アグレッシブな子どもへの対処と夏休みに向けて(2017年5月17日)

児童健全育成指導士 田中 純一

 ADHD傾向の子どもは3%から7%の確率あるという。放課後児童クラブ等の対象児童が増加し、1クラブ50人以上ということがある。確率を5%とすると2人から3人の子どもが在籍することになる。相乗効果でクラブが崩壊状況に追い込まれているケースも増加しているように思われる。また施設のハード面の容量は小さく、子ども一人あたりの占有区画1.65uをクリアー出来ていないケースも多くなっている。こうした状況の中で長時間の夏休み等を控えて、アグレッシブな子どもの対処方法を考えてみたい。


A ADHDの考え方について

ADHDAttention Deficit / Hyperactivity Disorderの頭文字をとったものである。Attentionは注意である。Deficit は欠陥ではなくて、超過の意味、Hyperactivityは多動、Disorderは症候群である。訳せば注意超過(=過敏)多動性症候群となる。注意欠陥と捉えて注意を促そうとの考え方が多いと思う。しかしながら、現場サイドで見ると明らかに注意過敏が問題となっている。たとえば、隣の子どもがちょっと馬鹿と言ったら、過剰に怒り、暴力を振るったりするのである。注意過敏と捉えて対処することが必要である。

またHyperactivityというのは超ウルトラ元気とも考えられる。サッカーでラフなプレーはイエローカードやレッドカードであるが、アグレッシブなプレーは必要である。粗暴な子どもと言わないでアグレッシブすぎる子どもと捉えることが必要であると私は考えています。

@   対処の手法1 暇な時間を少なくする

注意過敏で多動になってしまうわけですから、刺激をあまり与えないようにすることと、刺激をネガティブに(悪い方向に)捉えないような働きかけが必要となります。カプラなどが壊れた時に『良い音がしたね』などの声かけでポジティブ思考になるような働きかけが大切と思います。「ざんねんだったね」などの声かけは無意味であるだけでなく、反対の結果を生むこともあります。念が残ってしまうのですから、誰かに責任を負わせたくなるか、自分自身を責めるかになります。折り紙を折る場合でも完成したものを見せないで折る過程そのものを楽しむようにすることが必要です。私はアクション折り紙と言って、折り紙を折りながら身体を動かすことをやっています。アグレッシブな子どもには閑な時間を与えないことが必要です。

気分一効果との理論があります。快と不快は同居できないとの考えです。子どもたちとの活動では不快なことに固執させないで、快の感情が優先するように声をかけることが必要だと思います。過去のことに拘らせないで、新奇で楽しいものに引っ張っていくことが必要だと私は思います。その点で眼そらし方略は必要です。


A対処の手法2 自由な時間を増やす

 ADHD傾向の子どもは刺激に対して過敏である。集中力がないのではなくて、他の刺激に反応して一つのことに集中できないことが多い。自分の好きなことなら集中して活動するものだ。放課後児童クラブや児童館は必ずこれをやらなくてはならないことがない。支援員や大人が集団指導に固執する結果、問題行動を助長していることもある。危険でなく、他人に迷惑をかけないのであれば好きなことをさせておくのが良い。

 ガードナーは多重知能理論を提唱しています。ガードナーの多重知能理論によれば人間の知能は概ね8つに独立して存在しているという。言語的知能・論理数学的知能・身体運動的知能・空間的知能・音楽的知能・博物的知能・対人的知能・個人内知能の8つである。小学校はどの知能に子どもが適しているかいろいろやってみるために国語・算数・理科・社会・音楽・体育・図画工作・英語などの教科がある。放課後児童クラブや児童館は小学校のようにいろいろやる必要性がない。子どもたちの自由時間を増やして、好きなことを伸ばせるようにすることが必要である。

 B   対処の手法3 静かな集中

集中するには2種類の集中があります。運動遊びやダンス・運動会のように思い切って騒ぐことも集中です。同時に読書・折り紙・詰将棋・あやとり・写し絵のような静かな集中もあります。ADHD傾向の子どもは好きなことは集中しますから、折り紙を好きなだけやらせるとか、写し絵を好きなだけやらせるなどの手法を使ってみるのも良いと思います。一人で静かに遊ぶ『一人静か遊び』を増やしていくことが必要と思います。『一人静か遊び』で静かに集中して遊んでくれることの方が、無理をして集団指導をして他人に迷惑をかけたり、けがをしたり、させられたりするよりもずっと良いと思います。

