§11  県立東雲学園


 ドドドドドドドドド………
 唸るような低い音が響く。
 車から出てきたのは背広を颯爽と着こなす若い男だった。
「ふふ…。今日もいい天気だ…。さて、今日も生徒どもをしごいてやるかな。今日
は気分がいいから、抜き打ちテストでもしてやろう! なにしろ私は支配者だから
な! うひゃはははははははははぁっ!!」
 ここは県立東雲学園。多くの生徒を有する巨大学園である。
 数学教師、陣内は駐車場から校舎へと向かった。
「あ、どうも。陣内先生。おはようございます」
 物理教師、誠は陣内に向かって挨拶する。
「やあ。水原先生。おはよう」
「今日もいい天気ですね」
「ええ。そりゃあもう、悲しくなってくるくらいいい天気ですな」
 陣内はそつなく挨拶する。が、陣内にとって、誠は目の上のたんこぶであった。
彼がいるせいで、陣内は生徒を完全支配することができないでいるのだ。
(ふふ…。誠。いつかは貴様を倒してやる…)

             ◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 ドオオオォォォォォォ………
「ファトラ様ぁ、もうとっくに遅刻ですよぉ! もっと急いでくださぁい!」」
「なに。構わんさ」
 ファトラはバイクに乗って、一路東雲学園を目指していた。アレーレはバイクの
サイドカーに乗っている。太陽はすでにだいぶ高くなっていた。
 今日は昨日夜遅くまであちこちふらついていたせいで、寝坊したのだった。しか
し寝坊したからといって、別に急いだりはしない。ファトラにとっては授業など儀
礼的なものにしか過ぎなかった。彼女はアウトローしているにも関らず、成績は良
かったのだ。
 バイクは流れるように走り、景色を後方へと追いやっていく。

「さて、ついたぞ」
 小気味よい音をたて、バイクが止まる。東雲学園の駐輪場だ。
「ああ…。もう3時間目が始まっちゃってます」
 バイクのサイドカーから飛び降り、腕時計を見ながら絶望的な顔をするアレーレ。
「別に構わんじゃろうが。こうなれば、午前中の授業は全てすっぽかしてくれるわ」
「ええー!?」
「さ、保健室にでも行って、寝直しじゃ。勉強などわらわが教えてやる」
「はあ…」
 校舎へ向かおうとするファトラ。アレーレは小走りでそれについていく。
 と、何者かが二人に近づいてきた。
「遅刻した上に、保健室で寝直しとはいいご身分ですな。ファトラ・ヴェーナス君」
 陰険な目つきでファトラをにらむ陣内。
「陣内か。はは。どうじゃ。羨ましいか?」
 ファトラは全然悪びれることなく、皮肉な笑いを口の端に浮かべる。
「ふん。さっさと行け! デキの悪い生徒だ」
「おやおや。お可哀想に…」
 ファトラは陣内をそのままに、保健室へと向かった。
 後には陣内だけが取り残される。
「うおおのれえええ……。私をコケにしおって! 私はこの東雲学園の支配者なの
だぞ! 支配者に逆らっていいと思っているのか! くそおおぉ…」
 歯噛みする陣内。
「ようし。こうなれば、私の恐ろしさを思い知らせてくれるわ!」
 陣内は校舎に走って戻っていった。

 学校内で唯一勉強とは関係のない場所。----まあ、トイレなどを除いて----
 ファトラとアレーレはその場所でゆうゆうとくつろいでいた。
「いいのですか? 授業をさぼったりなんかして。保健室は寝る所ではないのです
よ」
「構いませぬ。それより、姉上も一緒に眠りませんか?」
「いえ。私は結構です」
 保健の先生、ルーンは眉を困ったようにつり下げている。
 しばらくの後、ファトラとアレーレは白いベッドの上で軽い寝息をたて始めた。

