鳴海璃生
−3− 大阪からJRの快速を使い、京都へと向かう。普段は天満橋から京阪電車を使うことの多い私だが、東寺に行くとなれば絶対的にJRを使った方が便利だった。
というのも大阪から京都に向かう新幹線や東海道線が京都駅に着く直前、右手にやたらと年季の入った五重塔が見えてくる。それが何あろう東寺にある国宝の一つ、五重塔なのだ。つまりそれからも判るように、東寺は京都駅のすぐそばに位置していた。
もちろん近鉄京都線には、東寺駅なる東寺のど真ん前に位置するものもある。だが今いる梅田から行くとなると、環状線で京橋まで戻って、そこから京阪線に乗り、丹波橋で近鉄京都線に乗り替える---なんてバカなことをしなければならなくなってしまう。目の前の駅から一本で行けるってのに、そんなアホらしいことやってられるか。常日頃極端な運動不足を誇る私とはいえ、そんな真似をさらすぐらいなら、多少の距離はあったとしても京都駅から歩く方を選んでやる。
それに、だ。季節は秋本番。これ以上ないってなぐらい天気もいいし、京都駅八丈口からぶらぶらと歩いて散歩するには、東寺まではちょうどいいロケーションかもしれない。ここ数日間の運動不足を解消するような適度な散歩も楽しめて、おまけに美味しい三日間限定のドラ焼きも手に入る。一石二鳥とは、まさにこのことじゃないか。
快速電車の車窓に移り行く風景を見つめ、私は何となくウキウキとした気分を感じていた。何度も足を運んだ街へ行くというのに、何故か今日は妙に目新しい。まるで知らない場所へ出掛けて行っている、そんな気分なのだ。
右手に東寺の五重塔を見て、快速電車は定刻通りに京都駅に滑り込んだ。ウキウキした気分を持て余してドアの前に佇んでいた私は、扉が開くと同時にホームに飛び降りた。ドアの前で列を作っていた人達の、ちょっと呆れたような視線が背に痛い。だが、なぁにそんなこと構うもんか。どうせ二度とは会うことのない人間ばかりなのだ。それよりこの逸る気持ちを押さえることの方が、私にとってはずっと難しい。
少し汗ばむ程の陽気の中、京都駅を出た私は軽い足取りで八条通を西へと向かった。それまで疎らだった人波が、大宮通へと折れた辺りで俄に人口密度を増してきた。
弘法市は、毎月二十一日、弘法大師の祥月命日に東寺で開かれる露天市だ。通称『弘法さん』と呼ばれ、境内外には約1000軒もの露天がひしめきあうように並ぶ。
その品揃えの多さは驚くほどで、家具や食器、日用雑貨、衣類、古着、手作り製品など、種々雑多な品物が所狭しと並べられる。中でも器や陶磁の置物はピンからキリまでと品揃えも幅広く、当日は所狭しと並んだ品々と、掘り出し物を見つけよう、と意気込む人とで、この一帯は活気に満ち溢れるのだ。ここでは「まけて」のひと言は絶対の鉄則で、値切ろうと頑張る客と、譲らない店主との威勢の良い会話は、この市の名物の一つとなっている---らしい。
広げたガイドブックを読みながら、人混みに流されるようにテクテクと歩く。行き先など良く判らなくても自然と目的の場所に着いてしまうのだから、全くもって有り難いことだ。
しかし今日の私の目的は、周りの皆さんとはひと味違っていた。弘法さんの市というよりは、その前後の三日間だけに販売される笹屋伊織のドラ焼きを手に入れることこそが、第一目標なのだ。もちろんそのついでに、時間が余れば弘法さんを覗いてみてもいいのだが、とにもかくにも全ては期間限定三日間の有り難ぁーいドラ焼きを手に入れてから、だ。
「えっとぉ…。笹屋伊織、笹屋伊織---」
呪文のように唱えながら、小さな地図を指で辿る。だがいくら目を凝らしてみても、何故か東寺の近くにその店の名を見つけることはできなかった。
「おっかしいなぁ…。この辺にあるはずなんやけど---。えっとぉ、2のB、2のB---」
あっちこっちとページを捲りながら、地図で確かめた笹屋伊織の場所は---。
「嘘やっ! 何でやねん。ぜんぜん反対方向やんかぁ」
唐突に足を止め、私は大声を上げた。突然道のど真ん中で立ち止まった私に、行き交う人々が「じゃまだ」と言わんばかりの視線を投げかけてくる。余りの罰の悪さにそそくさと道の端に寄り、私は溜め息と一緒にがっくりと肩を落とした。
東寺の市の前後三日間だけの限定販売ってことで、てっきり笹屋伊織なる店は東寺の近くにある、と私は思い込んでいた。だが思い込みとは怖いもので、何と笹屋伊織の店は東海道線を挟んだ東寺の反対側、七条大宮のバス停のそばに位置していたのだ。
「そんなアホな…」
せっかくここまで張り切ってやってきたのに、こんなのいくら何でもあんまりじゃないか。あの京都駅での冷たい視線さえも振り切った、この私の期待をどうしてくれる。
---う〜ん、どうしよ…?
