ときどき

葛原紗夜子 




ときどき

が、いい


いくら大好物だからって、毎日『北極星』のオムライスやったら絶対飽きるし
いくら好きやからって、いつもかもホラー映画は観たくない

いいカンジの間隔で、イイ感じの感覚で、
好きなもんを好きでいたいやろ?

せやったら、やっぱり『しょっちゅう』でも『たまに』でもなく
『ときどき』がええと思う


「なに判りきったこと云ってんだよ?そんなの当たり前だろ?」


あ、そういうこと云うけどな これって結構重要なポイントやで
ちゃんと頭に入れておかんと、そればっかり、の状態に陥って、すーぐに飽きてしもうて、
結局はお気に入りの地位から脱落してしまうんやから
折角好きになったのに、そんなん勿体無いやんか

「それは飽きっぽいお前の体験談だろーが。」

むむむ  そんなこと…あらへんとは…云い切れん…けども
俺の云いたいことはそういうことやなくて…

ときどき
っていう曖昧な感覚と間隔を、俺はこよなく愛してるっちゅーことや

「ほお。例えば?」

例えばやな…
さっき云った、『北極星』にオムライス食べにいくんは、原稿上げた次の日のランチタイムに決めてるとか
映画は月に一本は必ず見にいきたい…レンタルビデオでもええけど
旅行はできれば季節ごとに行きたいなぁ…とか
打ち合わせに東京行くんもときどきがええな
呑みに行くんも月一くらいでええし

…って、おい!なに肩震わせて笑っとんねん!?

「いやぁ…つくづくお前って貧乏性だよな。発想があまりにも貧困だ…くっくっくっ」

わーるかったなぁ!俺は根っからの小市民なんや
ときどきの贅沢なんて、そんなもんしか思いつかんわ


と、自分で怒鳴ってから気付く

そうか
『ときどき』は、自分にとって贅沢、とまで思えるような、『特別』なことなのだ
それを、こよなく愛している…ということだ

自覚しながら、いつまでも笑っている男の顔をなんとなく見つめる

だったら、これも………?

ときどき胸の中で起こる、小さな竜巻のような渦
落ち着かなくて そわそわして いてもたってもいられなくなるような


ときどきのどきどき


凪だったココロの水面に漣を起こすのは
いつだって決まった人物で

埃っぽい本だらけの部屋で、陽だまりと猫とじゃれあっている姿を見たとき
教壇の上で、珍しく眠そうな顔もせず、きっちりと講義をしている姿を見たとき
絡みあった糸を解す方法を、唇をなぞりながら考え込んでいるのを見たとき

煙草を燻らしながら、滅多にしない穏やかそうな顔で、静かに笑っているのを見たとき

髪をかきあげる指
凛と立つ背中
冷たい光と柔らかな温度が同居する瞳

そんなんを見つけたとき

ときどきのどきどきがイキナリ訪れる
まるでタップダンスでも踊るように、ココロが暴れだす

………実は、今まさにそんな状況に陥っていたりもして

そーゆうのんも俺にとって『特別』で………こよなく愛してたり………するんやろうか?


「おい…お前、顔赤いぜ。なに考えてんだ?」

べっべべべべべべ別になんもっっ!
あ、あとはなにがあったかなぁって考えてただけや

「なんでどもってんだよ…ははーん…」

ななななななんやっ!?なにニヤけてんねん!?

「『ときどき』の考察をしてたんだろ?それでもって、それをこよなく愛してんだよな?」

そっそうや…多分

「だったら、こーいうことも愛してんだよな?ときどきだし。」

だーっっっ おっ覆い被さるなーっっ

「ヘンな話題振ってきやがんな…と思ったけど、結局はこういうことなんだろ?」

う…

「この微妙な感覚と間隔がいいんだよな?」

ううう…

「だったら、心ゆくまで堪能しろ。つきあってやるから。」

アホ云うなー!
もう嫌やって云うたやろーっ!?

「嫌よ嫌よも好きのうちってな。好きだろ?『ときどき』」

っそっそっそれとコレとは話が違ーう!
大体さっきやったばっかで、ときどきと違うやんか…ってナニ云わせんのやーっ!



………って、反論したって結局は無駄で
唇とその腕で、反抗はいとも簡単に封じられる

そしてまた

あの、どきどきが顔を出す





ああ、やっぱり、ときどき がいい
だって、こんなん、心臓がもたへん

鼓動がバクバクと脈打って、体中が熱を帯びて いうことをきかなくなって
まるで熱に浮かされたように、一つの名前しか頭ん中回らへん

………しかも、そうなるのが確かに嫌いじゃないから…始末に悪い…

やっぱ、特別なんかなぁ
そう思って、腕の中で密かに溜息

けど

ミステリと コイツだけは
『ときどき』よりも『しょっちゅう』の方に少し傾いているっていうことは
絶対に秘密


なんや悔しいから
絶対に教えてなんかやらん


End/2001.06.23



嬉しいッ、嬉しいッ、嬉しいですぅ〜(≧▽≦) 葛原さん、ありがとうございますッ!!!
お話を読んでいて、何かもうすっごい幸せな気持ちになりました。
アリスのドキドキと幸せが、私にも伝染しちゃったって感じです。すっごいステキで、めちゃくちゃ幸せな気分…(○^〜^○)
サブタイトルは『ピロウトーク』または『2回戦』(笑)で、もしかしたら裏行きかも---ということでしたが、嘘嘘。そんなことないですよぉ。
もし私がサブタイトルを付けるなら、『Sugar』か『Honey』ですね。ほんのり甘くて、口に含むとふんわり幸せ…って感じ(*^▽^*)
上質の砂糖菓子を口にした時みたいに、ふにゃと顔が笑っちゃうの。
当社比で甘さ30パーセント増ということですが、そっかぁ…。葛原さんのアリスと火村は、裏ではこんなに甘々だったんですね。心して、もう一度御本の数々を読み直させて頂きます(笑)

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