(この作品よりももっと手抜きだが) を考えていたので、なんか、やはり、こういう方向に向かうんだなと、 その点でも、納得した感じ。

物語の構成全体としては、後半部分、回想の差し込み方などに、 強引な感じがあったと思う。それと、一旦引っ越した後に、 卒業式の時に、証書とアルバムを取りに行って出会うという構成の方が、 収まりがよかったかもしれない。

ニヤリと笑ってから怒り出すシーンの演出が少々わかりにくかったし、 他にもキャラの動き等に自然さが足らないところは時々あったが、 そんなことは全く些細なことだと思う。それら、部分的な粗さは、 物語を楽しむ上で、何ら障害にならない。 少女の圧倒的な可愛さ。その丁寧な人物描写の凄さに、 細かい問題など、何もかも消えていく。

Tough guy - 岸本 真太郎

多分、DoGAのコンテストを見に来る多くの観客が、今、 一番作品に求めているのは「笑い」だと私は思う。 でも、外伝収録作品を含め、きっちりと、笑いを取れる作品はそれほど多くないと思う。 そんな中、この作品は、観客の欲求に見事応えた作品だったと思う。

まず、2つの作品で構成したのがうまい。一回目でしっかり笑わせて置いて、 二回目、酷い目に遭ったのに懲りてない登場人物が再び出てきて、 やっぱり酷い目に遭うという繰り返しの笑いを見事に実現できている。

その酷い目に遭う描写も、一回目が肉体的なダメージなので、 二回目も同じかと思いきや、こんどはデジカメへの被害で、 そのシーンが、ズームが動き出したりして非常に面白い。 動く映像で笑いを取る。 それは映像作品コンテストを観に来た観客が一番望んでいる「笑い」だと思う。

その笑いのシーンにつなげるまでの描写もよい。 カマキリの動きが擬人的なのも良いし、蝶を追うシーンは、 スピード感があり気持ちいい。

冒頭で、気持ちよい映像を見せて、観客を引きつけたその後に、 計算された笑いのシーンが待っている。 まさにエンターテイメントの理想形といえる作品だと思う。

文使 - 栗栖 直也

何と言っても着想がすばらしい。まず、 現在作られている、日本の昔の時代をネタにした作品のかなり多くが、 当時起きた歴史的な戦いをメインにした物語、或いは、 殺陣シーンを織り交ぜた明快な勧善懲悪的作品でほとんど占められている。

そして、言葉についても、多少は古めかしい表現はあるものの、 誰もがそのまま理解できる現代語で作られたものが大半を占める。

一方のこの作品は、わりと普通の人達の少々地味な恋物語。 しかも、古語を使って、できるだけ当時の雰囲気を出そうとしている。 当時、本当にこのような話し言葉だったかはわからないが、 でも、こんな風だったんじゃないかという気分には十分なれる。 わかりにくい言い回しを、字幕を使って補うのもいいアイディアだ。

物語が表現していることも、時代を越えて楽しめる内容になっていると思う。 なかでも、やはり、天井にびっしり張り付いた文使。あのシーンが印象的だった。

ただ、その後の展開はやや淡々としすぎていたかもしれない。 特に、再び出会うシーンでは、もう少し時間をかけて何か印象深い演出をした方が、 良かったのではないかと感じた。その後の流れも少々、 淡々としすぎていたかもしれない。

それと、死んだ文使を見つけて、庭に埋めて供養するシーン。 これ自体は、蜻蛉丸の優しい性格を表現するのには効果があって良いのだが、 観客がこれを観たとき、もしかして、それと同時に娘さんが 死んでしまったのではないかという、連想をさせてしまう問題もあり、 作者がそれを期待してるかと思うと、その後を見ると、そうでもないので、 物語の流れ的にはこのシーンは少々雑音になってしまったかもしれない。 一緒に供養するという手もあったかも。

映像的にも、まず、自然描写には大変なこだわりを感じる。 かなり丁寧なロケを行なったことが良かったんだと思う。 しかも遠景を除くとほとんど3Dオブジェクトで作られていることが凄い。 病に倒れた月草の思いが、木々を駆け抜け蜻蛉丸のもとに 届くシーンで効果的に使われている。 建物や小物も非常に緻密に作ってあることにも感心する。

ただ、ちょっと、3DCG映像にありがちな、 遠くまではっきりピントが合っている映像が多く(特に冒頭)、 それには少々違和感を感じた。背景をぼかしたり、霞みを使うなどの効果を、 もう少し使うと雰囲気がもっと良くなったかもしれない。 人物の動きは、多少ぎこちない面はあるが、必要な見せ場では、 しっかり動かしており、省略がうまいと感じた。あまり無駄な動きが多いと、 かえって作品の落ち着きがなくなる可能性もあるから、 これぐらいでちょうど良かったと思う。 中でも月草が舞うシーンが特に趣があった。

そんなわけで、とても完成度が高い作品なのだが、 グランプリを取れなかったという理由を考えると、多分、 映像技術や場面作りに目新しさが不足していた。その辺りだろうか。

でも、ある意味、そういう奇をてらうことが、 この作品には必要であろうか。それが疑わしい。 だから、この作品はこれでいいんだと思う。


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Last Modified on Saturday, 25-Aug-2007 14:13:43 JST