第弐拾参話
涙
[Rei III]
<あらすじ>
ミサトは部屋に閉じこもり、加持の残した最後の伝言を繰り返し聞いていた。アスカはもう何日も帰らない。シンジはそんな二人にかけるべき言葉を持たないでいた。
アスカはヒカリの部屋で何日も閉じこもり、TVゲ−ムに興じていた。床の中でアスカはヒカリに自分の心情を告白する。自分は勝てなかった、自分の価値などもう無いのだと。しかし、ヒカリはアスカに、彼女はよくやったと思うと答えて慰める。その言葉にアスカは涙を流す。
ゲンドウはロンギヌスの槍の無断使用についてゼ−レの追及を受けていた。ゲンドウは使途殲滅のためのやむを得ない処置であったと主張する。ゼ−レはなおも追及するが、第16使途の襲来にゲンドウは退席する。ゼ−レはゲンドウの行動を危険な物と判断する。
使途の迎撃に零号機が発進する。ゲンドウは弐号機も囮にはなると出撃準備させる。アスカはコクピットで自分が出撃したところで役には立たないと自嘲する。
使途が零号機に攻撃を仕掛ける。ATフィ−ルドを侵食し,零号機を侵食してゆく。零号機の救出に弐号機が出撃。しかしアスカのシンクロ率は二桁を割り、弐号機を起動できない。ミサトは弐号機の回収を指示、ゲンドウは初号機の凍結を解除し、出撃させる。
レイは心の中で自らの姿を写し取った使途と向き合う。使途はレイに一つになろうと持ちかけるが、レイはそれを拒否する。なおも食い下がる使途対して、彼女はさみしいのかと問う。しかし、それはレイ自信の気持でもあった。コクピットで彼女は初めて自分が泣いていることを知る。
地上に出た初号機に使途が襲いかかる。初号機と融合を試みる使途に、レイは自分の心を見る。初号機とシンジを守るために、零号機はATフィ−ルドで使途を押さえ込む。自爆を試みるレイにミサトは脱出を命令する。しかし彼女がいなければATフィ−ルドは維持できない。エントリ−プラグにとどまる彼女は、最後にゲンドウの笑顔を見る。レイの瞳から涙があふれた。
エヴァ零号機は光の中に消えた。使途と第三新東京市と共に。
全損となった零号機のエントリ−プラグが発見される。リツコはすべてを極秘事項として処理する。
第16使途を殲滅。これで残る使途はあと一体。ゼ−レは死海文書の記述が成就するときが近いと判断する。
レイの最後にショックを受け、呆然とするシンジ。ミサトはそんな彼に、自分にしてやれることはこのくらいだと、彼の横に座りシンジの手をとる。しかしシンジはそんなミサトを拒絶する。
人との触れ合いが恐いのかだろうか、しかし触れ合う人を求めているのはミサト自身であった。
レイが無事だったという連絡が入る。シンジは自分を守ってくれたことに礼を言う。しかしレイは逆にシンジに質問を返す。覚えていないのかと尋ねるシンジに、レイは、知らないの、私は多分3人目だから、と謎の言葉を返す。
自宅で鏡に向かうレイ。ひびの入った眼鏡を握りしめるうちに涙がこぼれる。初めてみたはずの涙の記憶。涙の訳、そして無いはずの記憶に彼女はとまどいを感じる。
ゼ−レの尋問に無言をもって答えるリツコ。しかし自分の役目がレイの代役にすぎないことを委員会から告げられる。
ゼ−レはリツコをネルフへと帰す。エヴァがすべてそろうのも間近、約束の時は近い。
ミサトは加待から渡されたカプセルを開ける。そこにはマイクロチップがあった。加待の言葉を胸に彼女は行動を起こす。
リツコはシンジを呼び出し、セントラルドグマへと向かう。そのリツコに銃を向けるミサト。リツコはシンジとミサトを連れ、ドグマの最深部へと向かう。レイの育った部屋、エヴァの墓場。リツコはシンジの母の消えたところだと告げる。その顔には薄く復讐の笑みが浮かぶ。
そしてダミ−プラグの製造工場へ着く。リツコは真実を見せようとつぶやく。
