§10 花婿泥棒
「ふふ…。うふふふふ……。うふふふふふふふふ……」 ミーズは上機嫌で浮かれていた。それはもう天にも登るような心地で。 「ふふふふふ。なんってったって、今日は藤沢様との結婚式の日なんですもの」 そう。今日はミーズと藤沢の結婚式の日だった。 ミーズはさっきからにこにこしながら、控え室で藤沢を待っている。 しばらくした頃。 ドドーーンン……… 遠くの方から爆発音が聞こえてきた。 「な、なに!?」 びっくりして立ち上がるミーズ。床がびりびりと震えている。 しばらくすると震えはやんだ。その代わり慌ただしい足音が聞こえる。 「た、大変です!」 結婚式のスタッフの一人が血相を変えてミーズの控え室に飛び込んできた。 「何ですの!?」 「はい、藤沢様が! 藤沢様が何者かによって誘拐されてしまいました!」 「な、なんですってええええぇぇーーーーーっっ!!??」 びっくり仰天するミーズ。 ミーズは藤沢がいるはずの部屋へとダッシュで向かった。 「藤沢様! 藤沢様ぁ!」 大声で藤沢を呼ぶ。が、返事はない。藤沢がいるはずの部屋は大きく破壊されて いた。 「一体誰が!? 一体何者が藤沢様を誘拐したの!?」 「は。どうやらバグロムの集団のようでした」 「バグロムが………そんな……」 がっくりとうなだれるミーズ。が、彼女はすぐに体を起こし、胸を張った。 「いいえ! たとえ誘拐されようと、このミーズが藤沢様を取り返してごらんに入 れますわ! 藤沢様、待っていて下さいね!」 ミーズはガッツポーズを決めた。 ミーズはバグロムのアジトへの手がかりを探し求め、ついに手がかりを掴んだ。 「藤沢様はバグロムの城に捕らえられている…。そして、バグロムの城へ行くため の合言葉は、陣内7人衆の体のどこかに隠されている……」 こうしてミーズは陣内7人衆との対決を決意した。 「てめえか! あたいと勝負したいって奴は!?」 「そうよ! 私と勝負なさい!」 「おおし。それじゃあ勝負の仕方はあたいが決めさせてもらうぜ!」 「いいわよ!」 「よし! それじゃあ、酒飲みだ!」 「さ、酒飲み勝負…?」 「そうだ。なんだ、怖いのか?」 「こ、怖くなんかはないわよ! じゃあ、やりましょ」 こうしてミーズとシェーラは酒飲み勝負を始めた。早い話が、飲み比べである。 「んぐんぐ。----ぷはあっ! いけるぜえ」 シェーラは次々と盃を重ねてゆく。 「私だって負けませんからね」 対して、ミーズもどんどん飲んでいく。 そしてしばらくの時が過ぎた。 「うう…。もうそろそろ限界……」 「なんだ。もう終わりか?」 ミーズはすでに限界が見え始めてきていた。対して、シェーラはまだまだ余裕で ある。 (くう…。このままでは負けてしまうわ。何とかして勝たないと! こうなれば、なりふり構ってられないわ!) ミーズは懐から睡眠薬を取り出すと、そっとシェーラの酒に入れる。シェーラは そんなことはつゆ知らず、その酒も飲んでしまった。 「ふう。いい味だぜ」 「そう?」 「おうよ……。…ん……。…おう……よ………」 シェーラはばったりと寝てしまった。 「…ふふ……勝ったわ」 こうしてミーズは勝利した。 「さぁーて、合言葉を探させてもらうわよ」 ミーズは眠っているシェーラを裸に剥くと、体にマジックで書かれてある合言葉 を見つけた。眠りから覚めたシェーラがどういう反応を示したかは推して知るべし である。 「藤沢様、ミーズは今参りますわ!」 「あんさんがうちと勝負したいって輩どすな?」 「そうよ! 私と勝負なさい!」 「ええでっしゃろ。それじゃあ、方術で勝負どす」 「OKよ!」 アフラとミーズは方術で勝負する。さすがに年の功で、ミーズはアフラに勝つこ とができた。 「うう…うちが…。うちが負けてまうなんて……」 「さぁーて、それじゃあ合言葉を探させてもらうわよ」 ミーズはアフラの服に手を掛ける。 