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児童館・児童クラブの活動を大きく分けるとケースワーク・グループワーク・コミュニティーワークに分けることができる。それぞれ個別援助活動・集団援助活動・地域社会援助活動ということになる。これらは互いに有機的な関連を持ちながら存在している。児童館・児童クラブにおけるケースワーク(通称ソーシャルを略す)についての手法については、まだまだ児童館独自の手法が確立されていないように私は考える。ここでは旧全国児童館連合会児童研究会編「社会福祉技術総論」よりケースワークについて引用し、その後児童館・児童クラブにおけるケースワークのあり方について検討をしたい。

 

乱暴、非行、不登校(登校拒否)や保育施設や学校で物を言わない(場面緘黙)、そのほか社会生活をする上で、問題や障害をもった人々を個別的に援助する方法の一つとしてソーシャル・ケースワーク(通称ソーシャルを略す)がある。そしてケースワーク・サービスを提供する専門職がケースワーカーであり、児相の児童福祉司や福祉事務所の社会福祉主事などはケースワーカーである。

(1)        ケースワークの定義

ケースワークはソーシャルワークの方法として最初に体系化されたものであり、ソーシャルワークの基本的方法と考えられている。わが国にその方法が伝えられたとき、当時「個別処遇」とか「個別社会事業」などと訳されていたが、原語の意味を正確に伝えるには不十分であり、ケースワークという原語が定着した。

(2)        ケースワークの特質

@    対象者が自ら自分の問題や困難な状況を解決できるように対象者の能力と社会資源を活用できるよう、個別的に援助する。

A    対象者が社会環境の中でよりよい適応をはかり、対象者が主体的に生活できるように、さらにはパーソナリティーの豊かな成長を目指すものである。

B    専門的な対人関係である対象者とワーカー関係を基盤としてすすめられるものである。

3 ソーシャル・ケースワークの原則

@    個別化

対象者の問題、個別性を認識・理解すること。例のケースではなく、対象者一人ひとりの特性を認め、個別的な援助をなすこと

A    意図的な感情表現

対象者が自分自身の感情を、とくに憎しみとか敵意などの否定的感情を何ら批判を加えないで、自由に表現させること。

B    統御された情緒的関与

ケースワーカーが対象者の感情を敏感に受け止め、適切な反応(応答)をなすこと、ケースワーカーは自分の個人的な感情をケースワーク関係にもちこまないこと。

C    受容

現にあるがままの対象者を受け入れること、それは対象者が問題を発現させるに至った感情を理解し、情緒的レベルで受け止めること。

D    非審判的態度

ケースワーカーは個人的価値観や善悪の判断で対象者を評価したり、批判しないこと。

E    対象者の自己決定

7原則の中心的原則である。対象者が自分の意志と力で自分のすることを選択し、決定できるようケースワーカーは援助する。

F    秘密保持

対象者に関する情報は他の誰にももらしてはいけない。これはケースワーカーの専門職としての職業倫理である。

 

これらの7原則は、それぞれに独立したものではなく、相互に関連し、相補いあっている。

 

児童館・児童クラブのおけるケースワークのあり方

児童館・児童クラブの職員は直接的にはケースワークの専門職ではない。ケースワークの基本的なことを理解したうえで、児童館・児童クラブにおけるケースワーク的手法を開発するとともに、グループワークとの密接な関連性をもちながら実施することが必要である。「社会福祉技術総論」での実践例を紹介し、また私自身の経験も交えながら、児童館・児童クラブのケースワークについて考えてみよう。

事例(社会福祉技術援助総論P68より)

A男(小・5)は、盗み、学校のずる休み、夜遊びの問題をもつ。

 家庭的には、母(40歳、無職)弟(小・4、小・1)の4人家族である。生活保護を受けている。

 母は盗みぐせをもち、そのために児童福祉施設入所の経験をもっている。家でぶらぶらしており、外出が多く、そのまま帰宅しないこともしばしばであり、子どもたちを放任している。

 A男は母の不在勝ちのためか、夜遅くまで外で遊び、そのような時には翌日学校をずる休みをすることも多い。

O児童館には3歳頃から出入りしており、現在週2〜3回来館している。

 

