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有明児童センター児童厚生員

児童健全育成指導士 田中純一

 最近ちょっとしたことで切れてしまう子ども、粗暴な子ども、乱暴な子どもが増加している。同時にひ弱でいじめられやすい子どもも多い。少子化第2期(少子化時代の大人が親になった時代)と私は言っているが、おじさん・おばさんもいないので親族が集まっても子どもがいない。いとこが極端に少なくなった時代となった。大人の過保護のために子どもは切磋琢磨されることがなく、傷つきやすく傷つけられやすい子どもが増加しているのである。

 この状況下で児童館・児童クラブの職員は泣く子・喚く子・物を投げつける子ども・「ウザイ」「しんじまえ」「ブス」「デブ」などの暴言をはく子ども・いなくなる子ども・盗みをする子ども・落ち着くことができないでいつもうろうろする子ども・何かと言いつけに来る子ども・石を投げたり棒を振り回す子ども・噛み付く子ども・おどおどしている子どもなど問題行動を抱えた子どもを相手にすることが多くなってきた。現場は笑顔でニコニコなんかやっていられないで、叱ったり、注意したり,怒ったり、私の顔は怒り顔と思うほどである。こうした中での子どもの指導を今回は考えてみたい。
 

 

 子どもと遊び

 児童館・児童クラブで仕事をしていて、あるときにきづいた。それは子どもの視線よりももう一つ低い視線で見ないと子どもの姿は分からないということである。つまり理解するということはunderstandということなのである。子どもを理解するために文字通りunderstandしていたら発見ができた。その発見とは子どもにとって遊びとはケンカなのである。群れ遊びを好む保育園の年中児童から小学校3年生くらいまでの子どもはくっついてはケンカをし、また離れてはまたくっつきケンカをする。このケンカの過程の中で互いの人間関係を学んでいくのである。つまりケンカをルールのあるケンカに変容させていくのである。遊びとはその意味でルールのあるケンカということができるのではないかとの発見である。

 考えてみれば相撲は転ばしあいだし、野球は棒でボールを殴るようなものだ。ドッジボールはボールのぶつけ合い、だるまさんが転んだはあらさがし、水鉄砲遊びは水のかけ合い、じゃんけん遊びはやつけあいということもできる。手つなぎオニはオニ増やし、陣取りゲームは陣地とり合戦、将棋は駒の取り合いと王様殺し、七並べは意地悪しあいともいえる。

折り紙や絵を描く、歌を歌うような表現遊びはケンカではないのではとの意見もあるであろう。でも考えてみると折り紙で自分の思い通りに折れなくてイライラして紙をめちゃくちゃにすることがある。表現遊びなどはまさに自己との格闘であるといえるからまさに自己とのケンカである。つまり遊びとはルールのあるケンカなのである。

 子どもたちがケンカをしたら、「ケンカをしないで仲良く遊びなさい」と大人はよく言うことがある。遊びをルールのあるケンカと考えるとケンカをしないことはできないのである。現場にいる職員なら「ケンカをしないで」ということが実は意味のないことであることを実感していることであろう。そこでは初めからケンカを前提に子どもたちと接する方法を考える必要が出てきたのである。

 子どもの遊びはルールあるケンカととらえると、生命を傷つけない・後遺症を残さない・人格を傷つけない限り子ども同士のケンカを我慢してみることが必要である。手を出さない目を離さないことが子どもの遊びの援助において大切であるといわれている。最近の少子化第2世代においては、両親や祖父母が手の出しすぎである。せっかくの子ども同士の切磋琢磨の機会を奪い取るほど口と手が出ている。またその反対に自分の子どもから目を離していて。子どもがその子自身が危険になったり、他人を傷つけようとしていても平気な親がいる。「手を出さない・目を離さない」という考えを広め、小さい乳幼児の時期からの仲間作りをすることが大切である。

 子どもが危険な行為をした場合一生懸命『石を投げたら危ないでしょ』などと言い聞かせている親が多い。子どもとくに男の子どもは本能的に石があれば投げ、棒があれば振り回し、穴を掘り、じゅうたんはむしるように遺伝子ができているように子どもをunderstandしてみていると感じる。親が怒っても効き目がない。言って聞かせても分からないから叩こうとする。すると親が近づいてきただけで反射的に逃げる。この悪循環は断つ必要があるように思う。子どもが明らかに危険な行為をしたら、これはチャンスと思ってにこやかに近づき、子どもの目線の下まで下がって「この石を投げてて悪い手。」といって痛いほどに握り締めてあげましょう。そのあと「でもあなたは良い子よ」とやってあげれば子どもは次第に危険な行為をしなくなるものです。手を出さないで目を離さないでおいて、これをきちんとやるのはただ言葉で説得するよりは効果があると思います。もちろん子どもの中には話せば分かる子どももいますが、それは他の子どもが叱られるのをしっかり見て学習しているからです。悪いことをやってもしっかり叱られないことを(身体で叱られるの意味)学習すると粗暴な行為がどこかで爆発することがあるものです。

