DoGA CGアニメコンテスト17の入選作品感想

第17回 CGアニメコンテストの入選作品の感想です。作者名は敬称略です。

この感想文については作品感想のページについての補足をご覧ください。

私の独断と偏見による評価点を付けたページは 別に用意しました。

キャットウォーク - 北田伸

猫を擬人化などせず、その普段の自然なしぐさを積み重ね、 少女との対話を構成したところが面白い。 実際、飼い主でもない相手に猫がこのような態度を 取ることはほとんどなく、普通は近づくだけで逃げるのだが(私は毎日逃げられてる。笑)、 そのあり得ないところに面白さを感じる。

一方、女の子。そのキビキビした動きが楽しい。 両手を広げ「おいで」と叫ぶ少女に、本物の猫も、もしかして、 飛びついていくかもしれない。そんな説得力がある。。

そしてトンボ。 この三つのキャラクターがメリハリの良い動きでドラマを作っていく。

最後の水面の表現。風が吹くときだけ細かく波立つメリハリの良さが美しかった。

ウシガエル - つかはら

Flashで作った作品なのに、Flashお得意の拡大、回転等にあまり頼らず、 作品全般にわたり、動きを丁寧に書き込んだ作画。それに加え、 丁寧なブラーを入れたカメラワークとテンポのよい場面転換。 この作品も動きの面白さに主眼を置いた力作。

映像感は昭和30年台を意識したものなのかな(色んな時代が混ざっているような)。 そのアナクロ感がいい感じ。 構成的には、少々ありがちな追っかけ逃げるドカーンという映像が続き、 やや、一本調子だなと感じた。 犬が助けるとか、車が連鎖衝突するとか、テリヤス工業の崩壊とか、 先の読めてしまう展開が多いのもやや残念。視聴者の想像を裏切る展開があれば、 面白さが倍増したかもしれない。

都市東京 - 小柳祐介

映像を繰り返し見ることで、それぞれの人物の発言を確認して、 楽しさを深めていくことができるユニークな作品。

日々、事件や災害のニュースが飛び交うその一方で、街を歩くひとりひとりは それらの事件に出くわしても、周囲の人とは決してコミュニケーションを取ることはせず、 携帯メールの操作に没頭する。 そんな殺伐とした社会がいずれ訪れるのではないかという不安。 そんな問題提起的なものをこの作品に感じる。

そういう方向性ももちろん面白いのだが、 例えば、実は登場する人物ひとりひとりに何かの関係があり、 映像を繰り返し見ることで、人物全ての言動を全部しっかり追うと、 一つの物語が浮かびあがってくる…という方向性を描くのにも、 この手法は使えるかもしれない。

舎人-TONERI- - t'sGRAPHICS

髭をはやした男達もモデリングが魅力的。 まつげを強調したデザインもインパクトがあっていい感じ。 背景の作り込みも丁寧。 人物の動きや、メリハリに雑な部分を感じるが、そうは言っても、 一つ一つ丁寧に作り込んだアクションシーンは圧巻。 直接物語とは絡まない蛙のコミカルな描写も、 バトルシーンの続く作品にメリハリを与え、良かったと思う。

制作時間は限られており、短い作品時間で 作品をまとめるのが難しいことはわかるが、 それでも、本作は比較的わかりやすい勧善懲悪的作品なのだから、 悪を倒すというわかりやすい爽快感がもう少し欲しかった。 何が起きているのかわかりにくいシーンが多く、 全体的に散漫な印象を受けた。音楽が単調だったのもそう感じた一因かもしれない。

Apartment! - 青木純

舞台アパート一軒だけという地味な設定ながら、 小キャラクターが動く、今となってはやや懐かしいゲームのような 映像感が楽しい。 そして、登場キャラクターの描写に過不足がなく、 程良いデフォルメ、おっと思わせるエピソード、 何もかもがバランスが良く、 文句の付けようのない傑作に仕上がっている。

全くの他人が集まるアパートの不安な世界をも、 楽しいものにしてしまおうという前向きさをこの作品に感じる。

ロプノール - NAMI

画面構成一つ一つがすっきりして見やすく、それらをつなぐタイミングも小気味よい。 作画も綺麗で、少女とコミカルな宇宙人がめちゃめちゃ可愛い。 とにかくすべてに洗練されたものを感じる。

そういう基本的な部分がしっかりしているからこそ、この作品自体の淡泊さが 少々目立ってしまった感はあるかも。理由もわからずワープという唐突な設定自体は 悪くないが、その唐突さのわりには、 受け手に与えるインパクトは全体的には薄めかもしれない。 しかし、その淡泊なところが、この作品の味とも言える。

