第拾六話

死に至る病、そして…

[Splitting of the Breast]


<あらすじ>

 シンジはテストで順調にエヴァとのシンクロ率を伸ばしてゆく。アスカは追い抜かれたことにショックを受ける。
第十二使徒の進入に対して、アスカはからかい半分にシンジを先鋒に推薦する。先日のテスト結果に手応えを感じていたシンジは、いつもとは違いアスカの挑発に乗ってしまう。しかし独断で使徒を攻撃したシンジは、使徒の体内の虚数空間に飲み込まれてしまった。
 自らの挑発が発端となったことに責任を感じてか、異様に饒舌なアスカ、それに詰め寄るレイ、シンジの身を心配するミサト。
リツコはエヴァ初号機の機体回収を最優先の作戦を考案。シンジの身を案じて詰め寄るミサトに、彼を失うのはミサトの責任であると明言する。ミサトはエヴァ初号機には自分にも知らされていない秘密があることを直感する。
 虚数空間内でシンジは数々の幻影を見る。生命維持システムの動力が下がり、意識を失うシンジ。その直前に、彼は母親の幻を見る。
 作戦実行直前、意識を失ったシンジを乗せた初号機は、暴走状態となり自力で虚数空間を破壊、使徒を殲滅し、生還する。
 その悪鬼のごとき姿を前に、エヴァを造りだしたリツコさえも恐怖する。


<評価>


<感想とねたばらし>

 ま、話の展開に無理があったり、セリフが異様に説明的なのは残り話数がないせいということでしかたないでしょう。そろそろ説明していかないとあと10話で終わりそうも無いし。細かいことは以下箇条書き。

今回の主役
 シンジ君…ではありません。彼は進んでエヴァに乗るための理由を見つけた以上、現在の使徒vsネルフという構図の中で主役をする意味はありません、なぜなら彼はこれ以上進んで変化してゆくことができないからです(そして使徒vsネルフという現在の構図の中では変化する必然性もないでしょう)。外部の状況が劇的に変化すれば、話は別ですけどね。
 現状で彼を主役にしようと思ったら、レイとアスカを巻き込んでラブコメでも始めるしかないですな(そんな話数はないぞ!)。
 と、いうわけで今回の主役は「シンジを取り巻く人々」です。
 レイ&アスカ、ミサト&リツコ、そしてエヴァ&ユイ。今回のシンジ君の役割は彼らの結節点です。

加持からの電話
 あ、ヨリ、戻したんですね。
 加持は気楽にミサトに電話してきます。つまり、前回のラストでミサトは加持に向けた銃を降ろさざるを得なかったわけです。そしてそれは、ネルフの三佐としての行動ではありえません。ミサトさん、相変わらず行動に主体性ってものが見られません。彼女はラストまで生きていられるんでしょうかね?

シンクロテスト
 テスト結果を気にするシンジ。成長したねえ、「目標をセンターにいれて…スイッチ」のころとは大違いだ。
 シンジに抜かれたことがショックのアスカ。彼女については後程。

対第一二使徒戦
 前衛の初号機はハンドガン、バックアップの零号機はライフル、まではいいとして弐号機、マサカリでどーやってバックアップしようというのだろう?
 アスカ、シンジを挑発します。彼女にとってはいつもの行為ですが、今回シンジは調子に乗りすぎ。しかし使徒の撃破数では彼がトップエースなわけですから、今さらテスト結果だけであれほど調子に乗るというのは無理がある。それとも、普段アスカにいびられているのが相当頭にきていたのかな。

アスカ&レイ
 普段にも増して異常に饒舌なアスカ。黙っているとやり切れないかのように。頭のいい娘ですから、自分のなにげない軽口が発端となったことに責任の一端を感じているのでしょう。なにせ借りをきっちり返す娘です。
 そんなアスカに詰め寄るレイ。アスカの気持ちを察する余裕も無いようです。「奇跡の価値は」で見せて以来の感情的なレイ。
 以前から思っているのだが「静止した闇の中で」で、レイに替わってシンジがディフェンスを引き受けようとしたら、彼女はおとなしくバックアップにまわっただろうか?彼女は決してディフェンスをシンジには譲らなかっただろうと私は勝手に思っている。