周囲の水槽には無数のレイがいた。シンジがその名を呼ぶと全部が一斉に彼の方を向く。リツコはこれをダミ−プラグの、そしてレイのためのスペアパ−ツと教える。
人は神様を拾って手に入れようとした。しかし罰があたり、すべては消滅した。それがセカンドインパクト。
しかし人は諦めず、神を復活させようとした。それがアダム。そしてアダムから神に似せて人間を造った。それが、エヴァ。
エヴァには魂が無かった。そしてエヴァには人の魂が宿らされた。
魂が入っていたのは綾波レイただ一人。
彼ら3人の周囲を取り囲むレイには魂がなかった。ただの道具、入れ物だった。
ゲンドウはリツコではなく、レイを選んだ。レイは人ではない。人の形をした物。しかしリツコはその物にすら負けた、魂のある者が魂の無い物に負けたのだ。
リツコは周囲のレイを破壊する。そしてミサトに自らの死を望むが、ミサトはそれを拒絶する。
その場に崩れ落ちるリツコに、ミサトは自分の姿を重ねていた。
<評価>
- シナリオ ★★★★☆
- 演出 ★★★★☆
- 総合 ★★★★☆
<感想とねたばらし>
- 鳴らない電話
- 部屋に閉じこもって加持からの最後の伝言をくり返し聞くミサト。「鳴らない電話」ってのは第参話とのひっかけであることは明白。そのミサトの様子はうつむいてSDATを聞くシンジにオーバーラップします。
同じモチーフにテーマを乗せて繰り返すのは演出の基本、だと思う。
- 今週のアスカ・その壱
- ヒカリの部屋に転がりこんでゲームばかりしているアスカ。野山を俳諧するしかなかったシンジとは雲泥の差です。日頃の行いがよいのでしょう。
アスカを慰めるヒカリ。左足を失ったトウジを見ているからこそ言えるセリフでしょう。第四話で「エヴァの中で苦しんでいる碇を見ているから」とシンジに言ったトウジがオーバーラップ。
同じモチーフをくり返し使うのは以下省略。
あ、書き忘れるところだったけどヒカリの寝間着姿がGood!。
- 零号機対第16使徒
- 使徒がエヴァのATフィールドを侵食。エヴァにできるんだから使徒にもできるのは考えてみれば当然ですね。しかし第11使徒の時といい、第13使徒の時といい、物理的に侵食されるのはなぜかレイばかりです。
- 今月のアスカ・その弐
- アスカ、張り詰めていた糸がぷっつんと切れてしまったようにぜんぜんやる気が見られません。典型的な挫折した秀才ですね。
エヴァとシンクロできない、ってのは第弐拾弐話で弐号機の目の光が消えたことから、なるんじゃないかなとは思っていましたが・・。無気力症ってだけではつまらんなあ。でもアスカはシンジみたいに後先考えずにキレるタイプではないし。こういった、いざどうしようもなくなると自分ではなんにもできなくて他人に助けを求めるあたりミサトそっくり。アスカ自身が変われない以上、シンジが助けるしかないのですが。
初号機の出撃を聞いて「私の時は出さなかったくせに・・」っておい、アスカが使い物になれば出る必要は無かったんだってばさ(-_-;)。つまりアスカは前回レイではなくてシンジに助けてほしかったわけやね。
- 今週のレイ・その壱
- 使徒からの融合の誘いを拒絶するレイ。彼女が自分を見失っている特殊部隊の隊長でなくてよかった。
しかし、レイに「私は私、あなたじゃないわ」と言うだけのアイデンティティがあったとは。
目の前に自分の形をとった使徒を見て、さみしいという自分の本当の心を知ります。それが涙を流すほどに悲しいことだということも。
初号機のATフィールドの展開と同時に使徒は初号機にも攻撃をしかけます。レイはその使徒の行動に、「碇くんといっしょになりたい」という自分の気持ちを見ます。その後、シンジと初号機を守るためにだれの命令でもなく、自分の意志で使徒を押さえこみ、自爆を試みます。この点が命令でシンジを守った第六話とは決定的に違います。
