DoGA CGアニメコンテスト16の外伝ビデオ収録作品感想

第16回 CGアニメコンテストの外伝ビデオ収録作品の感想です。作者名は敬称略です。

作品感想のページについての補足もご覧ください。

私の独断と偏見による評価点を付けたページは 別に用意しました。

Wrong card - 小笠原 文彦

表現したいものがわかりやすく、テンポもよく楽しい作品。 なんで店内の備品がレーザーブレードに変わるだよ…とか ツッコミを入れたくなるシーンや、攻撃が収まってから、 間を置いて、次の攻撃が来るところなど特に感じ。 人物モデリングなども良く出来ていると感じた。

ただ、かなりしっかり作り込まれている部分が多いだけに、 人物の服の質感がちょっと気になった。肌色に近い色だったから、 余計そう感じたのかもしれない。

ふと恐い想像をしまったあと我に返る主人公の表情のアップがあると、 もっと良かったかもしれない。

農機ロボバトラクター - 金築 真

前回のオープニングの本編。本当にやるつもりだったのか(笑)。

作者がやりたいロボットアクションものを、 限られた作品時間内で、ところどころにユニークな描写を入れながら、 しっかりと一つの作品にまとめあげているのは見事だと思う。 トウモロコシ怪人のデザインも洗練されていていい感じ。 スターリン君とかモザイクとか、ところどころ少々ヤバい演出もそこそこ面白いし。

でも、なんだろう。なんだか全体的にぬるい感じが払拭できない。 作品に起伏が足りないというか。敵を倒すという流れは誰もが予想できるわけだし。

ところどころに挿入されるギャグは、そのネタ自体が悪いというわけではないが、、 どれも、さらりとやってしまうので、インパクトが薄いのかもしれない。 時々、そのシーンにツッコミを入れたりするようなくどさがあっても よかったのではなかろうか。

面白いシーンというのは、それを見ている登場人物のリアクションによって、 倍増されることもあると思う。

例えば、見なかったことにするボタンなどは、 実際押してしまったら面白かったかも。

イリュージョン刑事Z - 渡部 博之

話の構成はよくまとまっているし、前作よりアクションシーンなどテンポが良くなり、 技術的な面では良くなっていると思う。キャラの役割も相変わらず整理できてるし。

でも、問題は、やはり、前作の何でもイリュージョンで解決というギャグが、 本作ではあまり生かされてない点。前作を見ていない場合、 冒頭の「イリュージョン!」と叫ぶ部分とか、笑いがとれると思うが、 前作を見ている人だと、そのネタはもう観たという感じになるし、 その後は宇宙刑事風な姿に変身し、出てくる武器は、 アクションヒーローものに少々ありがちなものばかり。

イリュージョン刑事の続編に皆が期待していたものは、こういうものではないと思う。 やるにしても、例えば「そんなのイリュージョンかよ!」とかいうツッコミが欲しかったところ。

UMAハンター - 渡部 博之

イリュージョン刑事での敵役を別のエピソードに使った点は面白い。 それと守るべき小動物がむしろ強かったとか、刑事Zの方より、 面白いギャグが多かった。刑事Z同様、本作もテンポが非常にいい感じ。

ただ、前半の意外性のある面白さに比べると、 終盤は少々普通にやられてしまうの展開だったので、 その辺がちょっと物足りなかった。

そうは言っても、こういう風に、同じ作家が、 いくつも作品を出してくるのは楽しい。 一作一作に、作者らしい芸風がにじみ出てくる。今後にも期待。

レボルバーの龍 - 中林 圭, (総合福祉事業団)

まず、そもそも、料理番組をベースにしながら、 嫁姑の静かな対立を描いていこうという点が新鮮。 しかも、時代は未来。それらを、 一つの作品にまとめるようという試みに感心する。 これぞ、CG作家がもつべき、挑戦者魂 (と書いてチャレンジングスピリットと読もう)だろう。

調理中の魚が実は別の生き物だったという展開が、話に勢いをつけている。

しかし、なんとなく、作品全体のインパクトがうすい。 実験的作品になってしまった感がある。

少々、姑の方を大人しく描きすぎた面があるかもしれないし、 作品に使う話の材料がどれも斬新すぎるので、 演出も少々ドギつくやらないと響いてこないためなのかな。 あーだこーだと、未来の設定が多すぎで、 頭がついていかない面もあるかもしれない。