このまま人混みに負けて、三日間限定のドラ焼きを諦めるべきか、それとも---。
だが人出に負けてこのままおとなしく諦めるには、『三日間限定』と『元祖』の言葉は余りに魅惑的すぎた。自慢じゃないが、昔っから『限定』とか『特別』、『新発売』なんて煽り文句に、私はめちゃくちゃ弱かったのだ。それが『三日間限定』の、しかも『元祖』なんてとっても有り難い形容詞付きだったりしたら---。
---あかん、ダメやッ! 諦めきれない。
食べられないとなると、これはもうむっちゃくちゃ食べたい。食べたい、食べたいッ! 何がなんでも、とにかく食べたいッ…、なんて思うのが、人間てもんだ。ああ…、人間の欲望って怖い。
---せやけど、こっから後戻りして七条大宮まで歩くのは嫌や。
ジレンマに悩みつつ、さぁて、どうしようかな…、と道の端で呑気に考えていた時、恐る恐るというように声が掛けられてきた。最初それが自分のことだち判らなかったのは、耳朶に触れた柔らかなソプラノの声が、私のことを「有栖川先生」と呼んだような気がしたからだ。サイン会の会場とかならいざ知らず、道のど真ん中で「有栖川先生」なんて呼ばれた経験は、今までに一度としてなかった。
空耳か聞き間違いと勝手に判断して、そのまま無視しようとした私に、再度控え目な声で「有栖川先生」と声が掛かる。先生という言葉は聞き慣れないが、有栖川なんていう珍妙な---いや、やんごとない---苗字の持ち主が、いくら古都京都とはいえ私以外に早々いるとは思えない。
---もし違ってたら、めっちゃ恥ずかしいやんか。
小心者の私は最悪の場合のフォローの方法を頭に描きながら、ゆっくりと声のした方へと頭を巡らせた。
視界に飛び込んできたのは、少し驚いた表情の女子大生二人組み。
一人は、さらさらのショートボブ。もう一人は、緩くウエーブの掛かった背中までのロング。髪の色が二人とも染めたような栗色なのが、現代っ子らしいといえば現代っ子らしくて、まさに今時の女子大生ってな感じだった。おまけに美人。何だかちょっとだけ得したような気が---。
---いかん。そんなんは、どうでもいいんや。
ぷるぷると雑念を頭の片隅から追い払った途端、真っ直ぐに注がれる視線を強烈に意識してしまった。じっと見つめてくる好奇心に満ちた四つの瞳に、僅かに身体が引ける。火村ならいざ知らず、こんなとこでうら若き女子大生に声を掛けられる覚えは、残念なことに私にはない。おまけに彼女達が推理作家有栖川有栖の読者…、と自惚れるほど、私は神経が図太いわけでもなかった。
「あ、あのぉ…」
戸惑ったように口ごもった私に向かい、ショートボブの女の子がにっこりと微笑んだ。---あっ、いかん。ちょっと見とれてしまった。
「有栖川先生ですよね、推理作家の…」
返事の代わりに、私は反射的に頭を上下に振った。
「わぁっ、やっぱり。こんなとこで会えるやなんて、めっちゃラッキーやん」
勢い良く振り向き、隣りのロングヘアの女の子に語りかける。ついで目の前の私を忘れたように「きゃあ、きゃあ…」と、語尾にハートマーク付きで手を取り合ってはしゃぎだした。
その姿に、私は暫し唖然と我を忘れて見入る。どうやら目の前の女の子達は、有り難くも勿体なくも私の読者らしい。もちろんそれはそれで有り難いのだが、だがしかし---。
しかし、である。よりもによって衆人注目の道のど真ん中で、きゃいきゃいと騒がれても---。ああ…、周りの視線が身体に痛い。
「あ、あのぉ…」
