§15  かぐや姫


 誠は山で竹を採っていた。
「あれ? あの竹光っているで」
 ある竹の節の一つが金色に光を放っている。
 その竹を切ってみると、中からは小さな赤ん坊が出てきた。
「へえー。こないな所から赤ん坊が産まれてくるなんて、僕知らんかったで」
 誠はその赤ん坊をイフリータと名付け、育てることにした。

 イフリータはすくすくと成長し、半年もたった頃、それは美しい美女となった。
「誠」
「なんや?」
「誠に育てて貰えて、私は幸せだ」
「そうか?」
「そうだ…」
 月の見える縁側で、二つの影は幸せそうに睦み合っていた。
 が、転機はやってきた。イフリータを妻にしたいという求婚者が大勢現れたのだ。

「お義父さん! イフリータさんをぜひ私の嫁に下さい! 必ずや幸せにしてみせ
ます!!」
 彼は求婚者の一人、陣内。バグロム帝国の支配者だそうだ。
「いやー…。イフリータ、どないする?」
「私は…」
 イフリータは悲しそうな顔をする。
「いやな。僕としてはイフリータはもう年頃やし、結婚してもいいとは思っておる
んやけど」
「私は…」
 恨めしそうな顔で誠を見るイフリータ。彼女は本当は誠と結婚したかったのだ。
が、誠の様子を見ていると、なかなか言い出せない。
「イフリータさん! 僕と結婚して下さい! 大事にしてさしあげます!!」
「…でも…」
 と、イフリータはある名案を思いついた。
「それじゃあ、天使の羽衣を取ってきて下さい。もしそれを取ってくることができ
たら、結婚してさしあげます」
「本当ですね! 天使の羽衣を取ってきてくれたら、結婚してくれますね!?」
「はい」
「分かりました! 天使の羽衣ですね! ではさっそく行って参ります!」
 陣内は駆け足で部屋を出ていった。後には誠とイフリータだけが残る。
「うーん、イフリータ。君は結婚したくはないんか?」
「私は…結婚……したい……」
 イフリータは誠から顔をそらし、うつむきかげんに言う。
「ほなら、一体誰と結婚したいんや?」
「それは……」
 イフリータはもごもごと口ごもってしまう。結局、誠と結婚したいとは言い出せ
ないイフリータであった。

 それから3日ほどがたった頃。
「イフリータさん! 天使の羽衣を手に入れましたよ!」
 陣内が誠とイフリータの元に再びやってきた。
「へえ! じゃあ、イフリータも結婚してくれるかな」
「…………」
 イフリータは顔を青ざめさせる。
「さあ、イフリータさん! 約束は果たしましたよ! 私と結婚して下さい!」
「…そ、その前にまず、その天使の羽衣が本物かどうか確かめさせて下さいな」
「…は、はあ……」
 かくして、ストレルバウが鑑定に乗り出した。
「ふーむ…」
 ストレルバウは天使の羽衣を丹念にチェックする。
「どうですか、ストレルバウ博士?」
「ふっ、ふっ。本物に決まっているでしょうが」
 ちょっと冷や汗をかきながら、陣内。
「分かったぞ」
「分かりましたか!」
「これは菜々美殿の寝間着じゃな! 天使の羽衣ではないが、マニア価格3000
ロシュタルはするぞ!」
 ストレルバウは断言した。
「……偽物なんですね」
「偽物である以上、結婚してさし上げることはできません」
 イフリータはきっちりと断言した。
「こ、今度こそは本物を手に入れてごらんに入れます!」
 陣内は再び去っていった。
「この寝間着はわしが頂いておこう」
 菜々美の寝間着はストレルバウのコレクションとなった。

 それからしばらく、陣内は姿を現さなかった。
 ある日の夜、縁側でイフリータは月を見ながらしくしくと泣いていた。
「ん、どうしたんやイフリータ? どうして泣いているんや?」
「ああ、誠。実は…」
「どうしたん?」
「実は…私は月の世界の人間なのだ。訳あって地球に来ていたのだが、もうすぐ月
へ帰らなければならない」
「そ、そうやったんか…」
 イフリータは誠に泣き崩れた。
「誠。私は帰りたくない…。ずっと誠と一緒にいたい……」
「イフリータ……」