アスカがエヴァに乗る理由
 「自分で自分を誉めてやりたいから」…まだ他にあるでしょう。「瞬間、心重ねて」での逃げ出したコンビニでのセリフ、「私にはエヴァに乗るしかないのよ」。レイの「絆だから」と同じくらい重いセリフだったぞ。だいたい、かわいい天才少女が「エヴァに乗るしかない」とまで言う理由がそれだけってのは理解しがたい。(だいたいそれが、シンジの「父さんにほめてもらいたい」をばかにできるほどの理由か?)
 今回のテストでシンジに抜かれたあせりようも、たかだかプライドを傷つけられた程度のものではないでしょう。エヴァは彼女の存在意義そのものに関っていると思います。

虚数空間とディラックの海
 オールドSFファンがTVの前で狂喜しているのが目に浮かぶようだ。なぜって私がそうだから。と、いうわけで、初号機に「阿修羅王」の名を与える。
 理由わからない人は、光瀬龍「百億の昼と千億の夜」ハヤカワ文庫JA0006を読むべし。

リツコ&ミサト
 参話でのトウジ達をエントリープラグ内に収容するか否か、から細々と培ってきた二人の考えの相違いがついに爆発します。リツコは(というよりもネルフは)シンジの安全よりも、初号機の回収を優先します。「使徒、侵入」 では初号機を最優先に脱出させようとしたこともありますので、非常に首尾一貫した対応です。
 ミサトはようやく自分の知らない秘密があることを自覚します。ここから自分で考えて行動できればよいのですが…これまでの展開からは望み薄。

虚数空間のシンジ
 オシイストならば大爆笑。LDになって絵が入っていたらこれまた大爆笑。解らない人は押井守監督「トーキング・ヘッド」バンダイビジュアル株式会社をみるべし。
 しかしエヴァに乗る理由を見つけたシンジに、この自問自答はたいして効果なし。これをやるなら「奇跡の価値は」の前でやるべきだったろう(その場合、シンジは生還しても立ち直れないだろうが)。そういった意味で全体の構成からするとこの自問自答に積極的な意味は見出せない。ただし、シンジが極限状態で追い込まれてゆく描写としては秀逸。あと、あえていえば視聴者に喧嘩売っているかのよーだ。(オタクが好きなことやってて何が悪いんだよう ^_^;)
 注目すべきはゲンドウの過去とユイ。コマ送りで「結晶遺伝子」という文を発見してJ・G・バラードを思い出したのは私だけではあるまい。
ゲンドウは昔、怪しい研究所の所長をしていて、怪しい研究をしていたことが判明…って今と同じじゃないか。
 ユイさんの写真初登場。ただし、ハーレーションで顔は半分しか見えません。レイと似てなくもないよーな気がしますが、確証なし。ユイさんの死亡年齢は27才。写真はそのころの物でしょう。レイは14才、比較することにはちょっと無理があるか。

影から生まれるエヴァ
 動力の切れたエントリープラグ内で母親の幻影に出会うシンジ。次の瞬間、エネルギー0のエヴァはその圧倒的な力で虚数空間を破壊、生還する。
 ま、第弐話と同じパターンですな。しかし、エヴァの圧倒的な力をじっくり描く演出は最高。
 モチーフはやはり出産でしょうか。かなり意味深。
 ところでアスカ、「ゼーレ、魂の座」でのシンジへのセリフ「どう、シンちゃん、ママのおっぱいは。それとも、おなかの中かな?」 …何を知っている?やっぱり伏線だったんだな。

エヴァの正体
 アダムのコピーってことになってるのね、一応。
 初号機はアダム+ユイ(の一部)というのに1票。弐号機以降は純粋にアダムのコピーかな。零号機については保留。錯乱するとリツコさんに殴りかかるという悪癖が解明の鍵か?
 ところでなんで第一使徒って天使の名ではなくアダムって呼ぶのだろう。裏でルシフェルなんて呼んでいたら大爆笑だな。

「レイやシンジ君がエヴァの秘密を知ったら、許してくれないでしょうね」
 アスカは?ねえ、アスカは?
 もしも初号機がアダム+ユイ(の一部)だったらシンジは許さないでしょう。レイは…やっぱりユイのコピーなんでしょーかね?
 少なくともこの会話でレイも決してすべてのことを知っているわけではないことに確証が持てました。そして、少なくともリツコたちを「許さない」だけのことを知っているということも。


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Feb.,10,1996