再度恐る恐るというように掛けた声に、二人の女の子達は漸くはしゃぐ声を納め、私へと視線を移した。ショートヘアの女の子が、細い肩には不似合いな大振りのバッグをごそごそと探り、目の前に私の最新作---とはいっても、既に半年以上前の作品なのだが---であるノベルズと華奢な作りのペンを突き出してきた。
「こんな所で申し訳ないんですが、サインお願いします」
そう言った途端、ぺこりと頭を下げられた私の立場は、はっきりいって冷や汗タラタラものだ。もちろん読者は大切に…が私の信条だし、とってもとっても有り難いと思う。だが、場所ってものが---。
一体なにごとか、とチラチラこちらの様子を伺っている通行人は、まだ我慢できる。しかし足を止めて好奇心も露わに見入られた日には、私の蚤の心臓はバクバクいってるなんてかわいいもんじゃない。
作家だなんて威張ってふんぞり返ることが出来るほど、本が売れているわけじゃない。ましてや推理作家有栖川有栖の名を聴いてそれと判る人なんて、百人の内十人もいたら諸手を挙げて万歳してしまう。
そんな私にこの状況は、ちょっと分不相応すぎる。嬉しいような困ったような、何とも口にし難い複雑な気分なのだ。
---とにかく、とにかく…。
ここに火村がいなくて本当に良かった…、と心の底から安堵の息が漏れる。あの皮肉屋の助教授がもしこんな場面に出くわしていたら、あとで何を言われるか判ったもんじゃない。からかわれる、冷やかされる、弄ばれる。とにかく、その夜の酒の肴の一つになることは確実に間違いない。
とはいえ、火村がいなくホッとひと息…なんて、悠長なことをしている場合でもなかった。まるで見世物パンダのようなこの状態から一秒でも早く解放されたい私は、頬に強ばったような笑みを張り付けた。
「サイン、ここでええんかな?」
ショートボブの女の子から受け取ったノベルズの表紙を開き、私は白いページを指し示した。
「はいッ、宜しくお願いします」
いや、元気がいいのは、めっちゃ良いことなんだけどね。でもその元気の良さを発揮する場所は、ちょっとだけ考えてほしい。強ばった笑いが、さらに引きつっていく。
「えっと、名前は…」
周りの様子が気になって気になって仕方がない私は、機械的に言葉を綴る。悪いなぁ…とは思うが、この状況を鑑みて大目にみてもらいたい。
「結城彩です。結ぶに二条城の城。彩は彩りの彩って書きます」
綺麗な名前だな、と思いながらペンを走らせる。ついでロングヘアの女の子から文庫本を受け取った。こちらは、つい最近文庫に落ちたばかりの作品だった。
「一ノ瀬佳織です。数字の一にカタカナのノ、そして浅瀬の瀬です。佳織は…」
ちょっと考え込むように首を傾げる。ふわりとした長い髪が、風にサラリと音をたてたような気がした。
「佳境の佳に織り姫の織で、佳織です」
こっちも綺麗な名前だな、と思う。自分の奇妙奇天烈な名前を棚に上げて言うのも何だが、最近の子の名前は本当にお洒落な名前や文字遣いが多い。それはそれで良いことなのだが、年齢とったらどうすんのかな…、なんて仕様もない雑念も頭の片隅に湧く。もっともこの手の話題は逆にやぶ蛇になりそうなので、慌てて頭の中から追い出した。
「はい。これでええかな…」
本を閉じて渡したら、にっこりと微笑みが返ってきた。火村先生は「女子大生なんて煩わしいだけだ」と豪語しているが、私には、やっぱりかわいいなぁ…、と思えてしまう。もっともそんな風に思うこと自体、自分が年齢をくっておじさんの域に入った証拠なんだろうか。それはそれで、ちょっと虚しいものを感じるのだが---。