観客の笑い声のタイミングもちょっと違和感が強い。

それにしても、エプロン姿の地味な眼鏡っ娘妻はいいねぇ。

怪奇メタロー - 山岸たかお

んー、勢いもあるし、結構面白いんだけど、 大阪会場でさえも、なんだかリアクションが弱かったなぁ。 私なんかは京都タワーとか破壊されていくシーンから、 すでに、ツボにはまったんだけどな。 実況ナレーションを入れたのも良かった…というか、 この実況がなければ、これほど面白くはならなかっただろうな。

冒頭の男の子の雰囲気もなんかとってもいいなぁ。

しかし、この作者、舞映作品とか観てるのかな。 レセプション会場で訊くのを忘れてしまっていた。

…ってなわけで、作品が短いという点では物足りないけど、 思い切った写真合成、綺麗な絵づくりなど、 この作品にはあんまり不満とか感じなかった。これでよい。 これでよいのだ。

プール監視員みもりちゃん - 青木 隆志

まず、映像に勢いがある。シンプルで比較的ラフな作画なのに、 どれもが、洗練されていて、一つ一つのカットがとても格好良いし、 つなぎ方がうまいと感じる。 スピード感のある映像をかなり研究しているんだろうなと感じる。

ただ、この作品はあまりにシンプル過ぎるのが、物足りない。 物語的な面白さも不足しているし。 プール監視員である設定も全くと言っていいほど活かされてないんだけど、 それはわざとなのかな。それとも、 この作品はいくつかあるシリーズの中の一つなのかな。

さらば!! イタルマン - 堀野 達

なんか、最初のシーン、自分が出てきたかと思いました(笑)。

それはともかく、このシーンと最後のバスに乗るシーンが、 会場で一番笑いが取れてたのは、ちょっと反省した方がいいかもしれない(笑)。

でも、四角の箱に顔の正面、横、後の絵を貼り付けたキャラは、 なかなか面白かった。動画への合成もなかなか自然な感じだったし、 ロボット発進表示が出ていても、平気な顔して歩いてる人達のシーンが面白かった。

モーションキャプチャーによる動きも自然だったけど、これは多分、 そういう技術を無駄に使っているということを芸風にしてるんだろうな。

途中で出てきた眼鏡おねいさんが、あまりにキュートで、キュート過ぎて、 思わずふぉーりんらぶでしたが、え、あれがAさんでしたか。 しまった。こんなことなら、レセプションの時に、探してでも話しておけばと(おい)。

Pマン・メタリオン来襲 - 駒見 瞬一郎(創映会)

初見だったら、この作品は、スピード感があるし、面白いとは思うんだけど、 私の場合、Pマンはいくつか、見ているからなぁ。そういう人間にとっては、 この回は新鮮味に欠ける。まぁ、他の話で、豪華ゲスト登場の回もあるというので、 その辺りは楽しいかもしれない(それは、まだ未見)。

CG技術に関して言うと、今回の作品では、Pマンの方もほぼ3DCG化されているので、 より色んなシーンでスピード感を出すことが出来ていると思う。 特にモーションブラーを思いっきり使った映像感が見事。

でも、以前に見た「ミサイラー見参」の方が構成的には面白くて、 今回は延々戦っているだけという印象が強く、物足りなかった。

それと、せっかく何話かのシリーズにしているのに、 シリーズの広がりが感じられない点でも物足りない。 惜しいと言った方がいいのかな。小難しくなるから、わざと避けてる気もするけど、 何か目新しいものが欲しかった。

バベルの絵日記 - 掛川タキヲン

この作品、何故かうっかり、大阪会場上映会の前に見そびれていた。 おかげで掛川氏の姿を見たのに、作品内容を覚えてなかったので、声をかけそびれた。 こんなに面白い作品だったのに、しまったと反省。

で、この作品。キャラクターの動きに無駄もないし、 あの合成声の雰囲気も非常にいいし、「あれ?」と思う意外性もあるし、 はっきり言って文句の付け所がない。こういう作品は時々外伝に入るなぁ。うーん。

夢の中というものがどんなものかの一つの形を見事に映像化している。非常に面白い。 夢の中の記憶という抽象的なものを、うずたかく積まれた本などを使い、 非常にわかりやすく表現できていると感じた。

確かに、地味な作品だけど、この作品はこれで完璧なんじゃないのかな。 こういう感性がエンターテイメント性のある作品に生かせたら、 面白いものが出来てくるのではないだろうか。

