新明解のページ - 劇団BQMAP「風雲天狗 鬼哭啾々大江山」感想

はじめに

以下の感想はネタバレの部分が多いので、内容を知らずに、 ビデオを買おうか迷っていて、万一、このページに突き当たった人は、 内容を読まない方がいいかもしれません(笑)。

観劇日時/場所

2002.12.14(土) - 14:00-16:00, 19:00-21:00 の二回観劇。 新宿シアターサンモール。

アクション,舞台効果,音楽

殺陣などのアクション

舞台を上下に使った迫力あるアクションシーンが多かった。 どの役者も、高いところから当たり前のように飛び降りるアクションを何度もこなしていたが、 本当は当たり前ではないはずだ。

そして、分量的にも非常に多く、必死に戦っているだという雰囲気が、 ひしひしと伝わってきた。

特に、雨音のアクションが凄かった。 男性並のアクションをこなす女性は本当に格好いい。

それから、母布郎の殺陣が良かった。我流という感じが良く出た剣の使い方をしていた。 どこかできっちりと修行した感がある、風雲天狗の戦い方と、 うまく対比が出ていた。

舞台効果

とにかく、クライマックスの、酒呑童子としての嶽丸と、雨音が再会するシーンの、 スモークがすごかった。舞台客席全体に広がって、 観客席と舞台に一体感を与えていたと思う。霧が晴れてきたところで、 面を取り正体を見せるという演出も見事だった。

嶽丸の最期のシーンなどは、雪と照明の使い方が非常に美しく、 演技とも見事にシンクロしていた。

音楽等

打ち込み(だと思うが)のシンセサイザーベースの曲が、 演奏が長引いてくると、やや私の耳には重すぎた感じはしたが、 うまく、作品全体の雰囲気を盛り上げていたし、格好よかった。 しかも、音楽の強弱の使い方もうまくて、役者のセリフをうまく引き立てていた。

物語について

全体

基本的には、我らが主役、風雲天狗が、御姫様を捕らえた酒呑童子達を討伐するという、 比較的、わかりやすい勧善懲悪的内容だったと思う。

但し、やや特徴的な点は、悪役側を美しく描いていることか。 酒呑童子を名乗る敵の親玉が、人を殺すなどの悪行を繰り返してきたのは、 例えば水戸黄門などの典型的な悪役に見られるような私利私欲というより、 誰か強い者と戦い、最後には誰かに討伐されたい為だという。 何やらそれは、美学めいている。

そこには、人間の、弱さとか、あざとさとか、生臭さが見られず、 観る側にとって、その姿は、時として美しく映る。 やや俗っぽい言い方をすれば格好いい。 もし、単なる快楽殺人的悪役であれば、もう少し観客に嫌われるところだが、 最後には誰か強い者に倒されて滅びたいということが、その印象を和らげる。

ただそういう作品が、観る側に伝えたいものは一体何なのか。 極端な言い方をすれば、ビジュアル的美しさを与えるために、 勧善懲悪の物語を単なる道具として使うというパターンに陥ってはしまわないだろうか。 こういう勧善懲悪の物語を観るたびに、私にはそういう疑念が湧いてきてしまう。

多くの観客はそれを素直に楽しめたと思う。私も楽しめた。 しかし、一部の観客に、そのような物語の流れに、 どこかしら薄っぺらい印象を抱いた人達はいなかっただろうか…などとちょっと思った。

それから、私は観ていないので詳細はわからないのだが、 前作では、竹内順子演ずる現代の漫画家が登場したという。 その辺りに今回は全く触れていないのも、物足りない気がする。 せっかく、現代との窓を持っていたユニークな時代劇「風雲天狗」が、 今回は全く生かされなかったのは、やや残念な気がする。

雛菊姫が母布郎に寄せる恋の描写

この部分は、秀逸だった。とにかく、 雛菊姫がどうにもこうにもかわいくて、私を殺す気か…という感じだった。

記憶を失って、人殺しグループの下っ端として忠実に働く母布郎。 しかし、その本当の心根は優しいことを直感的に感じ取って、 信頼している雛菊の描写が愛おしく、見事だった。 2人には、囚われの身と、それを監視するという身という、 本当は仲良くしてはいけない事情があることが、 むしろ、その関係描写を面白くしているのだ。

