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                                       取材・イラスト 山口礼子

 

社会福祉法人新潟市社会事業協会、児童厚生施設「有明児童センター」の児童厚生員、田中純一先生は、20年以上学童の健全育成に携わっておられます。少子化が進み、子どもたちが安心して遊ぶことのできる環境が整っていない現代において、異年齢、異世代の交流があり、子どもたちが安全にのびのび遊ぶことのできる「地域に開かれた児童センター」としてのあり方やその中身について、お話を伺ってきました。

児童センターの概要

有明児童センターは、昭和55年4月に設立され今年で24年目になります。現在の登録児童数は、放課後児童クラブ(1〜3年生)86名、ジュニアクラブ(4〜6年生)55名、サッカークラブ、ローラースケートクラブ、土曜日クラブ等のクラブ員が50〜80名。その他に自由来館の子どもたちがいます。有明児童センターは、社会福祉法人新潟市社会事業協会という民間の福祉施設で、新潟市児童福祉課から委託を受けて行っている青山児童クラブの委託事業と、児童センターが独自に行っているサッカークラブ、ローラースケートクラブ、中高生クラブ、土曜日クラブ、親子で遊びましょうや親子サークル等の自主事業で運営されています。 

健全育成

以前NHKの朝の連続ドラマの中でも「学童保育」という言葉が使われていて、「学童保育」という言葉が定着しているように思います。ただ、保育というのを分析してみると、保護育成なのですね。私の考えからいくと、かけっこして間に合わない子は保護育成の対象ではない。そういったことからも、小学校1年生以上については、保護育成ではなく健全育成が大事であろうと考えています。健全育成というのは、自ら考え健やかに育つという意味があり、子ども同士のぶつかり合いの中で切磋琢磨して伸びていくというものです。ですから、そういう場を保証することが健全育成の概念からは大切なのですね。私達の仕事は、子どもたちが安心して遊べる環境作りと遊びの内容を増やすことなのです。そのためには、子どもたちに守ってもらわなければならない枠があります。一番守らなければならないものは、「人の命を守る」ことです。後遺症の残るような人を傷つけるような事をしてはいけない。これが一番大きな枠です。ニ番目は、「みんなの迷惑になるようなことをしてはいけない」こと。三番目は、「みんなで仲良く楽しく遊ぶ」ことだと考えています。一般的に枠を大きくしていくと自由が小さくなると考えがちだけれど、それはまったく反対で、自由とは統制だと思うのです。

異年齢の子どもたち

基本的に学校というのは学習をする場所なので、同一年齢のほうが準備性が一緒で効率的です。そのため、どうしても競争になってしまいがちなのだけれども、異年齢であれば競争する必要がないから年齢の上の子は下の子に対して思いやりをもつことができ、下の子は上の子に対してかなわないこともあるのだなっていう我慢の仕方を覚えることができるのですね。

 

昔の子どもたちと今の子どもたち

23年前から考えてみると、当時はまだ地域が比較的安全で、そこに住む子どもの数が多く、いとこや親戚がたくさんいたので、そこでのぶつかりあいがあったりした。ところが、10年くらい前から少子化が進み、いとこの数が減り、それに付随するかのごとく不登校とか学級崩壊とかの問題が出始めてきた。しかも、日本の社会そのものが安全でなくなったということで、地域でのふれあいがなくなってきてしまった。子どもの周りに大人がいっぱいで子ども同士の切磋琢磨がないというのは、大変な時期であろうと思われます。「すぐキレる子」、自分の欲求がうまく実現できなくても我慢できる力が低い「低欲求不満耐性児童」、「傷つけやすく、傷つけられやすい」子どもたちが増えてきました。対処の仕方としては、結論から言えば新しいコミュニティを作っていくことです。異年齢、異世代の子どもたち、または同年齢の子どもたちが、時にはケンカをし時には仲良くなれる空間というものを作ることが大切なのではないかと思います。それは、幼児の頃から始まっていて、家族や親族以外の新しいコミュニティを作って、そこで子ども同士、親同士が切磋琢磨されることによって成長していけることがねらいですね。有明児童センターは、一つのそういうコミュニティでもあるわけです。