             ◇  ◆  ◇  ◆  ◇

「よおおし。これで完璧だ! ふふふ…。ファトラ・ヴェーナスめ、みてろよ!」
 陣内は学校から持ち出してきた工具で、ファトラのバイクのブレーキワイヤーを
切断していた。作業はなかなかうまくいかず、苦心の作である。なにしろファトラ
のバイクは改造仕様なので、構造が複雑なのだ。エンジンなどは明らかに出力が上
げてあった。
「さあ! 交通事故など起こして、脳挫傷にでもなるがいいわ!! うひゃははは
ははははぁっっ!!」

             ◇  ◆  ◇  ◆  ◇

「センセ。誠センセ(ハァト)」
「なんだい、菜々美ちゃん?」
「ふふ…。私、誠センセにおべんと作ったの。食べてね」
 女生徒、菜々美は誠に手作り弁当を渡す。
「え、いやあ…。悪いなあ、菜々美ちゃん」
 はにかむ誠。
「へへ。いいですよ」
 そう言うと、菜々美はぱたぱたと去っていった。
 誠も去っていく。
 が、そんな二人の様子を見守っている影が一つあった。
(うおおのれえぇぇ…、水原誠! 生徒から手作り弁当など貰いおってからに! 
ゆゆゆ許せえぇーーん!! こうなれば、貴様をこの学校におれんようにしてくれ
るわ! 見ておれよ、水原誠!!)
 陣内は誠を陥れるための新たな計画を実行に移した。

 菜々美は上機嫌で廊下を歩いていた。
「おう、菜々美じゃねえか。なんだかやけに嬉しそうだな」
「へへ。誠センセにおべんとあげちゃった。(ハァト)」
「なにい、弁当!?」
「そうよ。しかも販売用のじゃなくて、特別製よ!」
「へええ…。そ、そうか…。それじゃああたいも…」
「あら、シェーラって料理できるの?」
「そ、その気になりゃあ、何とかなるだろ」
「ふーん…」
 にまにまとシェーラを見つめる菜々美。
「な、なんだよ?」
「いえ。なにも…」

 放課後。
「さてと。帰るとするかな」
「結局、ご飯食べて、午後の授業受けただけでしたね」
 ファトラとアレーレは駐輪場にやってきていた。
 ファトラはバイクにまたがると、エンジンをかける。
「うん?」
「どうしました、ファトラ様?」
「ブレーキの調子がおかしい。ぜんぜん働いておらん」
「それは困りましたね」
「ちょっと調べてみるか」
 ファトラはエンジンを切ると、ブレーキを点検する。
 ほどなくして、ブレーキワイヤーが何者かによって切断されていることが分かっ
た。
「一体誰がこんなことしたんでしょうね?」
「陣内に決まっておる。あやつ、わらわを事故に遭わせようとしたのじゃな」
「じゃあ、どうします?」
「決まっておわ。このお返しはきっちりさせてもらうぞ。
 来るのじゃ、アレーレ」
「あ、はい!」
 ファトラは駐車場の方へ歩いていく。

「これが陣内の車か。左ハンドル仕様の外車なのじゃな」
「はい。そうですね」
「では、細工させてもらおう」
 かくして、ファトラは陣内の車のブレーキワイヤーに傷を入れておいた。
「ふふ。こうしておけば、走行中にワイヤーは切れてしまうぞ」
「やりましたね、ファトラ様!」
「この程度のこと、たやすいわ。いくぞ、アレーレ」
「はい!」

             ◇  ◆  ◇  ◆  ◇

「ふっ、ふっ。これでよし。完璧な変装だ。我ながらほれぼれとしてしまうわ」
 陣内は誠を策略に陥れるための変装をしていた。ちなみに変装の内容は、この学
校の制服である。ルーズソックスがなんともまぶしい。しかも歩くと、太股がスカ
ートに見え隠れした。早い話が、女装しているのである。カツラまで被って、完璧
なものだ。
「さてと。胸ポケットに隠しカメラをセットして……と。
 よし。さっさく誠の所へ行こう」
 陣内(女装)は物理実験室へ向かった。