C   対処の手法4 ボール遊び

ADHD傾向の子どもは自分の思い通りにいかないとわめく場合があります。世の中は思い通りにならないことが多いものです。ボールは自分の思い通りに動かないのでボール遊びを取り入れていくことも必要です。

 ボール遊びではすぐにドッジボールや野球などをさせないで、2人か3人でキャッチボールから始めるのが良いと思います。

 ハンドベースをやる時にまずは柔らかいボール10ヶ位でキャッチボールとトスバッテングを3人くらいでやる。

 2チームに分かれて挨拶をする。

 子どもに審判をさせない。

 ピッチャーは打ちやすい球を投げる。

 ファーボールや三振はない。

 打ったら1塁を踏んで2塁へ行く。2塁ランナーは3塁を踏んでホームへ行く。

 打った人が2塁へ行く前にボールを持った守備が2塁を踏めばアウト

 2塁に人がいたら、ホームを踏めばアウト。

 フライで捕れば即アウト。フライで捕られたらランナーは元の場所に戻る

 ホームから1塁は5mくらい。同様に1塁2塁・2塁3塁・3塁ホームも同じ。

 人数に応じてアウトの数を決める。試合が終わった後は挨拶をきちんとして、勝ったチームを讃えない。

 ドッジボールをやる場合もまずは柔らかいボールで投げる捕る。

 3人から5人で中あてをする。

 2チームに分かれて転がしドッジをする。

 10人対10人でやるとすると、二人5グループ対二人5グループで実施する。自分の仲間が当たったら一緒に外野にでる。外野から当てたら2人一緒に内野に戻る。
ホ 時間を決めて時間内に終わる。勝者を讃えない・

 

 上記のようにハンドベースやドッジボールをやると楽しくできることが多いものです。

 D   対処の手法5 クラブでの時間の流れ

夏休みなど長時間クラブにいる場合のやり方を考えてみたいと思う。

8時半〜10時 学習・読書・静か一人遊びや自由時間。学習や読書などは必要であるが、やりたくない子どもは他の子どもたちの邪魔をしなければ自由に過ごせるようにすることが必要である。

10時〜11時半 みんなで一緒の工作や折り紙や遊び活動など。やりたくない子どもはやらなくてもよい。

11時45分〜12時20分 お弁当タイム。この時間内なら何時食べても良い。食べ終わったら、一人静か遊び。

12時20分〜14時 DVDやマンガ読みや学習やゴロゴロタイムなどの時間。

14時〜16時 自由時間かお出かけタイムなど

16時〜16時半 おやつタイム。各自がいただきます。ご馳走様。終わった子どもから他の人に迷惑のかけない遊びをする。

16時半〜17時半 転がしドッジやハンドベースなどの運動遊びタイム。やりたくない子どもはやらなくても良い。

17時半〜 帰宅準備等。(カプラやトランプ・カルテットなどなど)

と一応の目安を決めるが、固執しないで臨機応変にやることと、やりたくない子どもは無理にしなくても良いことが必要であると思う。

 E   対処の手法6 クラブ内の配置

男の子どもは広い所は走り回り、高い所には上り、穴があったら掘り、棒があったら振り回すものである。これは遺伝子的なものだと私は感じています。必要な時以外は出来るだけクラブ内を段ボール等で仕切って狭い空間にしておく方が安定します。遊戯室(ホール)などを学習コーナー・マンガ読みコーナー・おやつコーナーなどに3分割しておけば走り回ることが少なくなります。身体運動遊びをする時だけ片づけて広くすればよいと思います。

クラブ室(畳の部屋)はごろごろ寝転がることの出来るように空間確保し、将棋やオセロ・ブロック・写し絵・折り紙などが出来るようにしておくと子どもたちは安定することが多いようです。

本能的に広い場所は襲われる危険性があるから走り回り、自分が安全かどうか確かめるために高い所に上る傾向が男の子にはあります。これを禁止すると狭い所に入るのが男の子の習性です。走り回ることや高い所に上るのは危険ですから段ボールハウスや屏風などで狭くして逃げることの出来る空間を用意することが必要と私は感じています。