 ある日、陣内が現れた。
「イフリータさん! 今度こそ天使の羽衣を手に入れましたよ! 結婚して下さい!」
「それでは、本物かどうか確かめさせて下さい」
 かくして、ストレルバウの鑑定。
「ふーむ…」
「どうですか?」
「ふっ、ふっ。本物に決まっているでしょう。今度はまじめに探したのですから」
「分かったぞ! これはアフラ・マーン殿の寝間着じゃな! 天使の羽衣ではない
が、マニア価格5000ロシュタルはするぞ!」
「………偽物なんですね…」
「ぬあにいーーー!? カツオ! 天使の羽衣を取ってこいと言っただろうが! 
それを間違えおってからにー!」
「グギョゲゲ!」
 陣内はカツオに掴みかかる。
「偽物である以上、結婚してさしあげることはできません」
「こ、今度こそ本物を持ってまいります!」
 陣内は再び去っていった。
「この寝間着はわしが頂いておこう」
 アフラの寝間着はストレルバウのコレクションとなった。

 ある日の夜、縁側でイフリータはさめざめと泣いていた。
「どうしたんや、イフリータ?」
「誠…。実は、もうすぐ月から私の迎えが来るのだ。私は…。私はどうすればいい
のだ、誠…。私は誠と別れたくない…」
「イフリータ…」
 誠はイフリータをそっと抱きしめた。

 ある日、再び陣内が現れた。
「お義父さん! イフリータさん! 今度という今度こそは本物の天使の羽衣を手
に入れました! さあ、結婚して下さい!」
 陣内は手に入れてきた天使の羽衣を誇らしげに掲げながら言う。
「じゃあ、鑑定してみますね」
 そういうわけで、ストレルバウの鑑定。
「ふーむ…。むむむむむ……」
「どうですか?」
「ふっ、ふっ。今度こそは本物ですよ。なにしろカツオたちに死ぬほど探しまくら
せましたからな」
「分かったぞ! これはファトラ姫の寝間着じゃな! 天使の羽衣ではないが、マ
ニア価格7000ロシュタルはするぞ!」
「…………偽物なんですね…」
「ななななな何いいぃぃぃっっ!!?? 偽物おぉーー!? ぬおおおぉぉ! カ
ツオーーっ!! 貴様何をやっておったのだあーー!?」
「ゲギャギャギャ」
 陣内はカツオに掴みかかる。
「本物でない以上、結婚はできません」
「も、申し訳ありません。今度こそは本物を持ってきてごらんにいれます!」
 陣内はまた去っていった。
「この寝間着はわしが頂いておこう」
 ファトラの寝間着はストレルバウのコレクションとなった。

 ある日の夜。ついに月からイフリータの迎えが来た。
 迎えの宇宙船が誠の屋敷に接近すると、あたりは真昼のように明るくなり、宇宙
船からは飛行艇が降りてきた。
「さあ、イフリータ。月に帰りましょ」
 月からの使者その1、菜々美はイフリータに向かって手招きする。
「い、いやだ! 帰りたくない!」
「そんなこと言わんと、帰りまひょ。こないな所、不便なだけどすえ」
 月からの使者その2、アフラ。
「そんなことはない!」
「イフリータお姉様、私たちと月に帰りましょうよん」
 月からの使者その3、アレーレ。
「私は帰らない!」
「強情なやつじゃのう…」
 月からの使者その4、ファトラ。
「こうなれば、無理にでも連れて帰りますで」
「それしかないようね…」
 飛行艇はイフリータに接近すると、彼女を捕獲しようとする。
「たああっ!」
 イフリータは飛行艇に向かってビームを放った。
 ドドオォン……
「「「「きゃああああぁぁぁぁっ!!」」」」
「ひえええぇぇーーっ! 墜落するうぅーー!」
「イフリータぁ! なんということをするのじゃあぁ!!」
 かくして、飛行艇は墜落した。飛行艇をサポートしようとした宇宙船もイフリー
タによって撃墜される。