「すみません。誠先生」
 陣内(女装)は女声で誠を呼び、物理実験室の扉を開いた。誠がいることは事前
に確認済みである。
「やあ。なんやね?」
 誠はなにやら実験をしていた。彼はこちらの正体が女装した陣内であることには
気づいていない。
「あのー。ちょっと教えて欲しいことがあるんです」
 陣内は用意してきた物理の教科書を開き、誠に見せる。
「ああ。なんでも教えてあげるで」
「はい。実はここなんですが…」
 陣内(女装)と誠は実験用の広い机の前に座り、会話を始めた。
「うん。ここは………。----うん。それで----」
 陣内(女装)は少しずつ誠に擦り寄っていく。やがてお互いの体が接触するまで
になった。
(ふふふ…。さあ、私の魅力に理性を崩壊させるがよい! その時が貴様の最後だ!
 貴様が野性の限りを尽くす様をこのカメラに納め、バラ撒かせてもらうぞ!)
「これはやな、重力定数が………」
 が、陣内(女装)の期待に反し、誠は平然と説明を続けている。お互いの体はも
う密着するほどになっていた。
(むうううう……。この変装を見ても欲情しないとは、さてはこやつ変態か!? 
それとも私が変装しているということがばれているのかぁ!?
 くそう、こうなれば…)
 陣内(女装)は誠の肩を持つと、彼の体を自分の方へ向かせた。
「ん、なんやね?」
「誠先生! 私、誠先生のことが好き!」
「い、いきなり何言うんや!?」
 さすがに動揺する誠。
「(よし! 今だ!)
 誠先生!」
「うわあっ!」
 陣内(女装)は誠を机の上に押し倒す。
「な、なにするんや!?」
「誠先生! 私をメチャクチャにしてぇ!」
「なんやてえ!?」
「私を先生の色で染めて欲しいの!」
「ちょちょちょっと!」
(さあ、これで貴様が私に手を出せば、貴様は終わりだ! さっさと理性を崩壊さ
せるがよい!)
 誠の上にのしかかる陣内(女装)。
「あ、あかん! あかんでえ!」
「そんなこと言わずに、私を好きにして!」
「やめてやぁ!」
(くそおお。さっさと襲ってこんか!)
 二人は机の上でもみ合っていた。
 と----何の前触れもなく教室の扉が開く。
「誠センセイ、いるか? ----げえっ!?」
 現れたのはシェーラだった。彼女は教室内で繰り広げられている光景に息を飲む。
彼女は胸に抱かえていた包みを床に取り落とした。
「あーら、邪魔が現れちゃったわねん」
 陣内(女装)は誠に押し倒したまま女声で喋る。
「シェ、シェーラさん! これは違うんや!」
「違うぅ〜〜…? 一体何が違うってぇ〜〜……?」
 地獄の底から響いてくるような声で喋るシェーラ。
(ち! 邪魔が入ってしまったか。ここはさっさと退散した方がよさそうだな)
 陣内(女装)は誠から離れにかかる。
「じゃ、誠先生。そういうことで…」
「てめえ! 誠に何しやがった!?」
 シェーラは陣内(女装)の胸倉を掴んだ。
「いやあね。何もしてないわよ。(ハァト)」
「なんだとーーっ!」
(げええっ! ま、まずい!)
 結局、シェーラはブチ切れた。

「うっ…。うぅ……。ぅうううう………」
 虚しげな声をあげるシェーラ。陣内は命からがら逃げていった。誠はとばっちり
をくらって倒れている。そして彼女が持っていた包みは潰れていた。
 シェーラは床にのろのろと膝をつく。
「あたい…あたいは……」
「シェ、シェーラさん…」
 何とか立ち上がった誠はシェーラの肩に手をかける。
「誠…。あたい…せっかくおめえに弁当作ってきたのに……」
「いいんやよ。その気持ちだけで」
「誠ぉ…」
 シェーラは誠にすがった。

             ◇  ◆  ◇  ◆  ◇

「うおおのれえ〜〜、水原誠! 私の策略をまたしても破るとは、なんとも運のい
い奴! こうなれば最後の手段だ! 交通事故に見せかけて、水原誠を殺してくれ
るわ!」
 女装を解いた陣内は最後の手段を実行に移した。