ケースワークの過程

ケースワークのはじまり

 A男はO児童館を利用し始めてから8年になるが、高学年になるにつれ、夜遊びや学校のずる休みが目立つようになっている。A男のもつ問題をみれば、これらの問題解決、改善のためには強力な専門的援助が必要である。しかしながら母親は児相の援助を希望しておらず、M児童厚生員(短大・保育科卒業、養護施設に7年勤務の後,現職として6年を経過)がケースワークの視点からA男に対応することとなる。

処遇の目標

 A男はスポーツを得意とするので、卓球などのスポーツをとおして仲間との関係作りをはかり、親睦を深めるように留意し、A男に自信をもたせ、それを強化していくこと。

 来館時に個別的なかかわりをもつ工夫をする(早目に来館する場合、一人残っている場合をつくれるように工夫)。

 

A男との個別的援助を行う一方、彼の家庭が生活保護を受給中で福祉事務所の社会福祉主事の援助を受けていることから、社会福祉主事および小学校担任と定期的に連絡をとり合い、相互に協力できる態勢をつくる。

A男の問題解決のためには,児相による援助が最も適切であると考えられているが、母親が児相の援助を拒否している現状である。現在のところ母親に対する助言などの援助は社会福祉主事が行っているが、母親を援助することは困難な様子である。関係者は相当長期間の援助が必要であろうと考えている。

 

 A男ケースのように多問題家族の援助においては、関係福祉・専門機関(学校を含む)や施設による長期的援助を必要とする。そしてこの場合家族中心ケースワークを行うことが必要である。A男ケースでは児相との連携。共働(ママ)が必要と考えられるが、現状ではM児童厚生員の選択した援助のあり方が適当であろう。

 

 以上が「社会福祉技術総論」での実践例である。

 私自身は児童館・児童クラブにおけるケースワークで留意しなくてはいけないこととして以下のことを考えている。

@     乱暴、非行、不登校(登校拒否)や保育施設や学校で物を言わない(場面緘黙)、そのほか社会生活をする上で、問題や障害をもった人々を相手にすることが児童館・児童クラブでも多々ある。そのときにあまりにも自分の力で何とかやろうと無理をすると失敗することが多いように思う。自分ひとりの能力も十分でないし、地域の連携もうまくいっていないことも多い。できないことはできない。できることをしっかりやるというのが良いように思う。頑張って子どもを矯正してあげようなどとやった挙句にうまくいかなくなって「あの子は本当に悪い子だ」「あの子は注意欠陥症候群だ」「情緒障害児だ」「自閉症だ」などとレッテル張りになってしまうことがあるからです。安易なレッテル張りをしないで、自分のできることはここまでと考えてやれることをやるというのも大切だと思います。

こうした考え方ができるようになると、自分ができなくても他の人ができるかもしれない。自分が相性が合わなくても他の人が合うかもしれないと思うことができます。そして一人の子どもを多数の人の目でみることができるようになります。こうして自分ひとりの狭い考えから多くの考えを知ることができるようになります。

A     児童館・児童クラブでのグループワーク活動がケースワークを必要とされる子どもを仲間に入れることのできる許容力をもつように常に活動していること。

   児童館・児童クラブのクラブ活動等のグループワーク活動は排他性を排除し、いつも誰でも仲間に入れることのできるような仲間つくりを常に心がけておくことが必要である。子どもは子ども同士の間で切磋琢磨されていくものである。知的障害やうまく遊べない子ども・不登校気味の子どもくらいの子どもは児童館・児童クラブでうまく仲間に入れてあげることのできる雰囲気つくりを作るようにグループワーカーでもある児童館・児童クラブ職員は心がけることが必要である。このための手法として「名前の要らない遊びを増やす」「ツーパワー・スリーパワー遊びで遊びを伝え合う」「排他性を排除する」「検定表を作らない」「異年齢異世代が同時に一緒に遊べる遊びをうまく活用する」「表現遊びを増やす」「自然に親しむ活動を増やす」「乳幼児とのふれあいを多くする」などの活動が必要である。

B     関係諸機関との連携をはかる。主任児童委員・保育園・幼稚園・保健所・小中学校・駄菓子やさん・近所のおばさん・近所のおじさんからなどの情報を仕入れることが必要である。専門職の人よりも一般常識を持った近所の人のほうが情報をつかんでいるものである。もちろん子どもからの情報も貴重である。