使い古しのI Love You - Funck Station

この作品の感想を乱暴に言うなら、 その長所も短所も「使い古しである」ということだろうか。 小道具を使った話作り自体も使い古しの手法だ。

技術的には、セリフもなしに、音楽にもあわせながら、 よくもまあ、表現したいことをこれほどわかりやすく表現できてる点に感心。 ヒロインの娘も、美少女系ではないところが、逆に魅力的で、 そういう意味では何も言うことはない。

ただ、一歩踏み込んでみて、感想を書くと、多分、 この物語は綺麗に収まりすぎているのが問題なのだ。 「使い古し」でも、時代を越え、感動を呼ぶ芸術作品がいくつもある。 でも、この作品はまだどこかこれは薄っぺらくなくないか。 例えば、それは、リアリティを感じさせる演出がないからではないか。

職を失った後、彼のどう食いつないだのか。 町中で演奏してら、すぐに拍手の海というのも、どうも軽すぎる。 なにか人を集めるきっかけがあると、リアリティが出たのではないか (それは逆に私が、電波少年的な演出に毒されて過ぎているから、 そう思うのかもしれないが)。…などと思った。

妄想好きの私は、この作品を観ていて、この人達は、バンド活動をしていたら、 スカウトされたんだけど、相手はボーカルの女性だけが目的だった。 他のメンバーは捨てられてしまう。その女性の方も、人気なのは、 キャラクターの方で、結局音楽方面ではなく、タレント活動へ。 気づいたら、ワイドショーで、経済評論とかを偉そうに語っていた…という、 流れが浮かんできた。例えば、そんなものがあったら…などと思った。

でも、そんなこと映像でやるのは難しすぎるよなぁ。

さらにさらに、この作品を観てたら、円広志の「ミュージシャン」 という曲を思い出した。「とんでとんで…」の夢想花で有名な彼だが、 歌が大好きというミュージシャンの姿を、ストレートに、つまり、 ある意味不器用に歌ったのがこの曲で、あまり知られていないし、 多分、売れなかったとも思うが、私はその少々不器なところがなんだか好きだった。 この作品は、そんなことを思い出させた作品でもあった。

実は、私自身は基本的には新しもの好きなんだけど(笑)。

桜色の風と… - STUDIO夏柑

全体にとてもまとまりのよい映像だと感じた。 モノトーンの絵に、オレンジでラフに彩色したセンスが非常にいい感じ。 恐らく写真をベースに、手描きを加えたと思われる背景の風合いもいい感じ。

ただ、逆に、最後にシーンで、映像が着色される演出があるけど、 そこはベタ塗り的で、彩度も高すぎた感じがあり、 逆にそこの部分から風合いが悪くなってしまった感じがした。 彩色した上で、手描き感等もちゃんと出ていると良かったのかもしれない。 3DCGを使用した部分も、その試み自体は正しいと思うのだけど、 その部分にも、多分、もう少し深みのある描き加えなどの工夫が 必要だったんじゃないかという気がした。

構成的には、別れor対立?があって、 仲直りという少々お決まりな展開が単調だと感じる。 感情の対立等を如実に現すようなインパクトのあるシーンが不足していると思う。 その時、背景と感情がシンクロしていると良かったのかも。

特に、途中に出てきた都庁の絵。あの部分にあの絵を入れる意味が解らない 作画に気合いが入っているので見せ場の部分に使いたかったんだろうか。

私の気持ち 変わらない季節 - 星野 浩一

すさまじい技術力。その緻密な映像感は完璧に近い。 ここまで作り込むのにどれほどの気力と時間が費やされたのだろうか。凄い事だ。

そして、セルシェーデングされた3DCG背景を、 丁寧に着色したきっちりした人物に合成した映像がすごくデジタル (…という言い方が正しいか解らないけど)。デジタルし過ぎなくらいデジタル。 いい意味でも悪い意味でもデジタル。黒板の文字すら手描きを使わぬのには少々驚く。 このぐらい、はっきりとデジタルならむしろ潔いかもしれない。

キャラクターデザインもしっかりしている。私が感じた問題点を強いて言えば、 主人公の顔の赤らませ方が少々しつこいことだけだ。

しかし、そのすさまじい技術力を費やしている方向が、 私にはどうしてもおかしいと感じる。わざとなのかと思うくらいおかしい。 そんなご都合主義的な物語を観たいと思う人は、皆無に近いと思うからだ。