「先生。水原先生」
「ああ、なんですか。陣内先生?」
「よろしければ、一緒に夕食でも食べに行きませんか? いい店を知ってるんです
よ。もちろん、私のおごりです」
「えっ? いいんですか?」
「ええ。もちろんですとも。行ってくれますよね?」
「じゃあ、そういうことならご好意に甘えさせて頂きます」
「光栄です。では参りましょう」
 陣内は誠と一緒に駐車場の自分の車の所まで来た。
「私が運転します。誠先生は助手席にどうぞ」
「はい」
 こうして、二人は車に乗って出発した。

「やれやれ。やっと修理できたな」
「大変でしたね」
 ファトラとアレーレはようやくバイクの修理が終わった所だ。
「では行くぞ」
「はい」
 ファトラはバイクにまたがると、エンジンをかける。アレーレはサイドカーに飛
び乗った。
「そろそろ陣内も帰るころだな。陣内の車の様子でも見てくるか」
「そうですね」
 駐車場を見にくると、陣内の車はなくなっていた。
「どうやらあれに乗っていったみたいだな。そうすると、じきブレーキワイヤーが
切れるころだな」
「そうですね」
 と----
「ファトラにアレーレじゃねえか。おめえら何やってんだ?」
「おう、シェーラか。明日から陣内はこの学校に来なくなるぞ。めでたいことじゃ」
「あん? そりゃどういうことだ?」
 怪訝な顔をするシェーラ。
「実は陣内の車に細工をしておいてな。その内事故る」
「な、なんだってえ!? 陣内の車には誠も乗ってるんだぞ!」
 ファトラの言葉にシェーラは仰天した。
「なにい!? それはまことか?」
「間違いねえ! 早く誠を助けねえと!」