「人形は人を愛する心と、悲しみを知って人間になりました」イソップかグリム童話で似た話がありそうですが、ちょっと思い付かない。
- 自爆
- 「自爆装置は男のロマンだ」をモットーに、会社の新人歓迎会では「自爆装置付きどつき漫才(総火薬使用量0.1g×5)」などということまでやってのけた私ですが、今回だけはちょっと・・・ね。
- 全壊のエントリープラグ
- いや、なぜ極秘で処理しなければいけないのかが引っ掛かります。レイがいなくなると困るので、死亡の事実を隠したいだけなのでしょうか。それとも・・
- 今週のゼーレ
- 死海文書に記述された使徒はあと一体・・ってそんな。山のように迫ってくる使徒の大軍を弐号機のアスカがばったばったとなぎ倒す、って話を考えていたんですけど。
ところで使徒っていったいなんなんでしょ?文字通り「神の使い」でしょうか?それとも、人間を作り出した古代アトランティス人(には特にこだわらないけど)の作り出した道具とか。
あ、「神」の定義しだいでどっちも同じか。
- 今週のミサト・その壱
- レイの死でショックを受けたシンジを慰めようとするミサト。全国の同人作家ののけぞる姿が以下同文。
「寂しいはずなのに、女が恐いのかしら」ってなあ、この場合「寂しい」と「女が恐い」の間に相関関係の因果関係もないぞ。
ペンペンに声をかけるも無視されるミサト。一連の行動を通じて実は自分が一番寂しいのだと気付くという構成は前半のレイ(2)の涙の件と同じですね。同じ構造の反復使用は演出の基本。
- 今週のレイ・その弐
- 「知らないの、多分、私は3人めだと思うから」ってああ、やっぱり・・・。この件は最後にまとめて。
自分の(?)部屋で鏡を覗くレイ(3)、そしてゲンドウの眼鏡を手に取り、涙を流します。
「涙、初めて見たはずなのに、はじめてじゃない気がする」
さて、このレイ(3)がなぜこのような感情を持っているのでしょうか。
- 仮説1.
- レイ(2)とレイ(3)はまったく同質のコピーであるから、一卵双生児に見られるような共感作用がある。
- 仮説2.
- レイ(2)は定期的にセントラルドグマで記憶を「セーブ」していた。レイ(3)はレイ(2)の記憶のバックアップを持っている。
…仮説1を本命にしときます。
- 今週のリツコ・その壱
- ゼーレの尋問を受けるリツコ。うーむ、ゼーレの皆さん、尋問のセンスがいいですな。(^^;)
ゼーレの意に沿わないリツコに対して、リツコはレイの代りに差し出されたことを告げます。やっぱりリツコさんも一種プライドだけで生きている人ですからねえ。
「役に立ってもらう」とゼーレはリツコを返すわけですが、その後彼女がセントラルドグマでとった行為はゼーレの意にそっているのでしょうか。(ま、ゲンドウに対するいやがらせならokだな)
- 今週のミサト・その弐
- ようやく行動に移ります。しかし「加持の心を次ぐ」とやっぱり行動の直接の動機は彼女の外にあります。それじゃあ「父さんに誉めてもらいたいから」といってエヴァに乗っていたシンジと同レベルだぞ。ま、いまさら彼女が成長するとは思っていませんが。
エヴァって成長するシンジと成長しないミサトの対比の物語という一面があると思う。
どーでもいいけどチップの端子部分を素手で持つんじゃない。
- セントラルドグマ
- ミサトとシンジを連れてリツコはセントラルドグマへと向かいます。
人工進化研究所・第3分室。レイの育った部屋。オープニングで膝を抱えたレイがいた所ですね。壁にトップとかボトムとかストレンジ・・第八話でアスカと初対面の時に読んでいた本に円形加速器の図があったことを思い出します。しかし部屋の様子からほんとに実験動物だよなあ。予測は当たったけど嬉しくない。