人物のリアルな感情を演出する事が、本人は得意でないなら、 面白い物語構成や演出が出来る人と協力して、 感情豊かな作品を作るべきだったと感じる。

それらを、荒っぽく言うなら「絵は綺麗だが話は面白くない」という事なのだが、 そんなあっさりした感想で済ますには、あまりに映像に気合いが入りすぎているし、 あまりに物語がまっすぐ過ぎる。 ここまで気合いが入っていると、アマチュアだから、自由に作品作りができるからこそ、 わざとこういう作品にしているのでは…という疑問が私にはどうしても払拭できない。

作者は、これでもか、これでもかという位、作品の全ての部分から、ことごとく、 手垢を無くそうとしているのではないか。そういう印象すら感じる。

MATERIALISM - 奥泉 遊

その技術力は圧倒的で、肌の質感、ピエロの一つ一つの表情の豊かさは凄い。 目を閉じる時には頬の皮膚までひっぱられていく。 それら、緻密さへのこだわりは驚嘆に値する。 一つ一つの表現で、私が感じた違和感は、せいぜい、 走る動きが少々機械的だった事ぐらいだ。

一つ一つの部品の表現力は確かだ。 しかし、最後に出た"Directed by"という言葉の意味を もう少し考えるべきではなかったか。 この作品はどこへ「向かおう」としているのだろう。

この作品には、意味的流れが不足していると感じる。 解説書には説明が書かれているが、単に映像を観ただけの印象は、 優れた映像部品を単に集めただけという感じなのだ。 こういうシーンがあるから、その先がこうなったというような、 具体感が乏しいと感じるのだ。

それと、作者は解説書で、表現したかった事は「欲望」だと書くが、 本当にそうなのだろうか。 映像化した欲望は、どれも記号的過ぎる気がする。 作者の日頃感じている欲望はこんな形なのか。それを克服したいと思う気持ちの流れは、 こんな形なのか。私にはそれ自体が疑わしい。 伝えたいもののリアリティが不足している…そんな気がするのだ。

一つ一つの質的表現の確かさは、その作品が何を伝えようとしているのかわかった時に、 相乗的に効いてくる。質感や動きのリアリティにこだわることは良いことだけど、 何が伝えたいのか、そのリアリティにもこだわらないと、せっかく気合いを入れた 質感表現の凄さが生かされず、もったいない事になってしまうと思うのだ。

ただ、言葉すら使わずにそれらを表現するのは、とても難しい。 だから、この感想文は、少々作品を批判的に書きすぎているとは思う。

FANTASTIC CELL - 水江 未来

生命というものの躍動感を、ネガティブな(気持ち悪さ)も含めて、 とことん映像化したかった。私はこの作品にそういうものを感じた。

その動きの微妙なゆらぎがとても自然で、 まさにこの映像は、生命の、特にミクロな動きが、 そのまま映像になっている感じがする。

中でも、クラゲのようなものの動きが面白く、一体これらの動きのリアリティはどうやって実現しているのか。一部には、計算式でも使っているのか、 どうやっているのかもとても興味深い。

血液の流れのような動きは、実際の映像などとタイミングを合わせたりして、 作っているのだろうか。

技術を使わずと書いてあるから、ほとんど勘に頼っているのだろうか。

オリジナル作品には、きっと音楽が入っていて、 それが入っていると、また印象が大きく変わるんだろうなと思う。 最初の部分とかは、音に合わせて作られている気がするし。 このDoGAのコンテストという媒体を使って、観客に作品を伝えたいなら、 著作権上の問題をクリアできる音楽を使うべきだったろうな…とは思う。

でも、この映像のインスピレーションを生んだものが、その曲だとしたら、 仕方がない事かもしれない。でもやはり音楽が入った上でのこの作品も観たい気がする。 例えば、パーカッション系の曲を、新たに付け直すとよかったかもしれない。

作者は、きっと、この映像を観る側が感じるままに 感じて欲しいと思っているのだろう。 それを言葉にするのはあまりに難しいが、 でも、言葉にすることにもきっと何か意味があるだろうと考え、 色々書いてみたが、まだまだ思いをうまく言葉に出来ていないと思う。 何か解があるのだろう。