「な、なにするんどすか!?」 「合言葉を探すのよ! いさぎよく裸になりなさい!」 「ちょちょちょちょっと!! やめておくんなまし!」 「だまりなさぁーーい!!」 「きゃあああぁぁぁっ!!」 ミーズはアフラの服を破き、無理矢理裸にしてしまった。 こうしてミーズはアフラの体に書いてある合言葉を見つけた。 「あんまりどすぅーーーっ!!」 アフラは服の切れ端で肌を隠し、泣くばかりであった……。 「藤沢様。ミーズは藤沢様のためなら、どんなことでも厭いませんわ!」 「あなたが私と戦いたいとか言う人ね!?」 「そうよ! 勝負なさい!」 「じゃあ、バナナの叩き売りで勝負よ!」 「望む所よ!」 こうしてバナナの叩き売り勝負が始まった。 「さぁー、いらはいいらはい! 安いよ安いよー!!」 菜々美は正攻法でバナナをどんどん売っていく。 対するミーズは---- 「こんなもん、売れるわけないじゃない! あー、もう!」 ミーズは自分の金を売り上げと偽ることにした。 「なにぃぃぃ!? なんでこんなに儲かってんのぉー!?」 ミーズの売り上げに、菜々美は仰天する。 「ふふふ。私の勝ちね。いさぎよく裸になりなさい!」 「きゃあああぁぁーーーー!!」 こうしてミーズは3つ目の合言葉を見つけた。 「ひどぉーーい! ひどすぎるわあっ! まだ誠ちゃんにも見せてないのにぃっ!」 「藤沢様。ミーズは藤沢様のためなら、たとえどんなことでも致しますわ!」 「あなたが私と戦いたいという人ですね?」 「そうよ。私と勝負なさい!」 「うーん。私、あなたみたいな年食ってる人は守備範囲外なんですけどねえ…」 「いいから、さっさと勝負なさい!」 「はいはい。じゃあ、くすぐり勝負です」 「さぁー、さっさとやるわよぉ!」 ミーズとアレーレはお互いをくすぐり始める。 「…く…うぅん……。…ぁっ…!」 ミーズは眉根を寄せて、切ない声をあげる。 「ふふ…。年食ってても、感じる所は若い人と同じなんですね」 アレーレが悪戯っぽい笑みを浮かべる。勝負はくすぐり勝負というより、別のも のになっていた。 「く…。くぅぅぅぅ……」 歯噛みするミーズ。 「こんな…こんな所で負けてなるものですかぁーー!!」 「きゃあああぁぁっ!!」 ミーズはがぜん馬力を取り戻すと、アレーレを全力でくすぐり始めた。 「あっ! あっ! ぁあーーーっっ!!」 アレーレはひときわ甲高い悲鳴をあげると、ぐったりとしてしまった。 「ほほほ。私の勝ちね。じゃあ、脱がさせてもらうわよ」 「ええ。どぅぞぉー…」 こうしてミーズは4つ目の合言葉を手に入れた。 「藤沢様。ミーズは藤沢様のためなら、なんでもできますわ!」 「そなたがわらわと戦いたいという奴じゃな!?」 「そうよ! 勝負なさい!」 「ようし。それでは美少女ナンパ勝負じゃ」 「望む所よ!」 こうしてミーズとファトラは街へ繰り出した。 ファトラは正攻法で美少女をおとしていく。 対するミーズは---- 「きゃあああぁぁーーーっ! 助けてぇーーーー!!」 「黙りなさぁい!」 ミーズは誘拐同然にして、美少女を落としていく。 結果---- 「ええい! そなたのやったことはナンパではない! ただの誘拐じゃ!」 「黙りなさい! おとした数は私の方が多かったわよ!!」 「おとしたんじゃなくて、誘拐じゃあ!」 力の限り絶叫するファトラ。 「黙りなさぁーーい!」 ミーズはファトラに踊りかかった。 「ひやあああぁっ! 何をするかぁっ!?」 「私の勝ちよ! 脱ぎなさぁーーい!!」 「いやああぁぁっ!!」 ビリビリィッ!! ミーズはファトラの服を破いて裸にすると、彼女の身体を隅々まで調べる。 こうしてミーズは5つ目の合言葉も手に入れた。 「えぐっ、えぐっ……。うわぁーーーん、年増に犯されたぁ!」 服の切れ端で肌を隠しつつ、ファトラは泣きながら逃げていった。 「藤沢様、今参りますわ。