「はい。誠ちゃん。あーんして」
「な、菜々美ちゃん。あかんで…」
 菜々美が誠に食事を食べさせようとする。その隣ではイフリータが爆発寸前にな
っていた。
「菜々美。そこは私の席だ」
「あら。だって、宇宙船落っこちちゃったんだもの。仕方ないじゃない」
 菜々美はイフリータを軽くあしらう。イフリータは頬を膨らませた。
「…なんでわらわがこんな所で暮らさなければならんのじゃ…」
 ファトラはアレーレに膝枕させて横になっている。
「うち…、早く帰りたいどす…」
 アフラは木彫りのタヌキと向かい合ってぶつぶつ独り言をつぶやいている。
 と----
「イフリータさん! 今度という今度こそは正真正銘、ついに天使の羽衣を手に入
れましたよ!」
 玄関の方で大声が響いた。
「あっ、また陣内が来よったで」
「……邪魔者が増えた……」
 陣内は屋敷の中に入ってきた。
「どうです、見て下さい! この天使の羽衣の美しさ! まさにこれこそ真の天使
の羽衣と言えるでしょう! これで結婚してくれますね?」
 陣内は自慢げに力説する。
「それじゃあ、とりあえずストレルバウ博士に鑑定してもらいましょう」
 かくして、ストレルバウの鑑定。
「むむむ…。むむむむむ……。むううぅぅ……」
 ストレルバウは額に汗しながら、丹念に鑑定する。
「どうですか?」
「ふっ、ふっ。今度こそは本物ですよ。なにしろ、今度は私自ら探しましたからね」
「分かったぞ! これはルーン王女の寝間着じゃな! 天使の羽衣ではないが、マ
ニア価格10000ロシュタルはするぞ!」
 ストレルバウは興奮気味に断言する。
「……………偽物なんですね…」
「ななななな何だとおおぉぉぉーーーっっ!!?? またしても偽物おおぉぉっ!
? そ、そんなバカなあぁぁーーーっ!!」
 陣内は頭を抱えて絶叫する。
「偽物である以上、結婚してさし上げることはできません」
「くううぅぅ…。なんたること…」
「では、この寝間着はわしが頂いておこう」
 ストレルバウはルーンの寝間着を懐にしまおうとする。が----
「おい! それは姉上の寝間着ではないか!」
 興味なさげに見ていたファトラだったが、ルーンの寝間着には気づいた。
「そうですとも。
 あっ! なにをなさいます!?」
 ファトラはストレルバウから寝間着をひったくった。
「姉上の…姉上の寝間着を盗むとは、許せん!」
「なーにを申されますか。これ、この通り、みんなわしのコレクションですぞ」
 ストレルバウは寝間着のコレクションを見せる。
「ああーーっ!! 私の寝間着があるー!」
「う、うちのもある!!」
「わらわのもあるではないか!!」
「これはみんな陣内殿が持ってきたのですぞ。これほどのものをコレクションして
いるとは、彼もなかなかやりますな」
 それを聞いて、3人の顔が陣内の方を向く。
「お兄ちゃん! 実の妹の寝間着を盗むなんて、変態よ!! 変態だわ!!」
「あんたが盗んでいたんどすな!」
「わらわと姉上の寝間着を盗むとは、絶対に許さんぞ!」
「ちょ、ちょっと! 私は別にそんなつもりは…。
----ぎえええぇぇっ!!」
 陣内に飛び掛かる3人。アレーレもそれに加わる。
「ちょ、ちょっと! 家の中で暴れんといてや!」
 誠の叫び虚しく、早くも天井が抜ける。
「んぎゃあああぁぁっ!! わ、私は無実だああぁぁっ!!」

 かくして、陣内はズタボロにされ、誠の屋敷は半壊した。
「ああ…。私と…私と誠の愛の巣が……」
 呆然とするイフリータ。
 陣内やアフラたちはイフリータに一発ずつ殴られ、昏倒していた。


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