最後の携帯電話を渡すシーンに、この作品の良さが集約されていると言えるかもしれない。

かがみのげんおん - 宍戸幸次郎

光の効果の面白さを次々と見せていくアート的な作品であるが、 その画面を常に人が護っているという点が印象的。

そこに居るということ、動かす視線、そして、しぐさ。 それが光の効果と合わさり、映像を創る。

それはもしかしてやはり部品の陳列かもしれない。 受け手は、その物語性の薄さに物足りなさを感じずにはいられないけれど、 ひとりの作家が、限られた時間で、その映像と同時にこじんまりとした物語をも 描かなければならないのか。 そういう背伸びは、場合によっては効果をも打ち消してしまうかもしれない。

だからこの作品はこれでいいのかもしれない。それでも、 はっきりとしたドラマの中に、こういう効果を観てみたいという欲がどうしても出てくる。 過去の宍戸氏の作品を知っている者としては。

映像の中では、本来それ自身が濃淡を表現しているグラデーショントーンを、 光のマスクに使った部分が特に面白かった。

A CLOCK - 原田健司

身近な道具を感情豊かな擬人化キャラに置きかえての、ハートウォームな物語。

率直に言えば、この手の作品は、個人作家による3DCG作品として、 あまりにも多く創られすぎたかもしれない。 それは、逆に、個人で3DCGソフトウェアを使って作品を制作するという環境に、 この手のものが一番親和性が高いと言えるかもしれない。

もう何度もこういうのは観た。そう思いつつも、観ればやはり感動がある。 それは、まず最初のA CLOCKのオープニングロゴのセンスの良さから始まり、 時計の針や各キャラクターの造形の美しさ、 飛び跳ねるという形で表現される生き生きとした動き、 それら一つ一つの積み重ねが生む感動なのだろう。

全知全能4次元ちゃん - スタジオぽぷり

美少女、爆発、怪獣、UFO。これまた既視感のある部品ばかりを集めての作品ながら、 そのさじ加減が見事で、少々バイオレンス気味ながらも笑わずには居られない作品。 外見上、作画はラフなタッチでお気楽に創られた感じには見えるが、 実際、裏では一つ一つかなりの手間を費やしていると感じる。

そして面白さの根幹を為しているのは、やはり、ほにゃら語。 どこかに実在しそうなリアリティが凄い。これが、 4次元ちゃんのあぶない異能力と非常にマッチしている。 こういう生命体が居てもおかしくない雰囲気が作り出されている。 動きを付けた吹き出しセリフの効果も、映像に勢いを与えていて、 かと言ってしつこくもなくいい感じ。

ただ、最後の怪獣やUFO出てきてどかーんは、あんまりにもあんまりにも既視感ありすぎる。 (余談だが、大阪芸大系の作品では、作家が、それらの表現を、必ず一度は作品に 使わなきゃいけない血の掟でもあるかと思うくらい出てくる)

この辺り、いかにも4次元ちゃんらしい終末的な映像が欲しかったところ。

なんかこっちの方向に突き進んで欲しい気もするが、あんまりこーゆーのを応援すると、 私がバイオレンス気味なギャグ作品が大好きみたいに思われるので、 ほどほどでやめとこう(笑)。バイオレンスを使わず、痛快な笑いが取れれば、 理想的じゃないかと(子供にも見せやすいし)。

Turquoise Blue Honeymoon - 栗栖直也

ストーリー構成が見事で、演出がしっかりしていて、 まず、冒頭部分が良かった。火星旅行案内映像でまず引きつけ、 艦内の電源投入でアッと思わせるところがうまい。

その後は、基本的には地味なシーンが続く作品なのだが、 観る側はストーリーの流れに引き込まれたままになる。 多分それは一つ一つの映像がしっかりと作り込まれているからだと思う。 会話中、船内に充満した海水の波紋が顔への映り込むところ。 夏祭りの時の回想シーンでは電柱の周りに集まる虫。 ひとつひとつが作品全体の質感を高めていく。

そして、暗闇の中、手で花火を真似た演出。お見事としか言いようがない。

そんなわけで、とても良く出来ている作品なのだが、 一度挫折したものの、「やってみる!」とかなり意気込んでの、 ナナちゃんのチャレンジ自体が、マニュピレータでコマンドを叩くという、 技術的にも高度とは言い難いし、映像的にも地味なものだったのはやっぱり残念。 全ての事情がその行動にかかってくるだけに、ここは何か別のアイディアが 欲しかったところ。