F   対象の方法7 子どもの能力の把握

子どもの能力を把握するためには三つの観点が必要と思います。まずはその子どもの実年齢が何歳かです。同じ一年生でも早生まれか遅生まれかでは最大11ケ月の差があることを知っておくことが必要です。

次にその子どもの実能力年齢を把握することが必要です。実年齢は1年生だけれど、能力的には保育園年中児童程度とか小学生2年生程度の能力があるとかです。これは知能検査や体力測定などでわかるものです。

次に大切なのは可能性年齢です。これはヴィゴツキーの最近接領域に関わることですが、私がわかりやすく名付けたものです。子どもの実年齢や実能力年齢とは別に子どもたちは支援員や仲間の手助けがあれば出来るものもあります。自分一人では出来ないけれど手助けがあれば楽しく出来て、やがて自分の力で出来るようになることがあります。

実年齢が6歳と1ケ月・実能力年齢が5歳くらいだが、可能性年齢は7歳以上ということがあります。放課後児童クラブなどでグループワークが必要な所以は友達同士の助け合いで成長することが出来るからです。友達同士で成長するというのは可能性年齢があるからだと思います。

 B 小学生期の特徴の把握

エリクソンは物学的側面&社会的側面&心理学的側面の相互関係を基礎とした発達漸成論(ぜんせいろん)を提案している。

乳児期(基本的信頼対基本的不信・授乳等) 0歳から2歳未満

幼児期(自律対疑惑・排泄等) 3歳から5歳未満

幼児後期(自発性対罪悪感・目的) 5歳から6歳未満

児童期(勤勉性対劣等感・有能感) 6歳から12歳未満

青年期(自我同一性対自我拡散性・忠誠心) 12歳以上

初期成年期(親密性対孤独・愛) 

成年期(生殖性対停滞・世話) 

成熟期(統合対絶望・受容)

である。小学生期は勤勉性を獲得する時期です。勤勉性とは学習や働くことであるでしょう。児童館や放課後児童クラブでは働くことで勤勉性を培うことが必要であると私は考えています。全ての活度は『働く・学ぶ・遊ぶ』ことが包含されていてユニバーサル的なものだと私は思います。活動の中に『働く・遊ぶ・学ぶ』のメリハリをつけることが必要です。働くは人のために動くですから、人の為になる活動をする。学ぶは真似るが語源ですから真摯に学ぶ。遊ぶはゆうですから、自由に活動することが大切と私は思います。

 C 具体的な活動

ボール運動遊びなどでは先に紹介した中あてやハンドベースなどがあると思います。

折り紙はアクション折り紙でやると喜ばれると思います。4年生以上の発達段階を考えるとカルテットなどのカード遊びも有用である。カプラなどのユニバーサルデザイン的なものも楽しいものです。

防災活動も楽しみながらいろいろなことを計画すると充実したものになるでしょう。避難所生活を仮定した『段ボール部屋』の中で暮らすなどもあるでしょう。

マテバシイ・松ぼっくり・スダジイ・落ち葉など自然物を使った工作も喜ばれるものです。

ダンスなどを取り入れて運動能力を高めているクラブもあります。合唱が好きなクラブなどもあります。地域の祭りに参加しているクラブもあります。

放課後児童クラブや児童館の活動は活動に制限はあまりないのです。支援員や子どもや地域の状況や環境に応じて豊かな発想で、楽で楽しいクラブ運営をしたいと私は思います。 

D 支援員の考え方

※ユングは『星の時間』との提案をしています。 Sternstunde・・星の時間・・というのは心理療法の中の言葉である。運命の一瞬というような大切な時はあるものである。同じコメント同じ問いかけも「時」を逃せばただの意見になるし、その時をつかめば人生の変容にもつながるというものである。

 セラピストは絶えざる「仮説構築」の努力と、セラピー内外に生じる「時」への「自由で、漂える関心・注意」、そして「時」を感じとった場合の「絶対的能動性」が要請されている。というものである。物事はいくつかの原理や原則や状況や環境が混沌として動いている。一つの原理で動いているわけではない。子どもたちをみていて(見ていて・観ていて・診ていて・視ていて)子どもに適切な言葉を適切な時に声かけをすることが必要なことがある。その言葉かけは激励である時もあれば、叱咤のときもある。褒めるときもあれば叱る時もある。微妙なタイミングで絶妙な言葉かけを探していくことが支援員等の仕事であると私は思う。どのような活動や働きかけが必要かは状況環境依存的なものである。状況環境依存的というのは状況や環境に流されるとのことではない。状況や環境を見極めて適切な『星の時間』のタイミングを見つけることであろうかと私は思う。