C     子どもの愚痴を聞いてやることも大事である。粗暴・自己中心・トラブルメーカーの子どもはすぐに告げ口に来る。自分から手を出しておいて「00ちゃんが叩いた」などと言いつけにくるのである。愚痴というのは愚かで病に満ちた知識だから大いに愚痴っていただいて聞いてあげてでも本気にしないことも大切である。多動傾向のある子どもも一緒で本当に邪魔にならない限りにやりたいようにやらせておくことも必要ではないかと思う。児童館・児童クラブでは「絶対にこれをやらなければいけない」というのはないのだから、その子どものレディネスに合わないようなことは無理をしてやらせる必要はないと私は思う。

D     すぐに切れる子どものケースワーク

   最近ちょっとしたことですぐに切れてしまう子どもが増加している。いわゆる欲求不満耐性(欲求不満を我慢する力)が低い低欲求不満耐性児童である。低欲求不満耐性児童は普通の児童が我慢できる程度のちょっとしたトラブルでもかっとなって遊びを中断していなくなったり、他人に暴力を振るったり、泣いたり喚いたりすることが多い。基本的には他の人に暴力を振るったり、物を壊したり、自傷行為をしなければ、多少喚こうが泣こうが無視しておくのが良いと思う。泣いて喚いて注目を集めたいという安易な考えは通用しないことを本人に分からせる必要がある。もちろんグループ全体の中では了解事項となっていることが前提である。暴力を振るったり、自傷行為をする場合はそれほどイヤならやらなても良いことを教える。こうして自分のできることをじっくりやることが大事だとわかってくると少しづつ切れることが少なくなる。そのプロセスにはいろいろなことがあって一筋縄でいくものではないのですが。案外すぐに切れる子どものほうが「良い子」よりも児童館・児童クラブ運営の中核となって、小さい低欲求不満耐性児童の面倒を見てくれることがあるものです。

E    不登校児のケースワーク

   児童館・児童クラブではとくにこれをやらなければいけないということがありません。無理をしないで本人のしたいことが出るまでじっくり待ってやることが大事のようです。保育園の年中児〜小学校3年生位までの子どもは本能的に群れて遊ぶのことが好きな時代です。不登校の子どもはある意味ではあまりにもみんなとなかよく遊びたい欲求が強すぎて、他の人よりうまくやりたいと思いすぎ、そのギャップのために逆にみんなの中に入れないことが多いようです。あさらずに遊びの楽しさが感じるような仲間と遊びを用意してじっくり待てばあるとき遊び始めることが多いものです。そのためにはどんな子どもでも仲間にいれることのできる親和的な仲間作りを意図的にしておくことが必要と思います。

F    知的障害児のケースワーク

   知的障害は学習の障害になっても遊びの障害にはならないと私は思いま     す。ツーパワー・スリーパワー等の手法を使えばゲーム進行の上でもその子のいるグループのマイナス要因にもなりません。知的障害児や乳幼児を仲間に入れることができないような児童館・児童クラブにおけるグループワークはグループワークでないことになると私は思います。まさに知的障害児は試金石の存在だと思います。

G    自閉症児や注意欠陥症候群といわれる子どもの場合

   第1に安易な決め付けをしないことが大事だと思います。できないことを無理にやらされることによってそうなっていることもあるからです。児童館・児童クラブでは絶対にやらなければならないことはないのですから、そうした規制を全部はずしてまだ特異な行動をする場合には専門機関の意見を聞くことも必要と思います。特異な行動であっても他人の迷惑でない、飛び出さない自傷行為をしないのであれば、見守ることも大切と思います。危険な行為をする場合はしっかりと職員が一人ついてその子どもの行動パターンを観察し、対処の方法を探すことが必要になると思います。

 

 次に私の抱えた事例について記してみたいと思います。

  B君はC小学校に通う小学校3年生男子である。C小学校からは2Kmほど離れたD地域に住んでいるが、母親の勤務地の関係でC小学校に鉱区外変更し、Cひまわりクラブ(放課後児童健全育成事業である児童クラブ)に1年生のときより通所している。兄弟は保育園の年中児の弟がいて、両親とも働きで4人家族である。両親は子育てには比較的無関心で、欲しいものは変え与えられているが、子どもの行動には比較的無頓着である。