動かないことで制作時間の短縮を目指したといいつつ、子供時代の回想映像など、 着物を着たり、かなり丁寧に作り込まれている。前作に引き続き、 モデリングを担当したオグラユキエさんとのチームワークも見事。

この作品は、なんだか、万博の企業館で上映されそうな雰囲気を持つ作品だと感じた。 それほどに完成度は高いが、しかしその反面、何か、尖ったものが足らないかもしれない。 個人作家の作品にしては、物語が少々安全過ぎたかもしれない。

それと、ちょいキザな雰囲気のあるマサオ君、感情に振り回されやすいナナちゃん、 この二人の登場人物に声優の声質や喋り方がとても合っていたなと感じた。

フルスロットル・マイナス - ルンパロ

これはとにかくその動きの見事さに目を見張るものがある。 ちょこまか、ぷるぷるした動きが気持ちがいい。 どういうものがコミカルに感じられるか、 そういうことへのこだわりを感じる。

そして、作品全体の構成もバランスが良い。 冒頭の二人で仲良く踊るシーン、まずここで、このキャラかわいいという印象を、 観る側に与える。そこから一気に映像を加速させ、 動きにも激しく奥行きも出てくる。単純な追っかけ逃げ戦うの展開の中に、 唐突にひよこが登場。これが飛び回る。 そして、頭に乗っかってるけどこれがどうなるの?…と思わせたところで、 最後のオチへ。

つまり、とにかく一つ一つかなり唐突なんだけど、 全体の構成としては、起承転結がしっかり出来てる。 だから結果として、「よくわからないけどいい感じ」という満足感を、 観る側が感じるのではないだろうか。

あんまり難しく考えないで感じてください…とかと作者に怒られるかも。

総天然色少年冒険活劇漫画映画 ハルオ - Shao Guee.Com

荒削りな点がいい意味でも悪い意味でも出た作品。

基本的には、夜店の提灯、バイクのテールランプの残像など、 一つ一つの映像に工夫があり、どちらかというと、 戦っているシーンが作品の大半を占めつつも、 観る側がそこそこ飽きない作品になってると思う。

しかし、率直に言うと、30分という長い作中に、 動きとかがやや雑めの格闘シーンを多く入れすぎた気がする。 その労力のかけ方が少々もったいない感じ。

物語的には、ハルヲの悪ガキとしてのマイナス面を描きすぎた感じがする。 冒険活劇というんだから、もっとハルヲを楽しい魅力的なキャラとして描いても 損はないと思う。

無計画に子供を産んじゃって…とハルヲが女の子にキツいことを言うシーン。 この辺りはなかなか印象深かったなあ。

tough guy! 3 the predator - 岸本真太郎

カマキリの動きは、コミカルさに加えて、かっこよさをも 備えているし、町中を飛んでいく時の尋常じゃないスピード感が気持ちいい。 時々スローモーションを入れるなどしての、メリハリのある動き。 蝉に逃げられ、男に突進、帽子がへこみ、再び蝉を捕らえ、 パチンコ店のネオンサインに突っ込む…の一連の勢いのある流れ。 緻密な作品作りだなと感じる。

ただ、そのように、技術的に前作に負けず劣らず、 見るべき点が多いにもかかわらず、 インパクトと笑いという面では、明らかに前作より弱い。

それと、ちゃんと冒頭にセミを食べてその抜け殻を屋根に捨てているシーンが あるのにも関わらず、 何故か、最後のシーンで、大量に落ちてきたセミの殻が、 カマキリが捨てたものだとすぐに分からず、ハハハと笑うタイミングを逸した。 まあ私はそもそも鈍いんだけど、この感覚は必ずしも私だけではないようだ。 そもそも脱皮がある虫だからかなあ。最初のシーンの印象が薄かったせいなのか。 映像って難しいなと思う。

あかね雲 - あかね丸

諸事情のために、DVDには肝心の音が入っていない事が残念。

とにかく万人の爆笑を誘う傑作。 その着眼点も凄いけど、テンポよく徐々に笑いを増幅させていく 演出のうまさには舌を巻くばかり。 それにしても、まさか、中のキャラが外に出てくるとは……。 励ましてるシーンとか最高。