遊びの発達段階

遊びの発達段階として、援助遊び、一人遊び、並行遊び、集団遊びという段階があります。見たり聞いたりしている段階から、ちょっと参加する段階から、主体的に参加するという段階です。こういうところへ連れてくると、とかく「さぁ、みんなと仲良く遊びなさい」と言ってしまいがちだけれど、子どもは絶対嫌がります。まず、その子がどのくらいの段階にいるのかを見極める。他の人が楽しく遊んでいる様子をみて、案外集団って怖いものじゃなくて楽しそうだなってちょっとちょっかい出してみて離れ、そういうことの繰り返しの中で最終的に遊べるようになるわけです。ここで大切なことは、自分を受容してくれる先生なり親なりが居るということです。また、幼稚園の年長位から小学校の4年生までの間は、本能的に皆がやっていることを一緒にやりたいと思う年頃なのですね。群れ遊びを好む時代ともいいますが、その期間に群れ遊びができなかった子は、小学校5、6年生になっても、もう一回させないとダメです。充分群れ遊びをした子は、高学年になった頃から一つの事、自分の興味のあるものにぐっと集中する時期がくるのものなのです。

我慢ができない子ども

我慢ができないもう一つの理由というのは、停電がなくなったことだと思っています(笑)。電気が普及して、食べ物が常にあって、我慢をしなくてもいい社会になってしまったと誤解していることです。私は、そういう意味では、自然とのふれあいをもつことが大切であろうと考えています。自然というのは、決して自分に合わせてくれないから。例えば、いちごが食べたくて採りに行ったら、いちごはもう終わっていて、食べられなくて残念だったね、とか。そうすると我慢ができる。一見我慢をしなくてもいいような社会であるという誤解を取り除いて、人として我慢をしなくちゃならないこともあるのだ、ということをしっかりと認識させることも、しつけの一つの問題であるように思います。

 

 

子どもの時間

子どもの時間の感じ方っていうのは、大人の3倍であると思っています。朝昼晩を子どもの時間に置き換えると子どもにとって1日は3日になるわけです。だから、例えば夕方子どもが帰ってきて、「もう学校には行きたくない」って言ったとしたら、「そうだね、そうだね」って言っておけばいいんです。それで、子どもは「お母さんは僕のこと許容してくれたのだな」って納得し、安心してぐっすり眠ることができる。夜ぐっすり眠れば、次の朝は元気に学校へ行けるわけです。また、子どものリズムは大人の3倍とも言えます。万歩計をつければ1日3万歩ぐらい歩きます。常にきょろきょろしている。それを発散させることが大切です。動(動くこと)があってはじめて静(集中すること)があるわけだから、夜はぐっすり眠れるのです。動くことを3倍の速度ですからコテッと寝るのですね。動と静の組み合わせ、3分の2動かして、3分の1集中させる。

親として・・・

親の背中をみて子は育つという言葉がありますが、コミュニティがないところに親の背中をみて子は育つということは難しいので、親としてできることはそういう仲間作りをし、いっぱいの仲間作りの中で親族に代わるものを見つけていくことが大切であろうと思います。それと、3歳までは母親の手の中で子を育てたほうが良いという昔のことわざがありますが、「3歳までは母親の責任だよ」という言葉の呪縛にあい、かえってストレスになってしまうケースが多々あるようです。実際乳児にとっても人と人とのふれあいが必要であると思うので、そういうところに出て行って仲間と思いっきり発散させることが大切であろうと思います。母親も、今の時代の中での子育てって非常にイライラするものなので、イライラする自分をおかしいと思わないで、イライラして当たり前と居直ることができると、もう少し子育ても楽になっていくのではないかなと思います。

 

田中純一氏プロフィール 1951年1月23日生まれ。教育学部卒。小学校教諭免許、児童健全育成指導士の資格を持つ。現在は、有明児童センターの勤務のほかに、福祉専門学校や大学の非常勤講師として活躍されている。    子どもの遊びを考えるHP http://www.na.rim.or.jp/~tomoyan/

 

取材を終えて・・・子どもが子どもらしくいられるのは、ほんのいっとき。生き生きと遊び仲間と戯れる子どもたちを見て、この時期に、遊びを通して育ち合い学び合い成長していく子どもたちを眩しく感じました。また、有明児童センターでは、子どもたちのことを考えて除草剤は一切使用せず、環境整備、安全管理にも力を入れておられます。その裏には、健全で豊かな子どもたちの育ちを願う大人たちの願いと職員の先生方のたゆまぬ努力があってのことなのだと痛感いたしました。

 

社会福祉法人新潟市社会事業協会 児童厚生施設 有明児童センター

住所 〒950-2071 新潟市西有明町1番80号

tel/fax 025-267-7311  E-mail tomoyan.ariake@h8.dion.ne.jp