             ◇  ◆  ◇  ◆  ◇

(ふふ…。見ておれよ水原誠! 貴様は事故死するのだ! 私の華麗なドライビン
グテクニックによってな! スリップに見せかけて、貴様は死ぬのだぁ! うひゃ
はははははははっっ!!)
 陣内は上機嫌で車を運転していた。誠を事故に巻き込めば、当然自分や車にも被
害が及ぶわけだが、誠の前には車はすでにどうでもよくなっていたし、自分は助か
る自信があった。
「陣内先生。ちょっとスピード出しすぎじゃありませんか? 70キロ出てますよ」
「いえいえ。これくらいがちょうどいいのですよ」
 陣内の車は猛烈なスピードで交差点へ向かっていく。
(よおおし。次の左カーブでスリップだ! 右側面を大型トラックにぶつけてやる
! 水原誠、貴様は死ぬのだ!)
 陣内は交差点に突入すると、左へ急ハンドルを切る。それと同時に急ブレーキを
かけた。
 と----
「あん?」
 ブレーキを強く踏み込んだら、突然踏む感触が軽くなった。ペダルがべったりと
床までついてしまう。
 結局、車はスリップせず、タイヤを鳴らしながら左へ曲がった。
 相変わらず、ブレーキの感触は極端に軽い。すかすかだ。
「ま、まさか……。ブレーキが故障……」
 陣内は冷や汗をだらだら流し、表情を硬直させる。
「どうしたんですか、陣内先生?」
「ぬわああぁっ!! ブレーキがぜんぜん効かなくなっているうぅぅっ!!」
「ええええぇぇっっ!?」
 二人の絶叫が重なり、車は暴走を始めた。
「ぬううぅぅ〜〜っ! さては、水原誠! ブレーキの故障は貴様が仕組んだのだ
な! 貴様、私を交通事故に見せかけて殺す気なのだろう! なんという卑怯な男
なのだ! 恥を知れ!」
 陣内は運転するのも忘れて、誠に掴み掛ろうとする。
「んなもん、僕は何にも知らんでえ! きちんと前見て運転せえ!」
「なにをーー! くそう! こうなればとにかく脱出しなければ! このままでは
いずれ事故を起こしてしまう!」
「でも、このスピードじゃ飛び降りるなんて無理やで!」
「ぬううぅぅ……。一体どうすれば……。誠! 貴様のせいだぞ!」
「なんでやねん!?」
 頭を抱えて絶叫する誠。
 と----
 ドオオオォォォォォォ………
 背後からバイクのエンジン音が聞こえてきた。
「ん? 聞き覚えのある音だな…」
「あ! ファトラ姫のバイクや!」
「なにい!?」
 背後を見ると、ファトラがバイクに乗って、車に迫ってきていた。
 ファトラのバイクは車に追い付くと、その右側方に幅寄せする。
「ファトラ姫! どないしたんや?」
 誠は窓を開け、ファトラに向かって叫ぶ。
「誠! ドアを開けて、わらわのバイクのサイドカーに飛び移れ! その車はブレ
ーキワイヤーが切れておる!」
「え! でも…」
「ぬうう! まさかブレーキを壊したのは貴様か!? 私も助けんか!」
 絶叫する陣内。が、無視される。
「いいから早くしろ! このままでは事故に巻込まれるぞ!」
 必死な表情で叫ぶファトラ。
「……わ、分かりました!」
「よし! ではドアを開けろ!」
「はい!」
 誠はシートベルトを外し、ドアロックを解除すると、強引にドアを開ける。風圧
でドアはかなり重い。
 ドアが十分に開いた所を見据えて、ファトラはサイドカーの前面でドアを押した。
「さあ、飛び移れ!」
「はい!」
 車とサイドカーの間の状態はかなり不安定であったが、誠は慎重にサイドカーへ
と乗り移る。ファトラの運転もかなり高度な技術が要求された。
 結果----誠は陣内の車からファトラのバイクのサイドカーへ乗り移ることに見事
成功した。
「よし! よくやったぞ誠! では離脱じゃ!」
「お、おい! 私は助けてくれんのか!?」
 陣内の言葉を無視し、ファトラのバイクはスピードを落としながら離脱していく。
「うおおぉ〜〜〜い! 私も助けてくれたっていいじゃないかーーーっ!!」
 が、あれよあれよという間にバイクは小さくなっていった。
「うおおおのれええぇ! なんという薄情なやつらだ! あいつらあれでも人間か
!? いや、人間じゃないぞ!」
 顔に青筋をたてながら正面に向き直る陣内。
 と----
「う! うわあああぁぁーーーっっ!! そんなああぁっ!!」
 正面にはダンプカーが路上駐車していた。
 陣内だけを乗せた車は陣内もろともダンプへ飲み込まれていった。

「ふぅー。危なかったな、誠」
「ええ。助かりましたよ。でもいいんですか? 陣内先生を助けなくて」
 ファトラのバイクは通常のスピードで路上を走っていた。
 誠に微笑みかけるファトラ。
「なに。構わん。あいつはあの程度では死なんじゃろう」
「はあ……」
 いささか腑に落ちない物はあったものの、誠はとりあえずそれで納得することに
した。
「さてと。このまま学校へ帰るか。アレーレを待たせておるからな」
 ファトラは上機嫌で学校へと進路をとる。
 と----
「あれ? なんかパトカーのサイレンが聞こえますよ」
「ほほう。陣内の車が事故ったかな?」
「いえ。後ろの方から白バイがきてます」
「なに?」
 ファトラが後ろを向くと、確かに白バイが後ろを追いかけてきていた。
 白バイはファトラのバイクに並ぶと、止まるように指示する。ファトラはやむな
く停車した。
「なんじゃ? 何か用か?」
「あんさん、スピードオーバーでっせ。罰金どす」
「なにい? スピードオーバぁ?」
 ファトラのとっぴな声に、婦人警官、アフラは重々しく頷く。
「…………罰金の学割は効かんか?」
 無情にも、ファトラの願いは却下された。

 病院。
「うををおおのれええぇぇいい!! 水原誠!! この借りはきっといつか、必ず
や返してやるからなぁ! 覚えていろよおおぉぉ!!」
 力の限り絶叫する包帯ぐるぐる巻きの陣内であった。


  次へ


説明へ戻ります