ミーズは藤沢様のためだったら、死ねます!」 「あなたが僕と戦いたいという人ですね?」 「そうよ! 私と勝負なさい!」 「じゃあ、本物当て競争です」 「本物当て?」 「はい。僕はある人に変装しますんで、本物と偽者を見分けて下さい」 「いいわよ!」 「はい。じゃあやります」 誠は女装すると、ファトラを連れてきた。 「そなたが負けたら、わらわがそなたを裸にしてやる!」 「ではいきます。 あ、それ! シェイクシェイク!」 女装誠とファトラは腕を組むと、ぐるぐると回る。 ある所で、ぴたりと止まった。 「「どちらが本物?」」 女装誠とファトラは同時に言う。 「む…。むむむ……。むううぅぅ…。今までで一番手強いわ!」 額に冷や汗をかくミーズ。 「そ…そうだわ! あ、イフリータ!」 ミーズはあさっての方を指差して叫んだ。 「え!?」 女装誠はミーズの指差した方をとっさに向いてしまう。そして、向いてしまって から体を硬直させ、冷や汗をだくだくとかき始めた。 「そっちが本物よ!」 ミーズはファトラの方をびしっと指差す。 「…誠のバカ」 ファトラは頭を抱えた。 「さぁーて。それじゃあ、脱がさせてもらうわよ」 ミーズは女装誠の腕をがっしと捕まえる。ファトラはさっさと逃げてしまった。 「ああああの……」 「さあ、脱ぎなさぁーいっ! 男の子を脱がさせるなんて、どきどきしちゃうわ(ハァト)」 「ちょちょちょちょっとぉーー! 僕にはイフリータという大切な人が!」 こうしてミーズは6つ目の合言葉を手に入れた。 「あんまりやでえ。無理矢理裸にするなんて…」 「藤沢様。ミーズは藤沢様のためなら、いかなることでもやってみせます!」 「わしと勝負したいというのはお前か!?」 「そうよ! 私と勝負なさい!」 「ようし! それでは野球拳じゃ!」 「野球拳〜〜??」 「臆したか!?」 「いいえ! やりますわよ!!」 「よし! いくぞ!」 こうしてミーズとストレルバウの野球拳が始まった。 「「よよいのよい!」」 ストレルバウの勝ち。 「「よよいのよい!」」 ミーズの勝ち。 「「よよいのよい!」」 ストレルバウの勝ち。 こうして勝負は続けられた。 「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。そろそろ降参したらどうかな?」 ミーズは負け込んで、下半身は下衣一枚、上半身は裸という状態になっていた。 ちなみにストレルバウは股引姿である。 「だぁーれが降参しますか!」 ミーズは両腕で胸を隠しながら言う。 「しかし、今度負ければ、君は全裸になってしまうよ。わしは全然構わんが…」 「構わないわ!」 「では、全裸でも拝ませてもらうことにするかな」 こうして戦いは続けられる。 「「よよいのよい!」」 「「よよいのよい!」」 しばらくの間。 「ぬがああぁぁぁっ!! ま、負けてしまったああぁぁっ!!」 ストレルバウは股間にモザイクを抱えつつ、絶叫した。 「ほほほほほほ。私の勝ちね。それに裸にする手間も省けて大助かりだわ。爺なん か裸にしてもつまらないものね」 こうしてミーズは最後の合言葉を手に入れた。 「藤沢様。ミーズは藤沢様のためなら、恥も惜しみませんわ!」 ミーズはついにバグロムの城へとたどり着いた。 「ここね。藤沢様、待っていて下さい。ミーズは今参りますわ」 ミーズは大きく息を吸い込むと、合言葉を大声で叫んだ。 「陣内様万歳! 陣内様無敵! 陣内様エルハザード一! 陣内様世界一! 陣内 様宇宙一! 陣内様異次元一! 陣内様超次元一!」 合言葉を言うと、城の門は大きく開いた。 ミーズはその中へと入っていく。 大した障害もなく、ミーズは城の謁見の間の扉の前まで来た。 「どうやらここが謁見の間のようね。じゃ、いくわよ!」 ミーズは巨大な扉を力任せに押し開く。 にぶい音と共に、扉は開いた。 ミーズは部屋の中へと入っていく。 