正直言うと、そもそも、あんまり私の守備範囲ではない作品なので、 それは、他の人に考えて欲しいなとも思う。感想だって表現なのだ。

解説書を見ると、いろいろ受賞しているようで、アーティストの方々は、 この作品を褒めているんだろうから、 私は、この作品はあんまり褒めなくてもいいのかもしれない(おいおい)。

駄菓子屋の一日 - 鈴木 達生

この作品は、CG部分だけ評価するのは絶対間違いだと思う。

後の実写部分の子供の生き生きとした表情。 駄菓子屋のおやじさんの個性を見事に編集した映像。 それなしにこの作品を語れますか? 絶対語れません。 実写だから悪い? CGアニメコンテストだから、評価する必要がない? とんでもない。あの部分だって作品だ。

その部分があるからこそ、 冒頭のCG部分にも制作者が気持ちを込めていたことがより伝わってくる。 ある意味反則技だけど、こういう反則はありだと思う。 DoGAの外伝ビデオという媒体を使うには、あのCG部分は必要だったし、 CG部分がないのも、きっと物足りないのだ。 こういう面白いものを作る人がいる限り、外伝ビデオは大丈夫だなと思う。 外伝大賞あげていいとも思うんだけど、ダメですか?

Beautiful stranger - Norihiro Goto

「コミカルなアニメーションなので」という解説書のコメントがある意味衝撃的な作品。 コミカルという言葉の使い方が私の思っているものとは違うのかもしれない。

私には、この作品は、一旦戦場と化してしまうと、 どうしても理解しあうことができなくなってしまう人達を、 ひたすら悲しく表現している作品にしか見えない。

きっと、勧善懲悪や、綺麗すぎる理想の平和のエンディングで終わる作品よりも、 こういう方法論の方が、戦争と平和の問題を語るのには正しい気がするが、 それはともかく、「コミカルなアニメーションなので」と作者が解説書に 書いた事が、とにかく気になって仕方ない。

作者と私の思いは、彼らのようにすれ違っているのだろうか。

ところで、この作品が表現している、 戦いのきっかけを生む「すれ違い」をどう解けばいいのか。 それを解決する方法を語る映像作品は少ない。 そこには、すれ違う前に、すれ違いを解決してしまっては、 映像的な見せ場を作りようがないという本質的な問題があるのかもしれない。

映像的には、平べったく表現されたキャラクターが独特でいい感じ。 理解しあえない悲しさを表現するのにも悪くない作風だと思う。

ペンギンさんのお医者さん - 織江

3DCG技術を使うと、普通は、どうしても小綺麗になってしまうものだが、 この作品は、建物等のその勢いのある独特の質感や、 鮫の血走った目などの表現など、少々雑なところが、 映像作品全体に迫力を与えている。

この作品の表現しようとしたものは、 自分が医者として、プロであるからこそ、 過去に自分の大切な友(?)を奪った憎い相手であっても、 悲しみをこらえ、治療しなければならないその辛さ…その辺りだろうか。 なかなか、いいテーマだと思う。

ただ、主人公の感情表現の方法が、時々奇抜すぎたり、 何を表現したいのかが解らない部分がいくつかあった。 特に、医者ペンギンが窓の外を見ていると、血まみれの姿になるシーンがよく解らない。 これは、回想の意味なのだろうか。

この辺りがもう少し整理されていれば、インパクトがある映像だけに、 もう少し、伝えたい事を、観る側に良く伝えることが出来たのではないか…と感じる。

解説書に書かれている「TVアニメ等を観ていないからこそ、他の人には出来ない物が作れる」というのは、確かに正しいと思う。ちなみに、私は、この作者と全く逆で、 日頃、TVアニメばっかり観ている人間だ。きっと自分には、 その弊害がいっぱいある。それは間違いないと思う。

個人作家が商業アニメのような方向性を目指す必要はないし、 「他の人にはできないものを作る」という気持ちは、非常に大切だと思う。 そういう思いを持って作品を作る人はやはり強く応援したい。

DoGAのコンテストは「アマチュア」の文字が取り払われ、 CG技術を使う個人作家がプロとしてやっていける環境を整える役割が 全面に押し出されてるようになってきたけど、その今でも、 こういう人達を支援するコンテストでもあるべきだと私は思う。

ただ、どうやったら、映像で自分が伝えたいことが、人に伝わるか、 それを学ぶ為に、他の作品を多く観て研究することは(それは、 もちろん、人気テレビアニメでなくていい)、やっぱり必要ではないかとも思う。