  B君の問題行動

  B君は運動能力は優れているが、知的には送れており、授業についていくのに困難な点があり、教室の中で授業中にわがままな行動が多く、叱られることが多いという。2年生から3年生になるときにクラス替えがあり担任が交代した。4月下旬より学校及びひまわりクラブにおいて場所を選ばすおしっこやウンチをしてそのままにしておくようになった。どのように援助したら良いかとの相談を6月初旬にCひまわりの指導員から受けたのがケースワークのきっかけである。

 

  6月に2回・7月に2回Cひまわりクラブに遊びに出かけ、B君の様子を観察し、対処の方法を考えることにした。

  Cひまわりクラブは在籍数が47人で3人の職員配当である。そこで3人のうちの1人はB君が来たときには専属となり、B君と一緒に行動することを提案した。一見特別扱いでないかという人もいるが、このような問題行動を起こす場合は必ず1人をつけることが大切であると私は考えている。1人つけないで目を放した隙におしっこやウンチをされたのでは他の子どもの衛生・安全管理に重大な影響を及ぼすからである。ウンチ・おしっこをされてあたふたするよりもされないように1人つけることが能率的でB君のためにも他の人のためにもなる。(2人で100人見ていてもこのような問題行動の場合、1人はその子どもをもう一人が他の子どもを見ることが大切と私は思う。)このことを確認し、B君がきたら、1人が必ず心温かく迎えてあげて、ウンチ・おしっこ等をしないように目を配ることを確認した。

  この日、B君はクラブが終わる5時30分頃になって自転車に乗ってやってきた。一回学校から家に戻り、やってきたのである。こういうときは下手な注意は必要ない。「B君よく来たね。おやつを食べよう」「今日はおもしろい紙飛行機をやったのだけれどやってみない」「イヤだ」「そういわないでお付き合いしてよ」こんな会話の中でよく飛ぶ紙飛行機を飛ばして見せる。B君は目を輝かせてくる。15分くらいひまわりの職員とB君と私が一緒に飛行機遊びをした。「来週また来るから、水曜日にはひまわりに来てね。」「しょがない来てやるよ」「B君車に気をつけて帰ってね。」

 

  翌週フリスビー作りをやりに出かけた。フリスビーを作っているとB君が学校から直接ひまわりクラブにやってきた。この一週間B君は3回くらい通所したが、職員が常に声かけしているので、ウンチやおしっこ等の問題行動は起こしていないが、他の子どもとの遊びの中でのトラブルは多いとのことであった。

 「B君。フリスビーを作らないか」「イヤだよ」すかさずO先生が「B君車の絵が得意だったよね。ぜひ描いて欲しいのだけれど」「しかたない作ってやるよ」

  フリスビーを作って他の子どもと遊びに行ったB君が烈火のごとく怒って帰ってきた。「Kのやろうが俺のフリスビーを壊した」K君がわざとやったのではないのだが、ちょっとしたことで切れてしまうのである。すかさず「B君フリスビーにテープを付けたらおもしろいんじゃない」修繕を兼ね、テープをつけてやるとかっこよくなり、大喜びとなる。他の子どもも真似を始め、B君も自慢げであった。

 

  その後ツーパワースリーパワー陣取りゲームなどを活用し、B君だけではなく、Cひまわりクラブ全体でみんなとなかよく楽しく遊ぶ手法を提案し、実践して帰った。

 

  2週置いてまたCひまわりクラブに出かけた。彼は運動能力がとても優れていたので、その能力を活かしてジュニア体操教室を紹介した。保護者ともジュニア体操教室の紹介の過程でCひまわりクラブと話し合いがなされ、学校でも比較的良好に進んでいるとのことであった。

 

 上記の事例は比較的にうまくいったケースである。Cひまわりクラブの子どもたちが日ごろみんな仲間を大切にし、排他的にならないで遊びの輪の中に入れる仲間作りができていたことが大きな要因であったと思う。児童館・児童クラブにおけるケースワークは日ごろのグループワークの成果が試されるということなのだと私は考えている。