エヴァの墓場、リツコはただのゴミ捨て場と言います。零号機と同タイプの試作機の残骸が少なくとも10数機。リツコはシンジに向かって、ユイの消えたところだと話します。その薄い笑いが恐い。母親の復讐か、それともユイ(レイ)に対する嫉妬からか。おそらく両方でしょう。
セントラルドグマ最深部。水槽に泳ぐ無数のレイ。シンジが名前を呼ぶと一斉にこちらを向くのがとても恐い。
リツコによってこんどこそ本当のセカンドインパクトの秘密が語られます。このあたりの語りは主語が無いこともあってちょっと解りにくかったです。
- 南極で神様を見つけたのだが、取り扱いを誤ってセカンドインパクトが起きた。(オーバーテクノロジーを拾って使うとろくなことにならんのはマクロス以来普遍の法則 ^^;)
- 消えてしまった、で済ませるにはおしいので「アダム」として人間の手で復活させた。
- 調子にのって、「アダム」を原形として「エヴァ」シリーズを造った。
といったところでしょうか。
しかしアダムが第1使徒と呼ばれているのは?やはり人間が「造った」わけではないのでしょうね。
問題はレイです。おそらくはエヴァの操縦者、もしくはダミープラグ用としてアダムとユイをベースにして大量生産されたのでしょう。その中で一体だけ魂を持った固体がいた。それがレイ(1)。赤木博士に殺害された後、その魂は他に大量にあった体に移動、それがレイ(2)。ただここでいう魂は記憶を伴いません。生きてゆくための本能、衝動といったなものでしょう。生活やパイロットとして必要な知識は強制的に刷り込みが可能でしょうから。
生きてゆくための衝動というか目的意識のようなもの、それが魂なのでは。(コンピュータがいかに膨大な記憶容量と演算能力を持とうと、目的に対する衝動が無いかぎりはただの機械であるのと同じである)
・・島本和彦が「ワンダービット」でそんな話を描いていたような気がする。
レイ(3)が受け継いだレイ(2)の魂、そこにはシンジの記憶も第16使徒の記憶もありませんでした。しかし、最後に人間になったレイ(2)の感情のようなものは微かながら受け継がれているようです。これはレイ(1)からレイ(2)になったときとはおそらく決定的にちがう要素だと思います。
これは間違い無く伏線でしょう。以前にも書きましたが、レイはこの「エヴァンゲリオン」という話のコア、鍵となるキャラです。ただ死んで予備が出てきただけ、なんて顛末では納得いかん。
(ようするに全部個人的な思い込みと願望である。ここまで読んでくれた人に感謝 ^_^;)
- 今週のリツコ・その弐
- 「体なんか魂の道具にすぎない。しかし私は魂の無い人形にすら負けた」ということで、人形をすべて破壊します。
これでダミープラグの生産は不可能となったわけですが、これがゼーレの思惑と合致しているかが疑問。ゼーレが必要としている12機のエヴァ。パイロットは今のところ2+(1)しかいないのだが。2年A組を使う気なのでしょうか。
人形ってモチーフもくり返し出てくるなあ。ちょっと気にとめておいたほうがいいかも。
- 今週の次回予告
- 内容と映像のギャップが・・・SF大会とかの上映会で見る自主制作コマ撮りアニメを思い出すなあ・・そういえば庵野監督がアマチュア時代に造ったそういったアニメがどっかにあったな・・。
ってのは置いておいて、ようやく、第弐拾四話にしてオープニングに出てくるキャラが全員そろいます。長かったなんてもんじゃないですね。
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Mar.,20,1996