§3  酒池肉林


「さ、ファトラ様」
「うむ」
 アレーレはファトラに酌をした。
「うむ。うまい」
「ふふ。ファトラ様…。アレーレは幸せです」
「ふふ。そうか…」
 ファトラはアレーレの額に口付けた。

「なんでうちらがこないな所におるんどすか?」
「それはこっちが訊きてえよ」
「私だって知らないわ」
「ここってファトラ姫のハーレムでっしゃろ?」
「そのようだな」
「どっからどう見たって、そうでしょ?」
「せやったら、なんでうちらがここにおらなあかんのどすか?」
「さあな。あたいにもさっぱりだよ」
「この世界の主導権はファトラ姫にあるみたいだから…」
「あーもう! うちこんなんばっかりやわぁー!
 あ、そういえば、ミーズの姉はんはどないしたんどすか?」
「そういえば、姿が見えねえな」
「きっと年齢制限にひっかかったんでしょ」
「そういえば、ルーン王女様もいねえな」
「さすがに実の姉は除外したみたいね」
「こら。そなたたち、何をこそこそ話しておる?」
「あ、ファトラ姫。なんでうちらがこないな所におらなあかんのどすか!?」
「それはこの状態がこの世界の真理であるからじゃ。そういうわけで、酌をせい」
「うちがどすか?」
 きょとんとした様子で、アフラは自分を指差す。
「そうじゃ」
「なんでうちが?」
「さっき抱こうとしたのに、その前に話が終了してしまったからな。こんどこそ抱
くぞ」
「いやや! いややわなぁー!」
 アフラは泣き叫ぶ。
「えーい! 初なねんねじゃあるまし、かまととぶってるんじゃないわ! それな
ら、ワケメ酒じゃ。ワカメ酒をせい!」
「ワカメ酒? わかめの入った酒どすか?」
「そうじゃないわ! えーい、下半身裸になって、そこに正座せい!」
「だぁーれがそないなことするかいな!」
「さっさとせい!」
「いややわなぁー!」
「あっ! 待たんか!」
 アフラは嫌がって、飛んで逃げてしまった。

「うーむ…。もうちょっとでワカメ酒できたのにのう…」
「じゃあ、私がやってあげますよ」
「そうか?」

 それからしばらくの時がすぎた。
 ゴォォォォ………
「うん。なんじゃ?」
 何やら地の底から響いてくるような音がする。
「ふひゃははははははっ!! ついに私の出番だぁーーっ!! さあ、いくぞっ!」
 陣内が飛行艇に乗って、ハーレムの上空にまで来た。
「むうっ! 貴様なにしに来た!?」
「ふははっ! これでもくらえいっ!」
 陣内は飛行艇から一抱えほどある球体を投下した。
 球体は地面に落下すると、破裂音と共に白煙を挙げ始めた。それは辺りに広がっ
ていく。
「くっ、くくくく臭いですぅっ!」
 アレーレが鼻を摘まみながら、顔を歪める。
 白煙からは大変な悪臭が発せられていた。
「くさぁーーーーいっ!」
 あまりの激臭に、ファトラも鼻を摘まむ。
「ぎゃあああああっっ!! くせえ!」
「くっさーーーっ!」
 シェーラと菜々美も鼻を摘まんだ。
「ふはははははっ! 悪臭爆弾だぁっ!! さあ、地獄の悪臭にもがき苦しめい!」
「なにをーっ! 許せん!」
 ファトラはそこらに転がっていた酒の盃を掴むと、陣内に投げつける。
「ぎゃふん!」
 盃は陣内の顔面にクリーンヒットした。
 陣内はバランスを崩し、飛行艇から落ちてしまった。
「あいたたたた……」
「こいつめ、成敗してくれるわ!」
 ファトラは陣内を抱えあげた。そのまま歩きだす。
「お、おい! ちょっと待て! ちょっと待たんか!」
「うるさぁい!」
「ぎゃあっ!」
 ファトラは陣内を悪臭爆弾の爆心地に放り込んだ。
 陣内は体をしばらく痙攣させていたが、あまりの悪臭に、やがて動かなくなる。
「はん! いい気味じゃ!」
 ファトラはふんと鼻を鳴らすと、爆心地から戻ってきた。
「さ、どこか臭わん場所で酌のやり直しじゃ」
「ファ、ファトラ様…」
 アレーレは眉をひきつかせている。
「うん。どうした?」
「てめえ、臭ってるぞ!」
「なにい!?」
「ファトラ様、爆心地に近づいたせいで、体に臭いが移ってしまったんですよ」
「くああああぁぁ……」
「くせえから、近寄るんじゃねえ!」
 シェーラが露骨に嫌な顔をする。
「ファトラ様、お風呂に入りましょう」
「ぬううぅぅ……」
 さっさと風呂に入りに行くファトラであった。


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