「それじゃ、悪い---」
取り敢えずの義務を果たし、さっさとこの場を離れようと口にした言葉は、元気のいいソプラノの声に掻き消された。ニコニコ満面に笑みの彼女達は、まだ暫く私を解放してくれる気はないらしい。
「先生の作品、大好きなんです。これからも頑張って下さい」
励ましの言葉に、引きつった笑いを返す。いつもは有り難く受け止める励ましの言葉も、どこか脳味噌の片隅をするりと滑り落ちる。誠にもって申し訳ないが、私の意識の全ては正面の笑顔ではなく、痛いほどに注がれる周りの視線に集中していた。
---それにしても…。
悟られないように、ホッと小さく溜め息を吐き出す。鈍感な私にも嫌というほど感じられる視線に、何故この娘達は平気なんだろう。それとも私が自意識過剰で、気にしすぎなんだろうか。
己自身を宥めるように再度息をつき、何気なく落とした視線の先。結城彩の持つ包み紙に、私の眼差しは釘付けになった。絞りのような和紙の上に優雅な筆致で書かれた文字は、紛れもなく今日の私の第一目標である和菓子屋の名前だった。
「それっ!」
思わず声を上げた私に、結城彩は首を傾げ、きょとんとした表情を作った。だが、そんなことに構っている余裕はなかった。今の私の意識の全てを締めているのは、痛いほどに注がれる周りからの眼差しでもなく、偶然出会った読者への有り難味でもなかった。
私の意識を絡め取ったのは、たった一つ。大阪からこの街までやってきた理由。そして、会いに行くための大事な口実。
「それ、笹屋伊織のドラ焼きやろ。七条大宮の店で買うてきたん?」
行儀悪く指差した私の指先を視線で辿り、結城彩は納得したように表情を崩した。
「やだぁ、違いますよ。これ、そこの弘法さんで買うてきたんです」
「えっ、弘法さん? 弘法さんでも売ってんの?」
初耳だ。私の見たガイドブックには、そんなことひとッ言も書いてなかったぞ。
「売ってますよぉ。弘法さんの時は、境内の近くに出店出してはるんです」
やった。これで、わざわざ七条大宮まで歩いていく必要もなくなる。やっぱり読者は大切にするもんだ。つい今し方までの居心地の悪さをすっかり頭の隅から追い払った私は、ここぞとばかりに満面の笑みをはいた。
「有栖川先生、もしかしてこれ買いにきはったんですか?」
呆れられるかな、と思いつつ、私は小さく頷いた。
「そうなんだ。やっぱ、これ有名なんやね」
同意を求めるように、結城彩は一ノ瀬佳織へと視線を流した。それに応えるように、佳織が言葉を継ぐ。
「そうやね。味の方もめっちゃ美味しいですよ。一度食べたら、また買いに来ようって気になりますもん」
「へぇ、そうなんや。何や、めっちゃ楽しみやなぁ…」
ドラ焼きの味を想像し口許を緩める私の耳に、クスクスと小さな笑い声が飛び込んできた。
---あっ、いかん、いかん。つい…。
罰の悪さにゴホンと一つ咳払いをし、年長者の威厳をもって---今さら遅いとは思うのだが---居住まいを正す。
「申し訳ないんやけど、出店が出てる場所を教えて貰える?」
「ええですよ」
丁寧に出店の場所を教えてくれた二人に礼を言い、私は笹屋伊織の出店へと走った。市が始まって随分時間が経っているから、まだ残っているだろうか、と少し不安になった。しかし耳にこだます「大丈夫ですよぉ」という二人の声に励まされて、歩を進める。