※子どもの遊びの発達過程には@見ている・A援助を受けて遊ぶ・B一人遊び・C並行遊び・D連合遊び・Eルールのある協力遊びとある。ピアジェは3歳未満までを感覚運動期・6歳未満までを前操作期・12歳未満までを具体的操作期と分類している。(12歳以上が形式的操作期)ピアジェの考えと江戸期の三つ心・六つ躾・九つ言葉・十二文・十五理の考え方は一致していると思われる。子どもの発達段階を考慮し、小学生期の対応が必要である。

※子どもを理解するには下側に立ってみる=understandすることが大切である。子どもをunderstandしてみると、子どもの行動予測が立つ。子どもの行動を予測することはハエ叩きの論理を使うことが出来る。(ディキンソン教授らの研究により、ハエをたたくのに適切な方法も判明した。「ハエの現在の場所をたたいてもダメ。ハエが逃げるべきと判断した方向の、ちょっと先の方を狙うべき」と同教授はアドバイスしている。)かけっこしてもかなわない小学生を相手にする場合は行動予測をきちんとしておくことが大切である。

※出来ることから定着させて習慣化させていくことが必要である。支援員や大人は子ども達にルールを守ってしっかり学習し、仲間と仲良く遊んでほしい・おやつの時などもしっかりとあいさつが出来るようにと思う。それらのことを一気に定着化することは難しい。まずは他人に迷惑をかけない・自傷行為をしないなどの安全管理が最優先である。挨拶が出来ないからとしつこく注意することが切れる原因になっているのなら、挨拶は最優先事項ではないのである。こう主張すると『一人の子どもに勝手にさせるとみんなが真似をする』という方々がいます。そんなことはありません。子どもたちはよくわかっているものです。しっかりと挨拶が出来る子どもは挨拶が出来ない子どもの真似をして悪くなることはほとんどありません。学習タイムに勉強をすることがストレスになっているのなら、勉強をさせないでマンガでも読ませるか、ゴロゴロさせておけばよいでしょう。『あの子だけずるい』と言われたら、『あなたも勉強しないで良いよ』と言ってあげればよいだけです。個々の子どもの発達段階を考えて、出来ないことは無理にさせないで、出来ることから習慣化(オートマチックに)させていくことが必要だと思います。まずは他人に迷惑をかけない・自分がけがをしないことを習慣化させることが大切です。習慣化できたら、次のステップに進めばよいと思います。

※子どもの潜在的能力には素晴らしいものがあるようです。大人になるにしたがって一定のものに特化するために消えていく能力もあるようです。障がいがあって特別の配慮が必要な子どもであるかどうか子ども達はかなりわかる能力を持っているものです。子どもが『○○ちゃんだけずるい』というのは支援員が依怙贔屓をしている場合か、『自分のことを注目してほしい』とのアピールだけのことが多いものです。昼食を一緒に食べれない子どもに別の時間に食べさせたら『○○ちゃんだけずるい』と言われ、『あなたも別に食べる?』と聴くと『やっぱりいいです』というものです。3歳児で赤ちゃん返りが激しいとのお母さんの相談を受けました。『妊娠しているのでは?』『してました。』みたいなこともあるのです。

※男女共生であることと、男女の性差があることを配慮することが必要である。放課後児童クラブが高学年を受け入れることになったので、高学年女子や男子が入ってくることになった。男性支援員も必要となってきている。同時に男女の性差を考えた支援員間の協力した仕事をすることが必要となる。

※小学生の発達段階を考慮して、子どもたちの自主性のみに依拠した活動をしない。子どもたちの自主性を大切にすることは必要である。この時期の子どもたちに必要なことはいくつかの選択肢を用意してその中で自由に選択し、創造性を培うことである。『折り紙をやりますが、赤・青・黄色のどの色が良いか?』のような選択肢を考えさせることです。『自由時間です。みんな何をしたいかな。多数決にしましょう。』みたいなやり方はあまり上手くいかないものです。基本的にやることを支援員が決定して、その中で選択肢を増やすことです。


 □子どもの発達段階