 また石を投げる行為をボールのキャッチボールへ、棒を振り回すのはバッテングに、穴を掘るのは砂遊びへとルールあるケンカ=遊びに発展させることが必要であろう。

 

 遊びとはルールあるケンカですから、やはり適度の身体を動かし、暴力的な衝動をうまく発散させる意義も子どもの遊びにはあるのです。こうした適度な発散をさせるためには既存の遊びをそのままやるのではなく、うまい具合の場面場面に応じた遊び方の開発をしていくことが必要と思います。たとえば相撲で言えば1年生は5人組・2年生は3人組・3年生は2人組・4年以上は一人でやる。勝ち抜き戦で強い人が負けるまで次々とかかっていくようにする。相撲の弱い子どもでもみんなと一緒にやれば勝てて楽しい。強い子どもは次々と戦うからまた楽しいし、発散もできる。チョキンサの原則も大事である。相撲をやる過程の中で蹴ったり、叩いたり、髪をひっぱたりする子どももいる。「ちょっとストップ。今相撲の最中にキックしたけどそれはダメ」ときちんとアドバイアス。そして「さあ続けよう」とさっと再開するというものである。この間30秒あればよい。これを私は遊びにおけるちょきんさの原則といっている。ちょきんさの原則を繰り返すことにより、遊びのルールが臨機応変に可変的に作られ、しかも楽しく遊ぶことができるようになるのである。最初にしっかりルールを教えておくという意見もあるけれど、小学校低学年の子どもは二つまでしか聞けないのである。ワンは1ツーは2だけれどスリーはスライスの語源でたくさんという意味だそうです。スリーまでルールを聞くのはたくさんになってしまうのです。一つか二つの遊びのルールを教えてチョキンサを使って次第に可変的に遊びのルールを伝えていくと子どもは遊びながら発散も十分にできるものです。

 引っ張り出しオニの場合で考えてみよう。まず最初にみんなを丸い円の中に入れて座らせる。私がオニとなり子どもを引っ張り出す。私と引っ張り出されて子どもが協力してまた引っ張り出す。次第に外に出る子どもが増えてくる。ここら辺で出されるのが嫌で立ち上がって逃げようとしたり、足でキックをする子どもが出てくる。そこですかさずストップし、「立ったり、足でキックしてはいけない」とアドバイスし、さっと再開する。引っ張る子どもの中には服や髪の毛をひっぱたりする子どもが出てくる。今度は「髪や服をひっぱてはいけない」と伝え、さっと再開する。外の人数が多くなると「片足を入れても良いだけでなく、何人かで協力して引っ張ってよいことを伝える。みんなが捕まり、今度は鬼を変える。また同じように適時危険な行為をチョキンサの原則で指導しながら引っ張り出しオニ遊びの定着を図っていく。
 
 遊びとケンカの段階
 遊びをルールあるケンカだとすると、当然小ゲンカ・中ゲンカ・大ゲンカがその中に入ってくる。多少の小競り合い程度の小ゲンカはありうることである。だから小ゲンカ程度ならワーカーは我慢をしてみていることが必要である。それがかなりエスカレートして、中ゲンカ(相手のことを誹謗中傷する・いじめにつながる・跡のできるような叩き方や蹴り方をする)ようになったら、注意を入れる・大ゲンカ(相手の人格を傷つける・後遺症を残すようなケンカ)になるようなら遊びそのものを中断する。大ゲンカをさせない・中ゲンカは注意をきちんと入れる。多少の小ゲンカは見守る。そして子ども同士のふれあいが子ども同士の切磋琢磨へとつながり、ルールあるケンカ=遊びへと発展するように働きかけることが大事ではないかと私は思っています。

 

 子どもの遊びと集団遊びの指導

 子どもの遊びは通常5人から10人くらいのものである。児童館・児童クラブの現場では5人や10人を相手にいていることができない。子どもの人数が多いからである。そこで私は子ども集団が日常的に行う遊びとワーカーが集団指導する遊びとうまい組み合わせを考えて行っている。30人〜50人の集団遊びと5人〜10人の子どもの日常遊びの有機的な関連をつけるということである。

 王様ジャンケンをやる場合で説明しよう。

 王様ジャンケンを40人で行う。こじきを8人くらいつけて、30人の人と1人の王様で次々とジャンケンをして王様ジャンケンを楽しむのである。その結果この遊びの後に子どもたちが5人〜10人の普通の王様ジャンケンをやることになる。

 最近の子どもは負けることが嫌いである。負けることへの欲求不満耐性が低い。そこで缶けりなどでもファイブパワーで50人10グループで行う。1人がケントされると残りの4人も出てくる。こうしたことで「ケントされてもみんなで出てくれば楽しい」ということになる。ケントされたことへのうらみもある。こんなときチョキンサの原則で注意しておく。この繰り返しで缶けりのルールが分かるようになり、5人〜10人での缶けりを自分達で遊ぶようになる。