どどろ - 堀内 良平

一枚一枚丁寧に描かれた連続性のある映像を観ているだけでも気持ちいい。 まさに映像が生きているという感じがする。

化け物が、次々に大きなものを食らっていくシーンを、私は、生命の躍動として感じた。 それは恐怖ではなく、むしろ、快感だ。 そして、その、今まで、他のものを、食い尽くしてきた生き物が、 今度は小さなタンポポの命を守る。論理的には納得いかないのだけど、 ここのシーンを観ていてもある種の感動を感じる。 その矛盾が、つまり「命」というものなのではなかろうか。

破壊や戦争は愚かだと多くの人達はいうが、それらの行為は、 そもそも、人の生きていこうという気持ちと、共鳴するものなのではないか。 そうでなければ、その愚かなはずの「戦い」や「破壊」の描写を、 皆が喜んで観るはずがない。 そして、それとは逆に、弱いものを守る気持ちにも、人は共鳴する。 その矛盾の中で、人は生きる。

この作品を観ていると、そういう思いが浮かんでくる。

meme self duplicator - 山崎陽平

しっかりした作画とインパクトのある主人公のデザイン。 ナレーションも味があり、冒頭から映像に引き込まれ、期待は高まる。

写真的な月の映像の合成など、ひとつひとつ、インパクトのある映像は続く。

しかし、何かが物足りない。 私が思うに、それは「起承転結」で言えば、転の部分で、 はっきりしたものが描かれていなかったからではないか。

彼女が一体何を見つけたのか、何に気づいたのか。 それは、抽象的であってもよかったのだが、 この作品では、 それらが、一つのはっきりしたシーンとして描かれていなかったのではないか。 そんな風に感じた。

ここにいるよ… 〜いつか見た知らない場所 - 奇志 戒聖

非常にまとまりのよい作品。それを簡潔に示すと、 「なるほど、こうきてそうきてこうなったのか…」という感じ。 一つ一つのシーンに間違いがない。背景、キャラクターアニメーション、 効果。どれもきっちりしている。

外伝には選ばれたけど、 多分、これはこれでよい作品なんだと思う。

それでも敢えて何が足りないかを言うなら、この作品は、 少々大人しすぎる物語作りで、インパクトが足りなかった点だろうか。 そこまで書いたところで、感想を終えようとしたが、 それだけじゃ、ちょっと足りない気がして、もう少し突っ込んで考えてみた。

結局、この作品は、過去の色々な恐い物語にある印象的なシーンを、 組み合わせて作った…という感じがするのだ。 作者の考えたオリジナルの「恐怖」が足りないのではないか。そう思うのだ。

目の肥えた視聴者はこういう物語に少々慣れすぎている。 その視聴者をはっとさせるものが、何かが一つでもあったら、 そう思った。

ありさんのおそうれつ - ぴろぴと

言葉にできない凄いもの。この作品にはそれがある。 俺がうだうだ説明する必要なんかないからとにかく作品をみてみろよ。 そんな作品。

とにかく、すごいインパクト。児童画風の絵、色彩、文字、シーンのギャップが、 次々に襲いかかってくる。わけわからないんだけど…。無理に言葉にするなら、 それは「おかしい」何か。

ただ、もし、この作品がもう少しわかりやすいものとして仕上がっていたとしたら、 それは面白くなったのか、それとも、これはわけがわからないところが、 面白いところなのか。そこが知りたい気がする。

それとも、これはちゃんとした何かを描いているのだろうか。今は解らないけど、 ある日、突然、UFOが降りてきて、 この作品が描いているものがわかる日が来るのかもしれない。

「空より蒼き…」第1話 - Ceruju

もちろん私はこういう系統の作品は、守備範囲ってわけじゃないけど、 まぁ、縁あって、例えば、ハンター×ハンターとか、テニプリとか観てるわけだし、 同世代男性の中では、この作品の方向性は解らなくもない方かも。

それはともかく、まず、人物モデリング等、 技術的にはかなりのレベルに達しており、それを描くのに十分な力量を持っていると感じる。 そして、その制作パワーにも驚かされる。 風になびく髪の毛が作中、頻繁に挿入されるのが印象的。 ただ、正直、ポリゴンの粗さが目立ってしまっているので、 多分、もう少し髪の毛のポリゴン等を、多めにするとか、特殊なツールを使うとか、 この部分の表現には特に力を入れて、そのなびく美しさがしっかり表現出来てたら、 もっと良かったかもしれない。