時折、雛菊姫の顔が丸いことをネタにして笑いを取る演出も、 非常に品が良くて巧かった。

酒呑童子(嶽丸)と雨音の恋の描写

一方、嶽丸と雨音の関係。基本的には、こちらの方が、 この物語の根幹的な部分である筈だったのだが、こちらの方は、 物語的には、どうも物足りなかった。 それは、雛菊と母布郎との関係の描写と違い、二人の出会いの場面では、 関係を面白くする状況が不足していたことが問題だったのだと私は思う。 着ぐるみを着た雨音が、嶽丸となんだか唐突に出会って、 突如、恋心を抱くというまでの流れが単純すぎて、どうも、 薄っぺらい印象を抱かずにはいられなかった。 好きになる理由の材料として、同じやまびとという設定はあるが、 まだ足りない。嶽丸の人となりで、何か魅力的描写が欲しかった。

九条忠継になりすました男

凪と雨音達と共に、鬼の棲む砦へ向かった忠継は、実は偽物で、 姫を殺すのが目的だった…というのは意外性を狙った部分。 確かに、そんな事があるとは予想もしてなかったけど、 だから、驚いたかというとそうでもなかった気がする。 それは、忠継の存在が、物語の中で、やや希薄だったのかもしれない。

彼はどうもやなやつだな…ということを感じさせるエピソードがあるか、 或いは、反対に、彼はすごいいいやつだ、というような描写がもあったら、 後のどんでん返しに、うまくつながった気がしないでもない。

うまい伏線

伏線というほど大袈裟でもないが、雛菊姫と母布郎が、 早口言葉対決をするシーンで、 「ばさらさまもばさらさまなら、だらさまもだらさまだ」と言うシーン。 後で、全く同じセリフを母布郎が喋る状況になるというのはうまいなと感じた。 もしかして、この部分のセリフが言いにくいのに気がついて、 早口言葉対決を後で思いついたのかな。

それから、 嶽丸が、虎が着ぐるみであると見破った(…というかすぐにわかるが)シーンと、 風雲天狗の正体を見破ったシーンで、同じ言い回しがあって、これも、 面白かった。 まぁ、こちらはやや作り込みっぽかった印象を受けなくもなかったが。

なんか、この二つのシーンって、 HxHミュージカルで、ゼブロになりすましたイルミと、後で登場するゼブロが、 全く同じセリフを言う演出と似たような芸風を感じた。 もしかして、これって奥村節なのかな(それとも演劇では良くある演出?)。

役者について

まず、男性陣。酒呑童子こと嶽丸役の澤田博幸。 声がいかにもモテ役っぽい感じで良かったな。 雨音をいい声だとか褒めてたけど、あんたもだよと思った(笑)。 それから、母布郎役の前田剛、時折見せる大袈裟な演技とか魅力一杯って感じ。 主役の凪(臼井琢也)はむしろ地味な印象だったが、主役はむしろ地味な方が、 物語は面白くなるのかもしれない。

女性では、やはり雛菊役の知桐京子が面白かった。 それから、久遠院役の中西ありさ、今回は出番少な目だったが、この人も面白そう。 雨音役の高瀬郁子と敵側の紅葉役の丘崎杏のアクションは迫力があった。 あとは、二人のはた(中村恵子と土屋真由美)が、 ユニゾンで喋っていた演技が面白かった。

その他

パンフレットに演出の奥村直義氏が、桃太郎神社のことを言及していて、 おやっと思って調べてみたら、彼は岐阜県出身だそうな。 名鉄犬山線沿線住民の私は、もちろん桃太郎神社は知ってる(笑)。

ところで、今まで、演劇ってほとんど観たことがなかったけど、 ハンター×ハンターミュージカルを観たのをきっかけに、 最近、なんだかこういうタイプの演劇が、気になりかけている。 アニメの感想を書くことは多くても、 こういう観劇感想を書くのは、あまりしてこなかったけど、 今後は、時折書いていこうと思っている。

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Last Modified on Thursday, 30-Aug-2007 01:48:56 JST