目的の場所が近づくにつれ、何となく少しずつ早足になってきている気がするのも、普段は苦手な人混みが今日はそれほど苦労せずに歩ける気がするのも、きっと気のせいに違いない。決して決して、「おいで、おいで」と手を振るドラ焼きに惹かれているせいじゃない。だが頭の中に巡らせる言い訳を否定するように、徐々に足取りは速くなっていく。
人混みを掻き分けて漸く辿り着いた笹屋伊織の出店の前には、十人ぐらいの行列ができていた。早速私も、その列に並ぶ。途中、売り切れるんじゃないか、と心配になり、何度か前の方を覗き込んだ。ここまで来て目の前で「売り切れました」なんて言われた日には、暫く立ち直れそうもない。
---あと八人‥七人…。
心の中で前に並ぶ人数を数え、妙にドキドキしながら待った。久々に味わう独特の緊張感。
しかし、結局私の心配は杞憂に終わった。数分後には、無事二棹のドラ焼きをゲットすることに成功した。もちろん一棹は私と火村の三時のおやつで、もう一棹は婆ちゃんへのお土産だ。
念願のドラ焼きを抱え込み、人の流れに逆らうように元来た道を京都駅へと取って返す。さてこれからどうしようか、と腕時計に視線を落とすと、折しも時間はお昼を少し回ったところだった。
単純といえば単純だが時間が判った途端、何となくお腹が空いたような気がして、私は昼食を食べに行くことにした。行き先は---。
青空を見上げながら考える。暫く考えて、そして---。
「そやッ! 久し振りに“うえだ”のおろしそばにしよ」
富小路三条にある“うえだ”は、昭和初期まで旅館だったという町屋をそのまま使った食事処だ。烏丸三条の駅から少し歩いた、ちょっと判りにくい場所にある。そんな場所にあるにも拘わらず、ここのおろしそばは学生時代から私のお気に入りの一つだった。
もちろんお昼の定食も、それ目当てに常連さんが集まってくるほどの絶品だ。だが揚げ玉、ネギ、すりゴマ、のり、そして大根おろしがたっぷり乗ったおけしそばは、昆布と鰹だしのあっさり素朴な味で、とにかくめちゃくちゃ美味かった。何かの折りに私が最初にこの店に案内した人には、必ずといって良い程これを賞味することを勧めているくらいの一品なのだ。
とはいえ、問題が一つ。
京都の店には余り珍しくもないことなのだが、この店もその例に漏れず品物の数に限りがあって、売り切れと同時に店がしまってしまう。お昼時に行けば早々はずすことはないのだが、ちょっとした用事で一時間ほど出遅れて、無情にも暖簾のしまわれた格子戸の前に佇んだことも、学生時代から数えて三回、四回、五回---。
---ちくしょう。思い出したら腹たってきたわ。
取り敢えず今日はぴったしお昼時なので、食いはぐれる心配はないだろう。食事をして、河原町辺りの本屋をひやかしていれば、きっとちょうどいいくらいのおやつの時間になるに違いない。
「決めた。そうしよ」
『早起きは三文の得』とは、全く良く言ったもんだ。ほんのちょっと早起きをしたおかげで、三日間限定の元祖ドラ焼きは手に入れられたし、久し振りにお気に入りのおろしそばも食べられる。当然、夕飯は火村の手作りだろうし…。
いやいや、有り難ぁーい三日間限定の元祖ドラ焼きに感謝して、寿司でもご馳走してくれるかもしれない。晴れ渡った青空のように清々しい気分てのは、まさにこのことだ。
これからの楽しい予感に、私は湧き上がる笑みを押さえることができない。そうして私の心の中のように澄んだ秋の青空に向かって一つ大きく伸びをしたあと、私はウキウキとした足取りで烏丸線の京都駅を目指した。to be continued
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