第1話だからこれから…という事は、確かにあるとは思うんだけど、 でも、多分、第1話だからこそ、もう少し見所となるシーンが欲しかったかもしれない。 例えば、時間の流れ通りに物語を進めるのではなく、 作品シリーズ全体が表現したいインパクトのあるシーンを、 冒頭に置くなどの工夫があると良かったように思う。

それと、カメラを振り回しすぎるのは、むしろ耽美を描くには邪魔だったのではないか。 インパクトを与えたいシーンは、カメラを固定し、じっくり見せるべきではないかと思う。そもそも、全体的に俯瞰で撮っている感じがあって、 もっと、大胆な構図を使うと良かったのではないかと感じる。

なんか、いろいろ文句ばかり書いてしまったが、 短い作品で耽美を表現するのはとても難しい上に、 恐らく3DCGという技術を使って、こういうものを描く事自体が、 とても、フロンティア精神あふれることなので、 こういう人達は応援したい気がする。その領域には間違いなくニーズはあると思うし。

例えば、傷の表現などをもっとゾクっとする感じで描くと、 さらに面白い作品になっていくのではないかと勝手に思ったりした。

私は残念ながらその領域のファンの人ではないので(笑)、 実は、個人的に一番印象に残ったのは、最初に出てきた女の子が、 なんかリアリティもあって可愛いかった事だったりする。

けしごむ - 坂本 弘基

はははははははは。なんか技術的には何も言うことがない。 高い技術をひけらかすこともなく、作品を表現するための、 必要十分なCG技術の使い方という感じ。

ノートの文字とかイラストのリアリティとか、電車の通る音とか、 いろんなところが絶妙で、そして、バカバカしくって、やっぱり、 アイディア賞もの。 強いて言えば、机から払い落とされた消しごむのカスの山のシーン、 あそこでもう少しインパクトのある演出が欲しかったかも。 それ以外は文句ない出来。

かわいらしいエロって感じでこの程度なら女の子にもウケそう。

いや、でも、しかし、声優やった人とか、この作品をどう思ったんだろ(笑)。

眼 - 板井 俊祐

この作品、18禁かもしれない部門とかいうけど、実際は結構真面目な作品。 18禁的シーンは、この作品にはどうしても必要だったと思う。 そういう退廃感が描きたかったんだろうから。 でも、こういう趣向(例えば、分離した首が横から観ているという表現とか)は、 商業的ニーズがあるせいか、基本的には小説なり、漫画なり、 時にはアニメでも、色々やりつくされている感はあるので、 まぁ、そういうのを読み過ぎている人には物足りないかも (いえ、それは、私のことじゃないと思います。多分。笑)。

荒廃した街、病院の映像、を観ていると、何か、我々の未来には、 実はこんなものになってしまうかもしれないという気すらしてくる。 その点ではかなり凄い作品。物語的には、良く出来ているけど、 オチとか、少々収まりが良すぎる気もした。

ちなみに、DVD収録スタッフのミスで、最後の部分が切れてしまったそうだが、 これはこれで、かなりいいタイミングだったかもしれない。

童貞かわいや - 宍戸幸次郎

自主制作作品で、これほどはっきりと人の退廃を積極的に描いた作品は珍しい (単に私が知らないだけかもしれない)と言いたいところだけど、その直前にも、 「眼」という作品があった。ううむ、重なる時は重なるものだ。

結局、宍戸氏は、退廃系に行ってしまうのかなぁ。 それはそれで面白いのだけど、もう少し、オーソドックスな作品で、 時々衝撃的な描写があるという作品も見てみたい気もする。

相変わらず、衝撃的な感じを与える演出とか、色の使い方とかが面白くて、 その退廃の表現も、世の中によくある成人向けのものとはちょっと違う方向性。 でも、こんな感じは、結構、ありそうな事なのかもしれない。

「エロ展」というグループ展のために作られたという事で仕方ない面はあるが、 センセーショナルな表現の積み重ねにやや頼りすぎた感があり、 退廃的な世界に堕ちていく、人間達の描写への踏み込みが若干足らない気がするが、 そんな次元の話が出来るほど、この作品はある意味、かなりの領域に踏み込んでいる。


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Last Modified on Saturday, 25-Aug-2007 14:13:47 JST