「ふ、藤沢様!!」 果たして、藤沢はいた。陣内と一緒に。藤沢は目が虚ろである。 「あなたが藤沢様を誘拐したのね! 許せませんわ! さ、藤沢様。私と一緒に帰りましょう」 「…………」 ミーズは藤沢の元へ駆け寄ると、その手を取る。が、藤沢はその手をはねのけた。 「ふ、藤沢様??」 ミーズは信じられないといった顔をする。 「ふっふっふ。藤沢はすでに私の忠実なしもべとなっている。残念だったな! う ひゃはははははははっっ!!」 「な、なんですってえ!!??」 「さあ、藤沢よ! その女を倒すのだ!」 「ちょ、ちょっと!」 「…………」 問答無用で藤沢はミーズに襲いかかってきた。ミーズはとっさにこれを避ける。 「ふ、藤沢様! 目を覚まして下さいまし!」 「ふはは! 無駄無駄ぁ! 私の洗脳は完璧だぁ!」 「くううぅぅ……。ふ、藤沢さまあぁ!!」 「…………」 藤沢は次々とミーズを攻撃してくる。攻撃するわけにもいかず、ミーズはこれら の攻撃を総てかわしていた。しかし、体力的にはこちらの方が明らかに不利だ。 (だ、だめ…。このままではやられてしまうわ。でも、どうすれば…。どうすれば 藤沢様を元に…) が、何も思い浮かばない。そうこうしている内に、体力にも限界が迫ってきてい た。 (も、もうだめ! 負けてしまう! ああ……藤沢様、あなたの手にかかって死ねるのなら、ミーズは本望です…) ミーズは攻撃をさけるのをやめ、立ち止まった。そして、目を閉じる。 (せめて、藤沢様の腕の中で死にたい…) 藤沢が迫ってきているのか気配で感じられる。ミーズは体の力を抜いた。 「…………」 「え?」 本来なら、藤沢に打ち倒されているころなのに、何も起きない。 何がなんだか分からず、ミーズはゆっくりと目を開いた。 「…ミ、ミーズさん……」 「ふ、藤沢様!!」 藤沢はミーズの眼前で、頭を抱えながら苦しんでいた。 「……ミーズさん………」 「藤沢様! 記憶が戻ったのですね!」 ミーズはとっさに藤沢に抱きつく。 「はっ! ミーズさん! 俺は一体……」 「藤沢様は陣内によって誘拐され、洗脳されていたのですわ! ああ…。よかった…。本当によかった……」 「ゆ、誘拐?」 「なぬううぅぅ!? な、なぜ!? なぜ洗脳が解けたのだあーーーっ!?」 「私たちの愛にはそんなもの無力よ! さ、藤沢様。一緒に帰りましょう!」 ミーズは藤沢の手をとる。 「むううぅぅ! 待て! 待たんかああ!!」 「陣内! あんたは私が成敗するわ!」 「な、なぬう!?」 歯噛みする陣内。ミーズは藤沢に飛び掛かった。 「んぎゃああああぁぁぁっっ!!」 こうしてミーズは藤沢を取り戻した。 「ふふふ…。今度こそ結婚式よ。ああ…、藤沢様。ついに私たち、結ばれますのね (ハァト) 何人(ナンピト)たりとも私たちを引き裂くことはできませんわ!」 控え室でミーズは上機嫌で藤沢を待っていた。今度こそは結婚式をあげるつもり である。 しばらくした頃。 「た、大変です!」 結婚式のスタッフの一人が血相を変えて、ミーズの控え室に飛び込んできた。 「な、何ですの!?」 「はい、藤沢様が! 藤沢様がいなくなってしまいました!!」 「なななななななんですってえええええぇぇっっ!!??」 びっくり仰天するミーズ。 「それで、藤沢様はこのような手紙を」 スタッフがミーズに手紙を差出す。ミーズはそれを奪い取ると、手早く読み始め た。 「『ミーズ様。わたくしこと藤沢は前回の結婚式においては誘拐されるなどという 体たらくをお見せしてしまいました。私にはミーズさんと結婚するような資格はご ざいません。ミーズさんのお相手に相応しい男となるため、旅に出て男を磨き直し てきたいと思います。どうかお許しください』ですってええぇっ!? ふ、藤沢様あぁぁーーーっっ!! ……うぅーん………」 ミーズは口から泡を吹きながら卒倒した。