アイディア一発だけでなく、背景についても、動きについても、 細かい部分が良く出来ていて、作品の雰囲気を全く損なわない完成度。 夢中になって走る少年の動きも面白いし、 なんといっても目を剥き、夢中になって叩く、おっちゃん達の表情が良い。 良すぎる

女の子もかなりきついデフォルメをしてるのに、しっかり可愛い。 制服姿の堤防の階段を上がっていくシーンとか、なんだかどきどきしてしまう。

ただ、励まされた後のシーンがちょっと流れとして今ひとつだった感じ。 太鼓をかっこよく叩く少年の姿に、別の少女が…という展開の方が、 オーソドックスだけど物語の収まりが良かったかも。

走れ - 青木純

手描きのメタモルフォーゼの面白さを生かし、一つの楽しい作品に仕上げる技量の高さに感心。 特に千鳥足で、少し笑わせるための間を取る技術とか見事。

しかし、こういうのを見てると、なんだか一種の走馬燈にも見えてきて、 私はちょっと恐くなってしまう。

夏と空と僕らの未来 - 井端義秀

文句なしにこれをグランプリに推したい。

作画がと言われる意見もあるとは思うが、そんなことなど重要なのだろうか。 この斬新な映像感、生き生きしたキャラクター、心をうつドラマと音楽。 それで、もう十分じゃないか。

まずは、コマの中の世界を転々と逃げる少女、追う少年、 ページに潰される少年…という感じで、 まずは追う逃げるのパターンに今回の方法論をうまく生かした上で、 その後はドラマを創っていく。勢いよくページを捲ることを演出に生かし、 クライマックスの夕焼けの場面では、徐々に動きつつ現れていくフレームの美しさ。

これは、漫画文化に慣れた我々に、すごく親和性が良い。 この作品は、映像の未知の可能性をまた一つ明らかにしたものだと思う。

今までにも、漫画の画面を映像に使った作品は見たことはある。 過去に、似た手法の作品がコンテストに応募されたこともあったそうだ。 しかしこんなに見事なのは見たことがない。

手法をそっくり真似るのではなく、 効果的なコマ割り、めくる演出など、参考にできることが この作品にはいくつもあると思う。 恐らく、この映像表現の方向にはまだ多くの可能性が残っている。

MY HOME - 木霊

生き生きした人物表現、テンポよい映像の構成、 背景等の丁寧な作り込み。 そして物語としては、家が作り出されていくわくわく感。

3DCGに、時々手描き等を加え、違和感なく合成した技術。 商業アニメーションでもまだそれほど多くはない。 しかしこの作品は、もうそれを完熟させている。そんな思いを抱く。 確かにグランプリに値する作品のように思う。

しかし、私の心にひっかかるものがある。 本当は、作品にも、制作者にも何の罪もない。それを前置きした上で、 書かずにはいられないと思ったことを書く。

今回のコンテストの審査の選考基準は商業性を重視したという。 そして、今回のコンテストは、某市や某省、そして企業などの バックアップもあるという。 レセプションの乾杯の席では「レベルが上がっている」という言葉が聞かれた。 その言葉は去年も聞いた気がする。 今回、その代表となるものがこの作品だというわけだ。 確かにそうだ、完熟の域に達している。テーマも世相を反映し、古臭さもない。

でも、待ってくれ。ここに出てきた登場人物は、その商業社会というものと、 お役所が、排斥した人達じゃないか。

これが商業作品として成り立つというなら、それはどういう意味なのだろうか。 求められているのは、作品が描くものではなく、その技術なのか? その作品が消費者達に与える夢なのか? 叶えられることのない夢?

うがった見方であることは良くわかっている。でも……。

忌野清志郎が歌った、「あきれてものも言えない」という歌を今も覚えている。 特別ファンではなかった。でも、この曲をなんとなくラジオの曲をカセットテープに録音して、 その後は何回となく聴いていた。そのテープは今見つからないが。

ただ、以下のフレーズが頭の隅に残っている。

山師が大手を振って歩いてる世の中だ、汗だくになってやるよりも死んでる方がまだましだぜ。

どこかの山師のデマによって、なぜか自分が死んだことになっていて、 次の週に香典が届いた男の叫び。

その何年も後、その同じ忌野清志郎が「昼間のパパはちょっと違う」と歌い、 それは某建設会社のCMに使われた。

そのCMを観た時感じたものと、今回の違和感は何か似ていた。 表現ってなんだろう。作家ってなんだろう。 人を描くということはどういうことなのだろう。 そんなことに私は思い悩む。


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Last Modified on Saturday, 25-Aug-2007 14:13:51 JST